45-20.ナビル家
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
45-20.ナビル家
ミグルディアがマチアス・ナビルに初めて会ったのは、マチアスがまだ3歳くらいの時、初めての魔法家庭教師としてナビル家に赴任した折りであった。
ナビル家は裕福な商家で、とんでもない魔法の異才が現れた事に戸惑いを感じていた。
兄たちがおり、ナビル家は特にゴルモア人でもないので、長男が普通に父を助けて商売の道に入っており、魔法使いが特に家業を手伝う必要がなかった。
なので末っ子のマチアスに稀な程の魔法の才が見出された時、両親は市井の魔法使いにでもなれば一生食うに困らぬだろう。と考え、魔法の家庭教師をつける事にした。
もちろん目標はバクロン魔法学院で、ここを卒業して市内で魔法使いの看板を揚げるか、なんとか魔法省の下級官吏にでもなれば安泰なゴールだった。
ナビル家はゴルモア貴族の御用商人として手広くやっていたので、その伝手を辿ってバクロン魔法学院から魔法大学へ編入、と言うとんでもないルートを驀進していた才媛を家庭教師として雇う事が出来た。
マチアスは心優しい性格だったので、最初からスパルタ式の男性魔法教師を付けるよりは、遊びながらでも学べる友達の様な女性教師が良いと考えたのだ。
マチアスは両親の実子だったが、異能を持つ子で気味悪がられたので、母からは特に愛情をもって育てられていなかった。
そう言う意味で、母の様に慕っていた老乳母から離され、新しい女性家庭教師が現れた時、マチアスの心は暗く沈んでいた。
だがやって来た家庭教師は一風変わっていた。
他の大人より明らかに小柄で、表情がくるくる変わり何にでも興味を示す、子供の様な人だった。
マチアスは既に魔法の才が萌芽しており、魔法学院に入るくらいの能力は十分あると思われた。
余り知られていないため、魔力が認められる子供が生まれると、親は借金してでも家庭教師を付けて魔法学院を受験させるが、実は魔法学院の合格基準は、綺麗に纏められたコントロールの良い魔法を操る才能よりも、当時のマチアスの様に身体の四方八方から魔力が漏れ出てしまっている様な、圧倒的な魔力量こそが求められたのだ。
中学生の時から纏まった技巧派の投手より、まだノーコンだが豪速球を投げる選手にスカウトの目が止まる様な物だ。
マチアスにとってこの面白いお姉さんは最初は楽しいおもちゃで、散々イタズラした。
常人であれば黒焦げになってしまう火焔を浴び
「もう…しょうがないわねえ。せっかくマリス(マチアスの愛称)のお父様に頂いた服なのに」
と焼け焦げた服を整えたりするミグルディア先生に、マチアスは次第に魅かれて行った。
まだ3歳なので恋心とは言えないが、この泰然自若とした若い女学生に対して深い尊敬の念を持つ様になり、イタズラも影を潜めた。
ミグルディアにしてみれば、いきなり父から
「大学を休学してナビル家に行く様に」
と言われて随分面食らったが、魔法学院入学と同時に姿を消し、学院長からは死んだと聞かされ、半信半疑のうちにミグルディアが嫌味な上級生に絡まれた事件の辺りでなんだかまた現れて、とうとうどうやら大魔法使いマーリンらしい、と言う事も分かった。
と言うこの義父の事を、ミグルディアは尊敬していた。
しかも、当時のミグルディアには魔法使いより幼児教育をやってみたい。と言う望みもあったので(なのでパピーズの教師も喜んでやっていたはずなのだ)、休学する事に、特にためらいはなかった。
ノズリ王子(魔法学院には偽名で入学していた)や後のマチアスの様に、ミグルディアも魔法学院在学中に学院の蔵書全てを読破していたし、魔法大学の禁断の書棚も学位をとって教授になれば自在に閲覧可能だが、実際には入学一年で殆ど読んでしまっていた。
「勉強はどこでもできるが、経験は貴重」
だったので、この才気あふれる天才少年を教えられる事は楽しいことだった。
そしてマチアスの天使の微笑みは、勉強にしか興味がないミグルディアでもドキっとする事があった。
