47-14.マーリンの退場
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
47-14.マーリンの退場
みんな迂闊にもちょっと感動した。
あの因業爺が、こんなにも娘思いの老人だと言う事に。
「善き哉善き哉」
マーリンはどこかのオクサレ様の様に微笑み、帰り支度を始める。
「先生、先程の宿題は?」
師匠が突然思い出す。
「だから自分達で答えを見つけよ」
宿題とは
「なぜマーリンはミグルディアを見殺しにしたのか?」
であり、それは多分マチアスが完全に魔女の勢力と縁を切るための、最後のピースだろうと思う。
マーリンにミグルディアとの結婚を許して貰えたのは収穫だったが、それはマーリンとマチアスが義親子になったという事ではない。
言うなれば
「勝手にしろ!(ドアをバタン)」
であり、そこには
「あらあら…お父さんたら照れちゃって」
と最強のフォローをする義母は存在しない。
「あらあら、おじいちゃんたらグレちゃって」
とステルに言われるのがオチである。
マチアスももう、マーリンがミグルディアを死ぬように仕向けた。とは思っていない。
だがスッキリしないのである。
破滅の魔女と手を組み、世界に復讐しようとまで思った、その振り上げた拳が
「下そうにもおろせない…。(久々の池波正太郎調)」
のである。
『お義父様、私たちはこれからどうしたらいいのでしょうか?』
ミグルディアは独り現実的に、将来を心配する。
いかに恋に狂った乙女でも、マチアスに比べれば女性は現実的だ。
マチアスが魔女側から離脱しても、まずミグルディアを全力で守るための、身分の保証、経済力をどうするのか?
マチアス・ナビルが全バクロン、下手すると全レムリアのアイドルスター的存在だっただけに「彼が暗黒側の黒魔法使いに墜ちてしまった」
と言う魔法省の発表には衝撃が走った。
この出来上がってしまった風評を覆すにはベンガニーの手を借りるしかない。
もちろんこの話にベンガニーは乗ってくるだろうが、彼女が現在進行中の二人の物語をベンガニーロマンスに仕上げ、出版されるまで、3年はかかるだろう。
その間、世間の冷たい目の中で、二人が現世のレムリアで暮らすのは非常に難しい。
神界であれば例の
「神界タイムス」
がスクープしてくれるだろうから幾分マシだが、それでも大歓迎。と言う訳にはいかないだろう。
そして生活の確保である。
マチアスが魔法使いとして生計を立てるのは、当分無理だろう。
というか永遠に諦めた方がいいかもしれない。
黒魔法使いという存在はそれほど恐れられているので、いくら名誉回復されても、彼に仕事を依頼する人はいないだろう。
勘違いして悪の世界から用心棒的なお仕事が来るのも困る。
ミグルディアの名付けは商売にできるものではないし、魔力の譲渡も言うなれば命懸けの大量輸血みたいなもので、とてもUSB電源みたいに、気楽に他者に供給できるものではない。
栄養をとって休養して、時間が経てば復旧するのだが、ドラクエの宿屋の様に一晩寝ればMPが満タン!とはいかないのだ。
当然義父に頼りたいのだが、この因業爺の返答は実にあっさりしたものだった。
「ウラナよ、二人の事はよろしく頼むぞ」
いや、それはやりますけどさ。
マーリンはつむじ風の様に去っていく。
「さらばじゃ〜」
何もかもほったらかされたままで、俺たちは呆然と取り残された。
「ふむ、はん人ののこしたメッセージは4649か。どんななぞが…」
謎探偵の推理が始まる。
小学生の時友人から来た年賀状の裏に
「○○…(謎の数字列)–4649」
というのがあり、3学期になってから
「あれは何だったの?」
と聞いたら、謎の数字列は、その年賀状のお年玉抽選番号で、ヨロシク(当たったら半分よこせ?)だった。
ということがあった。
あの頃は1月15日の成人の日に確かお年玉付き年賀状の抽選があり、翌日朝刊の当選番号を楽しみにしていたものだ。
せいぜい切手シートだったが。
「とりあえず二人の石化を解くか?」
と俺がいうと
『ちょっと待って欲しい。僕の心の揺らぎがなくなるまで』
という申し出がマチアスからあった。
つまり
「なぜマーリンはミグルディアを見殺しにしたのか?」
の納得行く答えが得られない限り、心に空いた穴にうっかり
「魔が刺す」可能性がないとは言えない。というのだ。
「ここは反転地だ、魔物はいないよ」
と言ったのだが、どうも魔女の呪いはタチが悪いらしい。
やはり絶対に魔女の手が伸びない様に、オコに神聖魔法をかけて貰った方がいいのだろうか?
「ウラナくん、マーリンの宿題、もう答えわかってるんでしょ?」
社長が困った事を訊いてくる。
まだ解らないからだろうって?
いや本当に言っていいものか?
ちょっと迷ってしまうのだ。
『やるっきゃないですよ』
最初スミティかと思った。
だが、ここはスサ大神のホームであり、余り念話交感をするのはマズイかもしれないという事で、スミティとのコンタクトは避けようとしていたのだ。




