5-18.太守
※第5部の主な登場人物
◯旅の仲間
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。生真面目な15歳と結構浮気症な66歳が同居している。"国民的英雄"に加え、"改革者"の称号を獲得。
未婚のまま聖狐天の父となる。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。メグルとの結婚と子作りを夢見ている。弱者の味方で直情的。未婚のまま聖狐天の母となる。
コンコン…先先代妖狐。子狐と伎芸天女の童女に憑依できる。
ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。メグルをあるじと慕う優しい幼女。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。諜報活動に大活躍。自称第二夫人。大型肉食獣アヌビスに変身出来る。
◯その他の主な登場人(神)
聖子ちゃん…メグルがシバヤン達やダガムリアルの協力で作った聖狐天。
メル…元暴風の魔女メルハバ。剣士メル・ファとして、聖狐天を守る。
先先先代妖狐…鼎尾の銀狐。後見として聖狐天に仕える。
二娘…ナンバーズの一人。武神として聖狐天を守り、メルに剣を指導する。
シャミラム…元モヘンジョの北風の巫女。宮宰として聖狐天に仕える。
ベンガニー…元ジョウザ侍女で大ベストセラー作家。
妖狐の里の長老…オコの里帰りの為に結界の住まいを用意。
吐心…オコの父。
サリナ…オコの母。
リュナ…オコの上の妹。
愛…オコの下の妹。
御供…オコの弟。
チャガムIV世…チャガマン国太守。聖狐天教をチャガマン国の国教にしようとする。
ドリア…チャガムIV世の妻。
ウメダ…チャガムIV世の長男。大街道東部を守る公爵。
ナンバ(故人)…ウメダの実の父。ハーフエルフ。
ハナテン(故人)…ウメダの母。ハーフエルフ。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
5-18.太守
ウメダの出発を見守ったあと、我々はマルブに向かう事にした。
「どの程度の規模で乗り込むの?」
「気付かれない様に入ろう。せっかく来て貰ったが、妖狐の里の人々には街の外で待機して貰う」
「伎芸天に頼んで、沢山の行列で入場するんじゃ無かったの?」
「ウメダの事を太守に伝えると、色々根回しして国教化を進めて来た太守が引っ込みがつかなくなる。自ら取り下げる形にした方がいい」
「自ら取り下げる?」
「聖狐天が自ら誓った五箇条は、国教とは全く相容れない。それでも強行しようとすれば、国内の意見が一致している必要があるが、ウメダが反対のまま引退してしまったので、おそらく東部の支持は得られないだろう」
「しかも頼みの綱の聖狐天の御出座は望めなくなる訳じゃ」
「出て来てもヤダ言うだけだでな」
「なのでお忍びで入城して、説得するしかないんだ。太守の顔を潰す訳にはいかんからな」
ウメダの回想を聞いて、俺たちは随分太守に同情的になっていた。
「では正使サンコン。副使ウラナのみで向かい、他は必要に応じてすぐ対応する事が出来る様に待機。これでいいかな?」
「判った。いつでも呼んでね。で、どうやって入るの?」
「お馴染みの術さ」
俺とサンコンは堂々と城門をくぐる。
木の葉隠れは俺がコンコンから教えて貰った術なので、当然サンコンも知っている。
太守はメルハバによる破壊の後、別荘に住んで居たが、最近応急処置が終わり居城に戻って居た。
俺たちが誰にも見咎められずに太守の居間まで入った時、実にのどかな一家団欒中だった。
「お父様、お願いしていた聖狐天様着せ替えセットは届いた?」
「ああ、さっき侍従が持ってきたぞ」
「わあありがとう。開けてみてもいい?」
「良いとも。父さんにも見せてくれ」
「僕も僕も!」
「ほほほ、仲良く開けるんですよ」
「おまえたちは幼稚だなあ」
「おや?お前は興味ないのか?」
「まあ聖狐天様グッズの品質が粗悪でないかはチェックが必要なので見るけど。それよりお父様、"聖狐天賛歌交響曲"の楽譜、まだ手に入らない?マルブで演奏会やるなら、僕もフィドルで参加したいんだ」
「判った。急がせる」
なんか本当に聖狐天中心に回ってるな、この家族。
「そろそろ良いかの?」
「お願いします」
