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5-16.ウメダ(2)

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


5-16.ウメダ(2)


「もうお察しだと思うが、俺は太守チャガムIV世の実の子ではない。俺は森人の末裔だ」

ウメダのカミングアウトが始まった。

「俺の両親はナンバとハナテンと言って、どちらも森人の隠れ里の住人だった。アンゴルモア大王に滅ぼされた後、生き残った森人は北方の森で細々と狩りをして暮らしていたと言う。俺は行った事が無いのだが、まだ滅んだとは聞いていないので、いつかは行って見たいと思っているのだが、足がな」


「ではやはりウメダさんは、エルフの血を引いて居られる?」

「引いている。と言うよりエルフそのものかもしれない。俺の父ナンバと母ハナテンは、共にハーフエルフだからな」

戻し交配と言う事だな。植物や家畜で元の原種に近づけたい時に、雑種の中から原種に近い性質を持つものを掛け合わせて、原種に近付けて行く方法だ。戦後僅かに愛玩用の小型鶏として飼われていた名古屋コーチンを、戻し交配でかつての大型で良質な肉も卵も取れる品種に戻した話は有名だ。


しかしハーフエルフという事は、ウメダの祖父母世代のエルフは絶滅していなかったのか?

「俺の父方の祖母と母方の祖父が最後の純血エルフだった。エルフは長命だからな」

そうか。エルフの寿命はドワーフよりも長く、千年以上生きると言われている。ならばウメダの祖父祖母世代にエルフがいても不思議はないか。しかしなぜその森人の子が太守の息子に?


「ウラナ殿は父チャガムIV世に会った事があるか?」

「タリフのギョウザ歌劇団の公演でお見かけしました」

「そうだったな。父はあの夜以来、聖狐天に夢中だ。義母や弟・妹達もな」

「お父様はウメダ殿とは違うタイプですね」

「女にだらしなく、事もあろうに暴風の魔女メルハバに言い寄って宮殿を半壊されるなど、困った父だが、俺は可愛がってくれ、息子として扱ってくれた」


養子と言う事か。しかし現在の太守の年齢からして、随分若い時の子だな。

「我が父チャガムIV世は、今でこそ肥ってしまったが、若い頃は中々活動的(アウトドア)な男でな。勉強もせずに狩りばかりやっていたらしい」

ちょっと意外だな。よく居る、もやしっ子が立派にデブに成長した君主かと思った。

「それで禁断の北方の森で道に迷い、森人に助けられた」

なんか見えてきたぞ。


「父は何度も森人の集落を訪れ、助けてくれたナンバと仲良しになった。ナンバはハナテンと婚約していた」

オコとパーサがぐいぐい身を乗り出して来る。好きなんだよなあ、こう言う話が。

「ある日山の主の大猪が森人の村を襲った。何でも天候不順で、山の恵みが少ない年だったらしい」

イノシシが麓の村を襲うのはそういう年だよな。


「たまたま訪れていた父も参加して、村人総出でようやく大猪を討ち果たしたが、不幸にも犠牲者が一人出てしまった。ナンバだった」

『はうっ!』と言うため息がオコとパーサから出た。ベンガニー作品愛読者として、実に分かりやすい態度だな。

「村人の前でナンバは父の手を握り『ハナテンを頼む』と言い残して息を引き取った」

『ああああ』

オコとパーサが貰い泣きしている。


「父はハナテンに聞いた。『俺についてくるか?』と。ハナテンは父とナンバの友情を好感を持って見守っていたので、ナンバの遺言に従った」

父、意外といいとこあるじゃないか。

「母、ハナテンは"麗しの君"と吟遊詩人が歌うほどの美人だったので、勿論父にも異存は無かった」

やっぱ、スケベだな父。


「父と母は結婚し、チャガマンに帰った。父は長子だったので相続権が低く、人々も『ああ太守の部屋住み息子が異国の嫁を連れて来た』位にしか思わなかった。その後、弟が二人とも病で亡くなったので、結局父は太守になった」

そうか、ここもゴルモア系なので末子相続なんだな。という事はウメダも太守は継がないのか。


「母は月足らずで赤子を生んだ。母は美しいエルフの姫君の様だったが、祖母の血を継いで祖父方の長い耳は遺伝していなかった」

ああ…。そこへ戻し交配の子が生まれ。

「俺の耳は生後すぐ頭巾で覆われ、成長してからは、俺自身の意思で先祖の証である狼の仮面を公式では付ける様になった」

やっぱりエルフ差別みたいなものはあったのかな?

「大王の命で森人を殲滅し、森林を切り倒したのは初代のチャガムだからな。チャガマン国の民には長耳族の伝説は伝えられている」

復讐されるかも。と言う訳か。


「母は全く美しさが衰えなかった。エルフの血で長命だったからだろうな。40歳を過ぎても娘の様だったので、母の事を美魔女と噂する者もいた」

美魔女と言えば、かつて水戸黄門で最も視聴率が上がる瞬間は由美かおるさんの入浴シーンだったそうだが、その時由美さんは40超えてたんだよな。エルフ並みだ。

「その頃クルタンとの戦があり、首都のマルブが陥落した。俺たちは国境で戦っていたが、クルタン軍は奇襲でマルブを攻略し、母が拐かされた」

『ああっ!』

と言う声が女性陣から響く。


「タンランの狙いは、最初から麗しの君ハナテンだった様だ」

くそっ!こんなところでまたあの最低男(タンラン)の名を聞こうとは!

「母はタンラン如きに陵辱されるよりは、隠し持っていた短剣で喉を突き自害する道を選んだ。母の死を聞いた父は、白き狼アンゴルモア大王が乗り移った様になり、首都を奪還、ついにタンランを国境まで追い返した。しかし母は戻ってこない」

女性陣は泣き崩れている。俺も堤防が決壊寸前だ。

「俺は首都奪還の戦いで左足を失った。父も大きな刀傷と矢傷を受け、タンランの兵は毒を使うので、傷が中々治らず、狩りになど行けない体になった」

チャガムIV世よ、馬鹿にして済まなかった。あんたは立派な男だよ。


「弟や妹達がまだ幼いのは、父が母の事を中々忘れられなかったからだ。子供達は溺愛しているが、義母と父の仲は余り良くない」

そりゃ前の奥さんの事ばかり思い出す様では、今の奥方もたまらんなあ。

「だが、父と義母も聖狐天の信者になってからは、父も余り母の事を思い出さなくなり、共通の話題(おし)が出来て夫婦仲も良くなったそうだ」


「良かったじゃないですか。なのになぜ先程愚かと言ったんですか?」

「父達が聖狐天を信仰するのはいい事だと思う。だが、国教にする事は認めない」

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