ミグルディア先生は決して怒ることなく、根気良く魔法、と言うより魔法使いのマナーを教えていたが、たまにマチアスが調子に乗りすぎて人の悪口を言ったり、実際に使用人を困らせるイタズラをすると、じっとマチアスの目を見つめて
「いけませんよ」
とだけ言う。
だが微笑んだ顔は目だけ笑っていないし、背後に青白く立ち上るオーラの様な物の大きさは、ミグルディア先生のいつも隠している魔力量が膨大な事を物語り、生意気な天才少年を黙らせるだけの迫力があった。
「先生は学校でも人気者なんでしょうね?」
とマチアスが聞いた時には、ミグルディアは微笑んで
「今はね。誰でも勉強教えて貰って成績が上がったら、寄ってくるものなのよ。でも人と違う才能のある子は、イジメを受ける事もあるのよ」
「そんなやつ、ボクなら黒焦げにしてやります!」
とマチアスが言うと
「そんな事が出来ても、やられた人、その家族の恨みはいつまでも消えない。いい?多分大人になったマリスを傷つけられる人は、一人もいないでしょう。でも弱者の恨みは、じわじわと蝕んでくるの」
幼いマチアスには良く分からなかったが、実際に隣人の為に違法の精神操作魔法を使い、ミグルディアが魔法省に処刑されるきっかけになったのは、あのクズ貴族先輩の家族による讒言だったのだ。
やがてミグルディアはマーリンの指示があり
「私には教えられる事はもうありません」
とナビル家を去った。
マチアスは落胆したが、ミグルディア先生が自分を一人前と認められた事は誇らしくもあった。
そして自分も立派な魔法使いなって、いつかミグルディア先生にプロポーズしよう。と誓ったのだった。
次に来た権勢欲と金欲しかない様な中年男性魔法使いによりミグルディアの処刑が告げられ、ミグルディアの事を悪し様に言われた時、マチアスの心で何かのスイッチが入った。
この教師が反抗的なマチアスを懲らしめる為に行った練習試合で、教師をマチアスが瞬殺した時は、まだ実家はもみ消す事が出来た。
そして魔法学院入学後、異例の飛び級出世を遂げるマチアスに実家は大フィーバーで、大いに商売にもマチアスの名声を利用した様だ。
だがマチアスが魔法省に逮捕され、黒魔術師として処刑(偽装)された時には、世間の批判に抗う力はナビル家にはなく、財産を纏めて他国に移住し、名を変えて暮らしているらしい。
※45部の主な登場人物
◯旅の仲間(ビッグセブン+α)
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。生真面目なまもなく18歳(僕)と結構浮気症な66歳(俺)が同居している。"国民的英雄"に加え、"改革者"の称号を獲得。更にマーリンから"人類の代表(略して人代)"を押し付けられる。
聖狐天の父となる。朱雀国ガルーダ元帥となる。
オコ…メグルの妻の元妖狐。メグルとの子作りを夢見ている。弓の達人。弱者の味方で直情的。聖狐天の母となる。大聖母。
コンコン…先先代妖狐。通常は子狐に憑依しているが、最近は仙桃の力で元の姿も長くとれる。
ステル(ラン子)…鳥ジャガー神。ラン(獅子)とヘレン(白虎)の娘。メグルをあるじと慕う優しい少女。第6章で進化を遂げ成体、幼体(子猫)以外に猫耳娘の形態をとる。第26部でさらなる進化を遂げ、龍神ケツァルコアトルにも化身。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。諜報活動に大活躍。自称第二夫人。大型肉食獣アヌビスと美しい牝馬に変身出来る。
今後は小説家になるらしい。
ノヅリ…バクロン第3王子。魔法省長官を辞し魔法修行の旅に出る。メグルの師匠。コリナンクリンの夫。
コリナンクリン…ワタリガラスの鳥神。運送業ワタリガラス商会の女社長。ノヅリの妻。
"僕"…"俺"の中に共存する肉体の本来の持ち主。スミティと共にウラナに様々な助言をする。
八咫…ノヅリ師匠とコリナンクリン社長の息子。寄宿舎学校に通っている。
トトム…師匠と社長が駆る飛竜。知性が芽生えつつある。
○聖狐天神界
