47-23.二人の未来
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
47-23.二人の未来
「契約は破棄出来ないの?」
オコが尋ねる。
「契約書見せて」
社長が言う。
「これです。詳細はチェックしたつもりなんだけど」
マリスが空中から巻物を出現させる。
「やっぱりあった。メンテナンス契約。1年ね」
延長オプションはない様なので、基本契約の保証期間だけらしい。
「不良品があった場合の補償はどうなってる?」
「商品の消費期限が半年なので、もう補償の必要はないはずです」
「まあそれは人間社会の理屈だね。初期不良なのか、遠隔操作によって使用不可になったのか、判断は司法に委ねられるが、魔女側の裁判官は魔女だからね」
師匠が言う。
あー…。
当然マリスだけが逃げても、配偶者のミグにも追求は及ぶだろう。
「つまり二人は魔女の手の届かない所にフェードアウトする必要があるのね。恋の逃避行…」
オコがロマンス脳でうっとり言う。
そんな場所はあるだろうか?
「聖子ちゃんのとこかしらねえ」
「あそこには四天王がいるけど、どの神界もかなりの攻撃にさらされるだろう。二人を防御するまでの余力があるかどうか?」
「後は神殿かしらねえ?」
「ラグナロク開始後、ここは避難所になります。敵味方関係なく、傷病者の手当を行う場所に」
前菜を持ってきたロクが言った。
敵味方関係なく、というのは神官らしいが、魔族も搬入されるとなると、二人を確保するために魔女の密命を受けて、魔族がわざと怪我をして入り込む可能性もある。
「やはり逃げずに対峙するべきだと思うんですよ」
マリスが青年らしい直情さで訴える。
『そんな所で命を落とすのは馬鹿げている。若者よ苦難が欲しいか?このような戦さより、永遠の試練がお前たちを待っているぞ』
突然皆の頭の中に、痛いほど強力な念話が響く。
「誰だ?」
「誰?」
皆ちょっと狼狽えている。
俺には少し覚えがある。
その時は俺はスミティか?と思ったが、声の質が似ている。
「幼な子の君?」
ミグルディアが、誰も聞いたことのない名前を告げる。
誰も聞いた事がない。
と言うことは、十中八九名付けの聖女の命名だ。
『素敵な名前をありがとう。ミグルディアが前に付けてくれた名前は、ちょっと紛らわしかったからね』
「レムリアくんなの?」
ミグが呟く。
『うん。あ!お父さんがミルクを作ってくれたから、切るね』
さっきの威厳たっぷりな預言者口調と、今の幼児口調。同じ人格とは思えないが、どっちもレムリア君だ。
「なんかいきなりじいさんになった」
可愛い弟分くらいに思っていたステルが、ちょっと残念そうだ。
だがマーリンが言っていた、この子のこれからを考えると、ステルが幼い弟の手を取って、野山を走り回る未来は当分来そうにない。
かなりの年月、この子は乳児の姿のまま過ごすらしいからだ。
俺たちは幼な子の君の託宣の意味を考えた。
「僕たちには新たな試練が待っている。と言ってましたね」
マリスが武者震いする。
「大丈夫。二人で頑張りましょうよ」
ミグが励ます。
「なんや、まるで新たな物語が始まるみたいな感じやな」
コンコンが気になる事を言う。
「えー?ステルたちのぼうけんは、おわっちゃうの?」
「作者が飽きてまったかもしれんで」
パーサが軽口を叩く。
ロクに貰った新調合のオイルを飲んで上機嫌だ。
作者?
なんの事だ?
俺はまだまだこの話を続ける気、満々だぜ!
(※最近体調が良くなくて、これからどれだけ続けれるか、不安です。8/1で2000話到達予定なので、そこまでは毎日更新は頑張るつもり。なので新シリーズなどとてもとても)
「魔女の干渉を受けない地で再出発って、もう会えなくなるのかしらねえ」
オコが寂しそうに言う。
「ラグナロクで魔女を叩きのめせばいいのさ。何万年も復活出来ないくらいに」
破滅の魔女を滅ぼすことは、多分出来ない。
だがその力が復活出来ないほどに叩きのめす事は可能だ。
敵のフェンリル級、天使兵団とこちらの
ブルーエンジン
サルサ
モブ神
の戦力は互角だと思う。
ヨルムンガント級のマチアス・ナビルがこちらについた事は大きいが、既に300以上の心理地雷がスタンバイしている。
これを開戦前に出来るだけ除去せねばならない。
これができれば、俺たちの勝利は80%くらいの確率になるだろう。
頑張ってひとつずつ、潰していくしかない。
さて神官とロクの新作を楽しみ、温泉でゆっくりしてから眠りに着こう。と言う時刻になった。
「今日はさ。ミグと女子会がしたいのよね」
オコが言う。
「いいわね」
いつもはさっさと師匠と一緒に、ステルの言う
「ただれきったジョウヨクべや(言い方!)」
に引っ込む社長が、珍しく同意する。
やはり皆、ミグとの時間が限られている事を惜しんでいるのだろう。
あれだけ苦労して反魂させたミグルディアを、一同娘のように思っているのだ。
「じゃあ僕たちはマリスくんに、夫の心得を叩き込むとしようか?」
師匠が笑って言う。




