45-18.失踪
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
45-18.失踪
アニメなら全員で
「「「「「「「「え〜〜〜っ!」」」」」」」」
と言って空かなんかのカットが入る所だが、リアルには…
全員で押し黙った。
皆何と無くこう言う日が来る気がしていたのだ。
マチアスへの気持ちを、いつかミグルディアは整理する日が来る。
オコの断言が正しいなら、恋する乙女のミグルディアは、愛しいマチアス・ナビルの元に飛び込んで行くはずなのだ。
夜汽車に乗って(※イメージです)。
後から四天王がゾロゾロ入って来た。
全員が緊張している。
特にメルファが
「あ、こいつなんかやらかしたな?」
とはっきりわかるほど意気消沈している。
「メルファちゃん、何かあったの?」
とオコに言われ、メルファは本当に崩れ落ちた。
「申し訳ございません。私が目を離した隙に」
メイドさんが掃除中に誤って籠の小鳥を逃してしまった時の様に、青くなって震えている。
「なんて事を私は…、おしまいだ」
元暴風の魔女としてブイブイ言わせていたとは、とても信じられないしおらしさで、メルファはしくしく泣いている。
「メルファ、誰も貴女を罰しません。もちろん主上も」
「そうですとも。四天王にさりげなく見て貰っていましたが、ミグルディアさんも最近は心を開いて楽しそうでしたし、こんな事になるなんて誰も思わなかったのですから」
聖狐天もとりなしの言葉を告げる。
「ありがとう御座います。でも他のお三方の当番の日なら、この様な失態はされなかったでしょう」
聖狐天四天王のうち
ペンジクのナンバーズ二娘。
ジョウザの元妖狐、鼎尾銀狐のサンコン。
古代スメルの北風の巫女シャミラムの三人は、それぞれの神界を代表するビッグネームだ。
メルファは悪名こそ高いが、聖狐天に帰依して四天王の一角となってからは、それほど目立っていた訳ではなく、武神二娘の教えを受けながら、後進の御供やパピーズに武芸の手ほどきをしていたに過ぎない。
聖狐天(元々はオコ)への愛慕の念が強いのに、報われない現実逃避から大酒を飲み、魔力が暴走する酒乱として
「暴風の魔女メルハバ」
の二つ名でレムリア中から恐怖の目で見られていたのを、オコに集まってしまった神性を分離する形で俺が聖狐天を作り、メルファ前に現れたので、メルファは禁断の魔具、独鈷杵をシバヤンに返却し、聖狐天の熱心な帰依者となって神界に侍っている。
ちなみに四天王は聖狐天眷属ではない。
他の三人もそれぞれの神界や冥界に属したままで聖狐天に使えており(シャミラムは依然自分の身分を派遣と呼ぶ)、聖狐天眷属になれそうなのはメルファだけなのだが、正式な眷属となれば永遠の生命が約束される代わりに、人間ではなくなってしまう。
メルファは聖狐天に生涯を捧げるつもりで来たので、眷属になる事は寧ろ望むところ。
と思ったろうが、彼女特有の生真面目さで
「まだ自分には眷属など相応しくない。数合わせの四天王も、いずれもっと相応しい方が現れれば身を引こう」
などと思っているうちに、教団が大きくなるにつれて眷属になりたいと言う自薦も増え(かなり怪しい奴が多く、シャミラムがお祈り通知をしている)
「吾は(今のところ)眷属を持たぬ」
と聖狐天も言うしかなかった。
そうこうしている間に、別の問題も出て来て…。
「泣いている場合ではなかろう」
普段は優しい武芸の師、二娘がピシャリと言う。
メルファがハッと顔を上げる。
「捜索に参ります」
「あてはあるのか?」
「私が名を明かし、マチアス・ナビルを誘う餌になれば」
「おつけもの!」
ステル、惜しいぞ。だが少し緊張が解けた。
「人間の貴女ではマチアスの精神操作魔法の餌食になるだけよ」
抜け殻になったとは言え、因縁浅からぬ大聖母に声を掛けられ、メルファは身を縮める。
「弟の嫁をそんな事で失いたくないわ」
「オコ様…」
メルファの心境変化とは、この事だった。
俺の義弟、オコの弟である御供が、無事作戦を終了し、古代ナイラスの名将ターワン・ラメンの左腕から人間に戻れば、二人は結婚して人間の人生を送るのだ。
聖狐天がメルファを手放したくなければ、二人の寿命が尽きる時に眷属に迎えればいい。
「パーサ、ご苦労だけど」
「分かっとるで、まかしゃあて」
パーサが美しい牝馬に変身する。
二娘がテキパキと鞍を置いた。
「よいか、この呪符はマチアスの心理地雷には効果がない。掛からん様に気をつけるのだぞ。だがマチアスが直接掛けて来る精神捜査魔法は、防げるはずだ」
「サンコンさん、ありがとう御座います」
「心理グラフはアシが監視しとるでよ」
人間の精神を持たないパーサが請け合う。
「まあ貴女の言動は常に私には分かりますので、危なくなったら救援に駆けつけますよ」
勝てる気がしないシャミラムがさらっと怖い事を言う。
この人の救援って、マチアスに同情するぜ。
「手柄を立ててこい。婚約者に相応しい手柄を」
武神が無骨な励ましをする。
「パーサも頼みましたよ」
と母の顔で二娘は言った。
「任しといて、お母さん」
そう言う時だけ名古屋弁でないのは何故だ?
「かーさん:沖縄方言のマーサン(美味しい)と同じイントネーション」
じゃないのか?
「がんばってね。帰り待ってるわ。クッキー作って」
聖狐天が言うが、周囲はちょっと困った顔をした。
『俺の娘のクッキーが食えんてか?』
と俺は思ったが、後でそれを試食して、皆の表情の真相が分かった。
聖子ちゃんの創作料理は、なんと言うか
独創的なのだ。