聖狐天…オコを崇める人々の信仰が造り出した神をオコの分魂とメグルの造った依代で具現化した新しい神。ウラナ夫妻の娘。
シャミラム…聖狐天四天王の一人。元北風の巫女。
サンコン…聖狐天四天王の一人。オコの先々先代の鼎尾妖狐。
二娘…聖狐天四天王の一人。ナンバーズ一の武人。
メルファ…聖狐天四天王の一人。元暴風の魔女メル=ハバ。
ドルマ…ゴルモア大草原の元霊犬。聖狐天を守護する魔喰い。よつばを産む。
○ナンバーズ
一娘…ナンバーズの統括。シバヤンの宮宰。
五〜七娘の母。
二娘…武人。聖狐天に仕える。八娘の母。
三娘…シバヤン宮廷の家事一般を取り仕切る。完全なお掃除をする侍女人形。
四娘…隠密活動に特化。上警で働く侍女人形。
五娘…キャーリーの親友。足が速い。
六娘…唯一人間と同じ消化器官を持つ。記録の神殿で修行中。
七娘…背が高い。宇宙での活動に特化。
八娘…パーサ。クローン分裂したもう一人の八娘のパー子は、人間のパナとなりバクロン元第5王子にして元国王アルディンの妻。
○その他の神・人
アドミン…管理者。スミティを派遣する。
スミティ…アドミンに派遣されたエージェント。メグルの脳内で、メグルの宿主意識の少年と暮らし、メグルに助言する。
マーリン…古代の魔術師。元人類の代表。因業爺。超古代の英雄神イーオンの転生。太古の名はアダムらしい。ゴンドワナでは白いフクロウを依代とする。
ベンガニー…元ジョウザの侍女。大ベストセラー作家。今回はコンサートツアーギョウザ公演のプロデュースと新しい"3メタル物語"の脚本を担当。
小孫妹…ベンガニーが飼っている金糸猴の小猿。
パピーズ…レムリアとゴンドワナを行き来出来る4人の犬人の子(ウラナ、オコ、ノヅリ、セイコのαと4匹の橇犬の仔犬(同β)。
3メタル…初代妖狐の娘白銀丸、初代妖狐の義妹の黄金丸、赤銅丸。
レナルド・ダンチビ…妖狐の里の天才発明家兼工房長。
イグルー…大氷原の族長の娘。ヤクスチランワイン貯蔵庫責任者。ベンガニー本のヤクスチラン語翻訳者を目指している。自著名"威愚瑠烏"
トマレ…大氷原の少女。
ウメダ…元チャガマン公国の王子、現在はアマランタインの夫。ハーフエルフ同士の子。
アマランタイン…千年の眠りから覚めたエルフ女王。
ハツホ…ウメダとアマランタインの息子。
○オコの家族
吐心…父。蓬莱系移民。
サリナ…母、妖狐の里一の踊り子だった。
御供…オコの弟。二娘とメルファに師事。請われて女神モリガンのタイラン軍に入隊。
リュナ…オコの上の妹。商才に長ける。
愛…オコの下妹。魔性の妹で今はローカルアイドル。
○神々
ダガムリアル…古代神の一人。滅亡したドワーフの祖先神で工芸の神。キャーリーと結婚。
シバヤン…ペンジクの有力神。破壊と創生神。
パトゥニー…シバヤンの妻。慈母の女神。
キャーリー…シバヤンとパトゥニーの娘。ダガムリアルの妻。漆黒の女神。太古の女神スバーハと習合している。
アヌビス…ナイラスのミイラ作りの神。パーサの義兄。馬鹿助。
マァト…太陽神ラーの娘、冥界審査官、冥王補佐、アヌビスの恋人。
記録の神殿の神官…本名は漆黒大陸の神オニャンコポン。
アンゴルモア大王…ゴルモア人の大草原冥界で暮らす先祖神。
モリガン…タイラン島の女神。実体はナイラスのマヤ・ティティ。マヤ・ティティはモリガンの頭の中で夫のイグナスIII世と共存している。
ターワン・ラメン…古代ナイラスの元帥で御供の守護霊。タイラン島の猿人を指揮するため御供を左腕にして復活する。
レムリア神…ついに明らかになったレムリア最高神は宇宙生命体天御中神だった。レムリア神は天御中神の作ったプログラムで、生命の創造と進化を担当。
ワダツミ大神…蓬莱の海神。ムーの主神でカナロアと呼ばれたが、本当はオケアノスと言う古代の海神。正体は宇宙生命体天御中神の組んだプログラムで、生命の環境を整える役目を負う。
朱雀王…朱雀神界の主神。メグルの主筋。
高御産巣日神…天御中主神、神産巣日神とともにレムリアを訪れた神。天御中主神の作ったプログラムか?別の宇宙生命体か?