「チャガマン国太守、チャガムIV世閣下に申し上げる」
朗々たるサンコンの音声が響きわたる。
護衛兵が駆けつけるが、太守は下がらせた。
「余がチャガムIV世である。そちらは聖狐天様の使いの方か?」
「いかにも。聖狐天チャガマン派遣使節正使。鼎尾銀狐サンコンである」
「では早速会談いたそう。まずは歓迎の宴を」
「その前に鞠躬な会談を求む。済まぬがお人払いを。こちらは副使のウラナ。そちらはあと一人までの同席でお願いしたい」
「判った。では我が夫人ドリアを」
「まあ!私で宜しいので?」
「恐らく家族以外には聞かせたくない内容になろう」
「賢明なご判断じゃ。では早速伺おう」
俺たちは姿を現した。サンコンは白銀の鼎尾妖狐の姿で。俺は中年の商人の正装だ。
「早速のご配慮痛みいる。ではつい先日聖狐天様自らが誓われた五箇条を信者であるチャガムIV世夫妻に下賜いたす」
ここでちょっとした技を俺は使った。映像でだが聖狐天自らが顕現し、巻物を手渡した様に見せた。
夫妻は平伏し、実際には予め俺が用意して懐に忍ばせていた巻物を受け取る。
「読んで見られよ。聖狐天様の御真筆である」
太守はレムリアの作法に従って音読した。
「1.常に民と共にあって、励まし支えになる。
2.信頼はされたいが、崇拝はされたくない。
3.お布施も神殿で働く人々の生活が立ちゆく以上のものは受け取らない。
4.権力者のために働かず、どんな派閥にも与しない。
5.民を愛し、民に愛される神になる様、精進を続ける」
「ははっ。家宝にいたしまする」
「それで第4条じゃがな」
「承りました。余の我儘で聖狐天様にご心配をおかけ致しました事、深くお詫び申し上げます」
「聖狐天様はそなたが信者になってくれる事を歓迎する。しかし信仰は個人のものでなくてはならない」
「良く判りました」
「私も、懺悔を告白致します。女遊びが激しい遊び人の主人が私を夫人に迎えると言った時、私は主人を信じる事が出来ませんでした。これは子孫を作るための政略結婚に過ぎないと」
「済まなかった。再婚せよとの側近の建言を退けられ無かった。愛の無い結婚であった」
「良いのです。私も同じでしたから。結婚してからも、何かとハナテン様はこうであったとか、寝言にまでハナテン様の名を呼ぶ始末」
「面目無い」
「このまま冷え切ったままで一生を終えるつもりでした。ところが、子供の願いであったとはいえ、タリフでの素晴らしい一夜を家族と過ごし、家族一同信者となって、共通の話題が出来て私は主人に近づく事が出来ました。これも聖狐天様のおかげです。聖狐天様は我ら家族を救って下さいました」
「よう証しした。近々聖狐天様にお目通りも叶おう」
再度夫婦は平伏した。
「今夕会議を招集し、国教化計画は白紙に戻します。明日は聖狐教会での礼拝に於いて、信者と共に五カ条の誓いを読み上げまする」
「では次にご子息ウメダ様の件じゃが」
俺たちはウメダの父への思いと、権力の座を降りて北の森を目指した事を告げた。
「ウメダが余のことをその様に」
「正直俺は太守の事を誤解しておりました。あの悪逆なるタンランを撃退した勇者だったとは」
「いやその時の毒矢傷のため、余は体力と気力を奪われ、国民に呆れられる様な暗君になってしまった」
「聖狐天様の慈悲を実践すれば、国民の見る目も変わるであろう」
「これは聖狐天様の恩寵とは思わないで下さい。義父に馳せるウメダ殿の思いに感じ入った俺が勝手にやる事です。まあ強いて言えばウメダ殿の信仰するキャーリー様の恩寵でしょう」
俺は懐から紫色の液が入った長首の瓶を取り出す。
「これは俺が懇意にしている巫女から手に入れた物です。俺は商人ですから、無料ではありません。銀貨一枚で買いませんか?」
以前の回復薬の効き目を見て俺がシャミラムから譲り受けた物だ。
「ほう。高いのか安いのか。それはなんだ?」
「スメル秘伝の毒消し薬です。完全に体に回ってる毒にも効果があるとか」
「聖狐天様の副使殿なら間違いはあるまい」
太守は薬を受け取り、即座に飲み干した。
「ゲッゲゲ〜ッ!」
太守は黒い物を吐き出す。薬が合わなかったか?
「それが毒素じゃ。ウラナ殿、炎で滅せよ」
誰にも触れない様、焼き尽くすのを見ていた太守の顔が炎に照らされ、いや違う。明らかに血色が良くなっている。
「おおおお!体に力が漲って来る様だ。ドリアよ、ちょっと寝所へ」
「まあ!こんな昼間から」
そっちかい!




