47-12.マーリンの予言
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
47-12.マーリンの予言
「なんか先生に秘策でもあるんですか?」
師匠が聞く。
「自分達で考えるのじゃ」
マーリンがニヤリと笑う。
マーリンがこういう悪い顔をする時は、たいてい悪事を考える時だ。
【マーリン師のリリス因子には、変化が見られません】
パピーズは普段マーリンの事を
「先生」
と呼んでいたはずだ。
だが今さっきまでマチアスがミグルディアを先生と呼んでいた。
師匠と言い換えると、俺が普段ノヅリさんの事をそう呼んでいる。
だからマーリン師と言い換えたのだろう。
なかなか気転の効く子だ。
しかしこれだけ意地悪な返答をしてもリリス因子が増大しない。という事は、あれだな?
すっげえ上から目線の
「ワシはお前たちの成長のために、あえて教えずにおるのじゃよ」
ってやつ?
なんかムカつくなあ。
ちなみにこの表現が最初にTVに登場したのは、誰か女芸人(清水ミチ子?)のやる
「典型的な若い女の子の喋り方」
みたいなモノマネ芸だったと記憶しているので、当時のJKとかの言葉だったのだと思う。
当時はネットがそれほど普及していなかったので、その頃の若い子がどういう話し方をするのか、知る手段が無かった。
だから
「ムカつく」
と言われても、一般の人は
「大丈夫ですか?吐きそうならポリ袋持ってきましょうか?」
とか返しそうだった。
この言葉が
「腹が立つ」
と言う意味で正式に認知されたのは、もちろん
「皿田きのこ(ドクタースランプ)」
の功績である。
「じゃワシは戻るでな。レムリア坊がいつ帰ってくるかわからんのじゃ」
マーリンの言う事には、レムリアくんは旅に出ている時には透明でピクリとも動かず、おとなしいものだが、ひとたび魂が帰ってくると、なかなかに自己主張の強い、手のかかる赤ん坊なのだそうだ。
「じゃあなミグルディア、また会おう」
『お義父さま。どんな境遇になろうとも、必ず会いに参りますわ』
「いや、それは無理というものじゃろう。ワシから会いに行くでな」
『あ、はい分かりました』
ミグルディアは不審げな顔をして答えた。
つまり、マーリンにはこれから俺たちが、いかにして解決するか、分かっているのだろう。
「ムカツクじいさん」
「なんじゃステル、失礼なやっちゃな」
「ヒントヒント」
「ダメじゃな。お前みたいな失礼な奴には教えたらん」
【マーリン師のリリス因子に変化は見られません】
面白がっているだけらしい。
「おねがい、リバーシブルオールドマン」
失礼じゃなく言ったつもりみたいだが、リバーシブルは裏返しても使える、という意味で、リバースしそう、という意味にはならんぞ。
「仕方ないなあ、じゃあヒントじゃ」
「わーい」
なんだかんだ言って、マーリンは子供には甘い。
「なぜワシが、最愛の娘を死に追いやらざるを得なかったか?考えよ」
「それがヒント?ケッチくさぁ〜」
「若いうちに頭を使うのじゃ、ボケてしまう前にな」
マーリンはニヤリと笑った。
そして真顔に戻ると、マチアスの石像に顔を向ける。
「マチアス・ナビルよ」
『なに?』
マチアスは明らかに緊張していた。
破滅の魔女陣営では、マーリンは最も憎むべき敵だ。と教えられた。現世で育ったマチアスには、両方の立場から見ていたので
「まさかそんな大魔王じゃあるまいし」
と思っていたが、実際会ってみるとかなり恐ろしい。
ステルやパーサに散々ディスられたりしているが、ひとたび怒ると世界が簡単に吹き飛びそうな迫力がある。
と、その時は思ったそうだ。
まあそのへんは俺が作った
「孤高の老魔法使い(名は秘すが、例の灰色の人がモデル)」
の可動式1/1依代人形の出来の良さが大いに影響しているのだけれども(えっへんバウワー)。
「ワシはお前さんを、悪の権化と思っていた。人間の中に稀におる、悪事をやるために生まれてきた様な悪党じゃ」
つまり、リリス因子が異常に多く生まれてしまった手合いだな。
「じゃが、ガキどもの測定では、リリス因子の値は10/100前後。つまり平均的じゃな。復活したミグルディアに会うまでは、復讐の念に燃えていたじゃろうから、とんでもないリリス値であったろうがな」
『本心を明かさない性格なんでバレなかったが、腹ん中は溶岩がドロドロ燃えてたよ』
「そうじゃろうな。心配かけて、誠にすまんじゃった」
マーリンが頭を下げる。
という、今まで一度も見たことのない光景。
全員ちょっと驚いた。
「ワシは少しは魔法が使える」
嫌味な言い方だ。ムカつく。
「じゃからお前さんが得意とする精神操作魔法はよく知っておるし、まあ自分でもそこそこは使える」
そこそこねえ…。
天才的詐欺師じゃねえか。
「じゃからの。今お主がなんの魔法もかけていない事は、わかるのじゃ」
『石にされていては、なにも使えないからな』
何か杖とかを使うらしい。
いや、香を炊くのか?
「じゃから、怨念が去れば、お前さんが根は善人じゃという事がわかる。内心の夜叉を隠すための菩薩の顔が、実は偽りでは無かったのじゃ」