日見呼主命…蓬莱の主神。正体は不明。
スクナヒコナ…ヒーナル。波乗りする小さな神。ワダツミの子として、ワイハ人をムー島嶼に導いた。正体はワダツミ大神の創造した上位エージェント。
伎芸天…所属神界のない芸能神。芸能事務所社長。実は醍醐如来の娘にあたる。
フォクシー御酒子…3メタルの振付を担当する世界的振付師。
三元道士…マーリンの弟子の一人でコリナンクリン社長の同級生の親友。
ドスル…名前を奪われた元古代神ロキ。放浪しながら魔女を追う。現在は軍師。
パトニカトル…現レムリア神界最古の神。酒神。ヤクスチランの主神。オオモノヌシとも言われる。
ハトホル…ナイラスの女神。マヤ・ティティの母。前世はイブ。
ハマチャーン…ペンジク神界の猿面の神。
斉天大聖…上警の上級捜査官。水簾洞の主人でハマチャーンのクローン兄弟だった。
クロノス神…運命の神。レムリア人・神々が、漠然と思う時間の神。実際には時間局を統括する四次元神。
醍醐如来…醍醐教の主神。
大日如来…醍醐教密教の主神。
不動明王…大日如来を護る五大明王の一人。だけでなく、大日如来の意を伝えるCOO役でもある。
薬師如来…醍醐神界の医療・薬学の総帥。
観世音菩薩…醍醐神界のお助けヒーロー。33の変化体を持つ。
シンダル王…エルフの祖先神。
制咜迦童子…不動明王の眷属八大童子の八男。
孔雀明王…密教守護神で、ペンジク由来の強力な女神。
西老猴、北武猴、南温猴、東徹猴…水蓮洞の四大猴。
魔光仙女…斉天大聖の娘で売れっ子漫画家。水簾洞の金糸猴。通称マコちゃん。
ディード…ポエミの神。幼名エリッサ。亡命魔神。
○敵
合理キー(仮)…パーサの首を捻じ切った謎の怪力マン。正体は天使のプロトタイプ。
ヨルムンガンド級…オケアノスが警告するラグナロクでの強敵。精神操作系の術者だと思われる。
カペラ…スミティと同等の宇宙生命体の部下。
ケイオス…アドミンと同等の宇宙生命体。
天使兵…宇宙空間でスサ大神を拘束していたフェンリル級怪力天使。生物ではない様だ。兵団単位。
怪僧…黒衣の修道僧の姿の魔女の新しい部下。天使を操る力を持つ。正体は蓬莱東国の銅居。
虚無の女神…宇宙生命体でも制御出来ない、天体を飲み込んでしまう負の存在。ブラックホール的なもの。
マチアス・ナビル…バクロン魔法省に処刑された、当時12歳の少年。しかし心理地雷で脱出し、魔女の陣営に加わる?ヨルムンガンド級と思われる。別名魔智吾主。
◯第45部の登場人物・神
オベロン…超小型魔族リリパットの団長。
ラズリ…リリパット族の娘。オコの神聖魔法を用いた治癒魔法師。




