45-33.一人芝居
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
45-33.一人芝居
「パーサのおかげでなんとか騙されずに済んだ。所までは良かったが」
「結局逃げられてしまったわね」
「チクショー!」
「ステル、そんな一発芸人みたいな汚い言葉を使っちゃダメよ(※今Xで小梅太夫をフォローすると、全くオチが解らないシュールなチクショーが飛んで来るのでオススメ)」
「オコ母さんに『ことばがきたない』とおこられたケド、よく考えたら自分がチクショー(畜生)でした。チクショー!」
いや確かに人間ではないけれども、人間より上位の存在なんだから、そんな自虐ネタはやめなさい。
「しかし腕の中にガッチリ捕みゃあた時は『勝った!』思うたけどが」
「わての捕縛結界を解くとは、恐ろしい手練れもあったものやで」
「やはりマチアス・ナビル。只者ではないな」
「術を掛ける暇もなかった」
「ダーリンでもか、恐ろしい子…」
口々に懸賞首を逃した事を悔しがる。
「あのぅ…、皆さん、どうされたのですか?」
ミグルディアが不思議そうに訊く。
「ミギーちゃん、なに言ってるの?見たでしょ?パーサの大捕物を」
「なんの事ですか?パーサちゃんは私にお茶を淹れてくれて。オコさんがシナモンクッキーを」
「ミグルディアちゃん、しっかりして!メグル、ミグルディアちゃんがおかしい!」
「さてはマチアス・ナビルの心理操作に!」
師匠とパーサと社長が、ジワジワとミグルディアに近づく。
「お義母さん、とりあえず地下結界を」
「はいな、あんさん」
コンコンが、豆タン(@漢ドアホウ甲子園)の様に答え、グイーンとエレベーターが急速降下する様な感じで、完全守秘の結界が張られる。
相変わらずミグルディアはキョトンとしている。
「しっかりしろ!ミグルディア」
「皆さんこそしっかりしてください」
ミグルディアは毅然と言う。
「どうしたんです、面白いパントマイムしてたと思ったら、突然語り出して」
ミグルディアによると、パーサは相当面白い事になっていたらしい。
愛媛県今治市の大三島町の大山祇神社には
「一人角力」
と言う神事が伝わっており、毎年お田植え祭の時に奉納されている。
これは人間の力士が見えない稲の精霊と相撲を取る。
と言う神事で、マワシを付けた男がまるで本当に相手がいるかの様にコミカルな相撲を取り、三番勝負に最初は負け、次は人間が勝って、最後は精霊が勝つ。と言う忖度アリアリの勝負で、精霊が勝つとその年は豊作。
と言う事らしい。
レムリアにそんな神事があるのか知らないが(相撲も見た事がない)、もしかしたらアトランティスにはあったのかもしれない。
デュオニソス(アトランティスの酒神。現在はパトニカトル)とブドウの豊作を占うレスリング。とかな。
「え?アシが騙された言ゃあすの?」
人間の脳とは構造が違う人工脳を装備しているパーサが、よもや精神操作魔法にかかる訳がないのだ。
でも俺たちだけじゃなくて、人造人間のパーサもしっかり騙されていたらしい。
後で師匠が詳細に各々ヒアリングしてレポートしてくれたが、それぞれが思っていた認識には、微妙なズレがあった様だ。
これはそれぞれが思い込みで演じる一人芝居同士が、現実で物理的にぶつからない様に、だろう。
一部始終は
「トンボくん改V3アドヴァンスターボ」
が映像記録していた。
そしてミグルディアも、見えない何者かと会話しているのが記録されていた。
「私ですか?マリスと会っていました。マリスは最後に会った姿そのままで『ボクハめっせんじゃーダヨ。コンドジャマモノノ、イナイトコロデ、アイマショウ』と言って手紙を置いて行きました」
マチアスの声が抑揚のない
「ワレワレハ、ウチュウジンダ」
みたいな人工音声みたいだったので、遠隔操作の式神だとすぐ判ったそうだ。
「読んでいい?」
流石にラブレターだと。
と気を使いながらオコが訊く。
「どうぞ」
「今度邪魔者の入らない所でお会いしましょう。貴女のマリス」
「一緒やないかい!」
「ひねりなさい、ひねりなさい!」
ステルが桂三枝師匠(現、6代目桂文枝。上方落語四天王の一人である5代目桂文枝(桂小文枝)の弟子で、テレビの人気者となる。現在でも高座に上がる時は文枝、バラエティは三枝と使い分けている)の楽屋でのダメ出しの様に叫ぶ。
だが、オコの声で読まれた、その短いセンテンスを、ミグルディアは涙を流して聴いている。
「やっぱり好きなんだて」
パーサが囃す。
「違います!私はオコさんの朗読が、あんまり当時の愛弟子の声に似てるんで」
確かに少年の声は女性声優が演じる事が多いよな。
最近はオコの声を、もしアニメ化の際演じて貰うなら、
「高橋李依さん(めぐみんヴォイスじゃなくて、高木さんヴォイス)じゃないかな?」
と妄想してしまうんですよ。つまり高橋さんはオコとマチアス・ナビル(幼少期)のダブルキャスト、と言う事になりますかね、フォッフォッフォ(※お前は誰に話しかけている?)。
「つまりマチアス・ナビルは僕たちがここに来る事を見越して遠隔操作の式を使い、僕たちの精神操作のかかり具合をシミュレートした。と言う事か?」
師匠が髪を掻きむしって悔しがる。
「ダーリン、ダメよ大事にしなきゃ」
社長が心底心配そうに言う。
「かみは長〜いお友だち」
ステルが真面目に言った。




