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47-13.父の言葉

転生したら転生してないの俺だけだった

~レムリア大陸放浪記~


47-13.父の言葉


『いやそんな精神分析はいいから』

マチアスも専門家だから、マーリンが何を言わんとしているか、わかるのだろう。


素人の我々だと

「この木にりんごを3つ描いてください」

とか言われて描いて、大きさとか場所とかで

「あなたは今こういう状態にあります」

とか言われると

「はあなるほど。そんな気がします」

とか言っちゃうのだが、マチアスは既に答えを知っている。


『陽の面に誘導しようとしてるんでしょ?』

「はあ、なんともやりにくいな」

前世でも陰陽説というのがあったが、レムリアでも三因子論以外に事象や性格を陰陽二面で見る哲学がある。

「ワシはミグルディアをシングルファザーで育てたからの。この子は良い子じゃが、ちょっと意固地で強情な子に育ってしもた」


確かにミグルディアは自立的だが、責任感が強すぎて上手く行かない事がある。

育ての父であるマーリンへの信頼と期待に応えねば、という気持ちが強すぎて、自ら望んで処刑されたにも関わらず

「私は義父の期待に答えられなかった」

という自責の念から、冥界で引きこもりになってしまった。


その自己評価の低さは、俺たちの反魂プロジェクトにおいてもいかんなく発揮され、生き返る事についても、なかなか承知しなかった。

オコはミグルディアが最終的に復活を了承したのは

「マチアス・ナビルが、半生を賭けてミグルディアを愛している」

事を知った事。そして

「自分の為に暗黒面に堕ちたマチアスを救いたい」

と言う義務感。

だから生き返った。


そして恋愛に全く免疫のない彼女は、どうやら美しい青年に育ったマチアスに人目惚れしてしまったらしい(シメシメ)。

「だがご覧のとおり娘は純粋じゃ」

『分かります!』

おいおいマチアス、ちょろすぎないか?


どうもマーリンは取引(ディール)に引きづり込もうとしているらしい。

マーリンのやり方は散々味わってきたが、商品の瑕疵を隠さない。

「この商品はこういう悪いところがある」

とまず言っておいて、正直な取引相手である事を印象付ける。そして

「だがこう言うところは素晴らしい」

と列挙する。


相手はその品の全てを知った気になって、これは安い買い物じゃないのか?と思い始める。

その取引の前段階にある

「俺ってこの商品、そんなに必要でしたっけ?」

と言う点は、すっかり忘れている。

(まあ、アトランティス島嶼の別荘とかね)


ちょろい買い手であるマチアスに、マーリンは何を売ろうと言うのか?

「娘さんを僕にください」

という人身売買的どストレートな決まり文句は、概念としてはレムリアにも存在するが、直訳すると単に

「結婚をお許しください」

と言う言葉だ。


だが家長である父親にとっては、娘が嫁に行くと言う事は

「生産力の低下」

を招く為に(多くは家事労働力)、なんらかの対価を要求する事が多い。

つまり支度金だ。

レムリアでは持参金ではなく、花婿側が支度金を払うケースが多い。


しかしマーリンにとって、マチアスから受け取リたい何か価値ある物があるのか?

古代魔法の知識?

いや、現在魔法大学の図書館に収蔵された古代魔法の断片で、マーリンの知らぬものはないだろう。

なんなら大半はマーリンが作ったものなんじゃないか?

紛失した魔具?

いやいやそんなものマーリンなら簡単に取り返すだろう。


「姿も、悪くはないと思うが」

『もちろんです!』

「着痩せする方じゃが、脱ぐとボン・キュッ・ボンじゃ」

『おお!』

『お義父様、やめてください。セクハラですよ!』

「顔は…」

『最高です!』


「まああくまでも主観じゃからな。ワシの妻と比べても引けを取らんと思うよ」

さりげなく惚気を入れる。

生涯にたった一年だけの妻、ナイラスのハトホル神にまだ未練があるのが意外だった。


ハトホル神と言えば、エルフのアマランタイン女王、聖狐天(異説あり)と並ぶレムリア三大美人だが、ミグルディアは美人と言うより可憐な感じだ。


『僕には世界一の女性です』

マチアスは言い切る。

「いっけない!ちゃぶだいよういしてないや」

いやレムリアにはちゃぶ台はないぞ、ステルはどこで恋人の父のちゃぶ台返しなんて聞いたんだ?


「ワシには大切な娘じゃ。ワシはお前さんが娘を好いていてくれるのは、よくわかる。じゃがお前さんは、心に大きな底なしの穴が空いておるな?」

『底なしの穴?』

「かつてはそこに黒々と煮えたぎる憎悪のマグマを飼っておった」

『あ…、はい』

「そこに二度とリリス因子を溜めない事を誓って欲しいのじゃ」


『はい。でも穴は何で埋めたらいいのでしょうか?』

「ミグルディアを守り続ける心」

『誓います!』


かつてのマチアスは、ミグルディア先生を殺された恨みだけを煮えたぎらせ、その善良で誰からも好かれる外見と表の性格で武装していた。

だがその内心に飼っていた獣はミグルディアに再会できた事で氷解し、魔法省への恨みもミグルディア自身の言葉を聞いた事でほぼ無くなっている。

後は穴うめ工事だけなのだ。


因業ジジイと思っていたマーリンの意外な言葉に、俺たちは少しほろっとしてしまった。


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