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46-37.説得の為の時間

転生したら転生してないの俺だけだった

~レムリア大陸放浪記~


46-37.説得の為の時間


俺たちは石像の前でここまで語り合う。

石像は反応しないが、何か聞いている様に思える。

特にマチアスに聞いて欲しい。


確かに君の大事なミグルディアは、バクロン魔法省の手にかかってしまった。

だが当時のミグルディアは、天下の才媛。

そして魔法使いが誰も見た事のないほどの膨大な魔力を身に秘め、それはどんなに使っても翌日には回復するものだった。

彼女自身で精神操作魔法を使って

「罪状をなかった事にする」

事は容易かったのだ。


またウォズとジョブスの勧めに従って他国に亡命し、その国一の大魔法使いとして活躍する事も出来たろう。

だがミグルディアはしなかった。

毒酒をあおって死んだソクラテスの様に、

或いはゴルゴダの丘に向かうキリストの様に、

ミグルディアは死を忌避しなかった。

それは彼女自身の決断だ。


そして俺たちは全力を挙げて彼女を反魂した。

これは冥王会議の承諾を必要とする案件だが、俺たちは全力を尽くし、遂に特例としての反魂の承諾を勝ち取った。


なので

「誰もミグルディアを殺していない」

のだよ。

わかるかい?マチアス。

そんな気持ちで、だが露骨にならない様に客観的な解説の形で、俺は懇々とマチアスに語り掛けた。


勿論師匠の後悔も尊いのだが、俺はその時代の法律がミグルディアを裁いたのだから、苦しむ必要はないと思うし、マチアスが師匠を恨むのは筋違いだ。

マチアス・ナビルがもし魔法長官ノヅリ王子に私怨を抱いてリリス因子の命ずるままに、王子を暗殺しようとすれば、出来るチャンスは何度もあった。

と思うので、恨んではいないのか?


マーリンも千年以上掛けて幼女のミグルディアの石化を解いた。

そして次第に心の中にイブ因子が増大し、ミグルディアの学園生活を護り始める。

マーリンの中で、ミグルディアを護ろうとするイブ因子と、使命を遂行しようとするアダム因子が、火花を上げ始めたのが、ミグルディアの魔法大学編入の頃だ。


ミグルディアより前に魔法学院→魔法大学と言う進路を突破したのが、他ならぬノヅリ第3王子だった。

幼い頃から尋常でない魔法の才を示した彼は、バクロンがゴルモア人貴族と被支配民のバクロン人から成っていると言う二重国家の形を認識し、それが本来自由であるべき魔法学の世界にまで影響している事に疑問を抱いた。


それは貴族子弟しか入学出来ず、アカデミックに魔法を研究する魔法大学と、才能(実は主に秘めたる魔力量)に富んだ一般子弟を幼少から入学させ、国に役立つ魔法使いを育成する魔法学院の二つがあり、双方には交流がない事だ。

つまり魔法学院を卒業して魔法大学に進む。と言う、普通の国なら当たり前のコースが、バクロンにはなかった。


そこでノヅリ王子は偽名を使って魔法学院に入学し、飛び級最短で卒業した後、第3王子として正式に魔法大学に入学した。

並外れた魔法能力に驚嘆した魔法大学の教授たちは

「王子殿下には余程優れた家庭教師がついていたに違いない。名を明かしていないところを見ると、かの大魔法使いマーリンが教えていたのではないか?」

と噂した。と言うが、何の事はない。


「魔法学院のカリキュラムが、いかに実践的で優れていたか?」

を証明したに過ぎなかった。

噂のマーリンが

「愛する義娘のミグルディアにこのお得なコースを習得させたい」

と願ったのは当然で、ノヅリ王子が偽名で通うのを許可した当時の学院長、セミノール・マリノールに圧力を掛けて、遂にミグルディアの魔法学院からの魔法大学編入を実現させた。


これは当時大センセーションになり、ミグルディアは一躍有名人になった。

だがマーリンはミグルディアを休学させナビル家の家庭教師に派遣し、その後は大学に戻らずに退学して、自分が隠棲する住処の近くの町でミグルディアは市井の魔法使いとして営業する様になる。


この事はミグルディアにとって、必ずしも残念でも不本意でもなかった。

ノヅリ王子も、後のマチアス・ナビルも経験したのだが、古い伝統を持つバクロンの魔術を実践的に学ぶ魔法学院に比べ、支配王朝であるゴルモア貴族の中で魔術に秀でた者が通う魔法大学は、学校など行かずとも家庭教師を雇える裕福なゴルモア貴族の為の物であり、大学は学問として魔法を研究する機関。

そして古代スメル王国からの魔導書や、古代ナイラス大図書館の蔵書を閲覧できる大学図書館に魅力があるのだ。

市井の魔法使いとして、人々の病を治す事に喜びを感じていたミグルディアにとって、大学での勉強は一年で充分だった。


そしてかつて彼女から屈辱を受けた馬鹿貴族子弟の実家、侯爵家の恨みを買い、精神操作魔法使いの烙印を押され処刑される。

この時、マーリンは動かなかった。

あれだけ溺愛したミグルディアに絡んで来た馬鹿貴族子弟に対しては、マーリンは密かに動き、彼を退学に追い込んだ。

だが愛娘の命に関わる魔法省の処断に対しては、マーリンは全く動かなかった。


これは何らかの使命遂行を命ずるアダム因子が、愛娘を護ろうとするイブ因子に克った事を意味する。

「使命」

などと言う言葉ほど俺たちの知るマーリンに似合わない物はないが、それはともすればリリス因子に流される彼の因業な性格によるもので、つまりは

「やる時ゃやる」

のだ。


アダム因子配分が多いマーリンは、これまでも正義の為に戦って来たと言う歴史がある。

だからこそレムリアの人々は(特にその実体を知らない人々は)、マーリンを

「稀代の大魔法使い」

と称賛するのだ。


今回も結局マーリンは渋々でも、ラグナロクの一方の旗頭になる事を承知した。

その為にハトホルと結婚し、おそらく戦局の切り札となるはずのレムリア坊やを得た。


そしてミグルディアとマチアス・ナビルの問題も、マーリンの使命の内にあるのだろう。

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