5-15.ウメダ(1)
バレンタインデー記念!
では特にありませんorz
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
5-15.ウメダ(1)
謎の言葉を吐いてウメダは少し黙った。ここから先をこの一行に話して良いものか?逡巡している様に見える。
「先にそちらのご一行の事を聞きたい。ウラナ殿と言われたな。不思議な供衆を連れて居られるが、あなたはいずれかの神の眷族か?」
多分パーサの事だろう。
「いやそこなる娘御がいきなりこの私室にやってきた折、俺はまだ公式の狼の面を付けていた。そうしたらその娘御は」
「パーサと呼んでええなも」
「パーサ殿か。良い名だな。古代のエルフ語で"遣わされた者"と言う意味だ」
勉強になるなあ。そんな誰も喋ってない言葉を知っている以上、昨夜の『耳長族の血は入ってない』発言はフェイクだろうな。
「パーサ殿がいきなり長い耳の立った犬の面を付けて現れた時は、神のお告げかと思ったよ」
それは面じゃなくてアヌビスの第一形態(どっちが第二か知らないが)だろう。
「それで、自分の主に会って欲しい。と来た。聞けば、父上の所に聖狐天の副使として出向かれる途中との事。これは是非お会いしたいと思ってな」
パーサの演算装置の出す結論は、時々俺の理解を超える事がある。俺の方から会いたい?なぜ会いたいのか正解を述べよ。と言う事だな。
「貴方の父君、チャガムIV世殿下が聖狐天の教えに帰依したのはご存知だと思うが」
「愚かにも」
ほう。そう来るか。
「それで、正使に後見役の先先先代妖狐様を立て、殿下と会見される」
「その様な幽霊の様な方が、本当に居られるのか?」
「先先先代様は、体は既に黄泉に入って居られるが、この度歴代妖狐を代表して聖狐天様の後見に就かれた。貴方もお会いすれば、幽霊とは思われぬ、迫力のあるお方と知るだろう」
「まあ俺はその様なお方とお会いする気は無いがな。ウラナ殿には大いに興味がある」
「興味?」
「先程聞いた事に戻るが、貴方は一応ペンジクの商人と言う事になっているが、風貌は大東人に見える。いやむしろジョウザの人々の様だな。そしてペンジクで何か大きな功績を挙げられ、国民的英雄の称号を得られている。そしてバクロンでもイザン朝の大きな信頼を得て、改革者の称号と大勲章を得る。そして今度は聖狐天の副使だ。ここまで出世してるのに、どこかの貴族になったとか、領地を得たとかの話を聞かない。興味を持つなという方が無理だよ」
大街道に領地を持つ貴族なら、そう言った情報を集めるのは容易いのだろう。
「貴方は一体何者なのだ?納得行く返事を貰えれば、私のつまらない身の上話をしよう」
これは困ったな。余り謎のままにし過ぎて、ペンジクやバクロンの俺たちと今の俺たち(対メル用老けメイク)との外見の年齢差も怪しまれるのも困る※。
※歴史家ウラナの年齢については、後世学者たちの論争になっている。少年少女の様に見えたと言うナランダー王室の正史の記述に対して、聖狐天史に出てくる二人が中年夫婦と記されている事から、別人説、親子説、ウラナの最初の旅が実は数十年に亘っていたと言う説など諸説がある。最後の説は移動手段が馬車であったと考えれば、旅行の距離から支持する学者が多い。
「ご察しの通り、俺はジョウザの出身です。もちろんウラナって名前じゃ無かったですけどね。商人として旅を続けるうち、妖狐の里の娘と恋仲になり、駆け落ち同然に旅に出ました。それで親しい人に旅の手紙を出したりしているうちに、旅行家として本を書くことを夢見る様になったんです。そんな時、壊れた人形を拾いまして、それがシバヤン様の作った自動式侍女人形で」
「シバヤン大神の!」
「その人形がシバヤン様の奥様、サンディ様の侍女だった事から」
「最強神サンディ女神の!」
「知己を得まして、パーサを貰い受けた次第です」
「なんとパーサ殿はオートマタなのか!」
「それから旅を続けるうち、各地で国王やらの事件に巻き込まれ、今度は聖狐天様のご用で(まあこの身の上話は、嘘を言ってはいないな)」
「もういい。これ以上聞くとどんな神罰が降るかわからん。ウラナ殿、貴方は神の領域の人なのだな」
多分ウメダの頭の中には、政商とかロビイストとか、祖国の為にならない怪しい言葉が飛び交っていたのだろう。
ここで、なぜバクロンのイザン朝が国王で、チャガマンは太守なのか?についてちょっとだけ触れておきたい。
どちらもアンゴルモア大王の征服によって生まれた国なのだが、イザン朝はバクロンと言う古くから栄えた地域を征服したため、あえて国名を名乗らず、王朝が変わっただけ。と言う事を強調した。なのでイザン朝バクロン国王と名乗っている。一方チャガマン国は、形式上はまだゴルモア高原に帰ったアンゴルモア大王の正統後継者のもの。要所であるマルブを、部下の初代チャガムに任せた。と言う形をとっている。だから太守なのだ。今ではチャガマンの配下に入っているが、大街道の要所には、ゴルモア帝国の代官も数名いる。
国王は陛下、太守は殿下。ウメダは公爵なので閣下だ。
ウメダは深くため息をついて
「ウラナ殿とは是非これからも知己を得たい。パーサ殿にも、文字どおり遣わされた者としてお会いしたいものだ」
あれ?あれあれ?
結構いい感じじゃん?お前らもう付き合っちゃいなよ。
珍しく取り乱した様子を0.3秒程見せたパーサを見つめながら、ウメダは続ける。
「足がこんなで無ければ、俺は森で暮らしたいのだ。森ではパーサ殿の様な美しい獣に出会うことが出来るからな」
そっちかよ!
あんまり女の子としては見てない様だな。
パーサはなんか考えている様子だ。
シバヤンやダガムリアルの技術があれば、健常者以上の脚力を持つ義足を作る事は容易いだろう。
前世でも100m走のウサイン・ボルトの記録をパラリンピック選手が超える日は近いと言われていた。
なんなら、パトゥニーなら失われた左足の再生も可能だろう。
だが神々は簡単に個々の人生に関わったりはしない。する時は、その奇跡が起きないと世界が悪い方に転がる時だ。
そんな事も含めて演算装置がフル稼働しているのだろう。とりあえずパーサがこの男を気に入っている事は間違いない。
と言う事を考えて黙っていたら、ウメダの方から口を開いた。
「では、今度は俺の話を聞いてくれるか?」




