45-12.次の展開(閲覧注意)
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
45-12.次の展開(閲覧注意)
「オコは凄いな、聖子ちゃんにも出来ない事が出来て」
「どう言う事?私、あの子みたいなプロじゃないわよ」
「だからだと思う。聖狐天教の様にもうすぐ信者が50万人突破。なんて巨大教団だと、いちいち神聖魔法を返してたらカピカピのミイラになっちゃうよ」
「実際には聖狐天教の神官の中には、幾分の治癒魔法を使う者はおるんやで」
コンコンが事情を説明する。
「ああ薬師局の」
「せや、あそこは薬を安価で売ってくれはるだけやなく、簡単な治療もしはる。特にあっこで包帯巻いて貰うと、傷の治りが早いと評判なんや」
魔法が使える神官がいると、その者の権力が強大になりがちなのだが、聖狐天教では聖狐天自身の信条もあり、神官も誠実だ。
地方の貴族だったり裕福な商家だったりの信者が、全ての地位・財産を捨てて身一つで本山に駆け込んだりする例も多いので(聖狐天は基本的にお布施を受け取らない)、金銭欲や出世慾は故郷に捨てているのだ。
こうしてリリパット軍団の全容が確定した。
司令:オベロン卿。
弓騎兵:188名。
神官・巫女:10名。
非戦闘員として子供や老人などは長老がまとめ、戦闘員の家事を担当する。
その他に鍛冶屋、武具職人、細工師も非戦闘員だ。
俺はリリパット族がラグナロクで、どれほどの戦力になるか?
について、漠然とした未来を感じていた。
「とりあえずほぼ同数のパイセン(先行リリパット)が大型魔物を操って大暴走するのを止め、パイセンを倒し、出来れば他の大型魔物も撃破して貰えたら…」
つまりかなり虫のいい期待を持っていたのだが、実際には彼らの活躍はそれ以上だった(今は詳細は語らない)。
彼ら、特にラズリはオコと共に行動する事を強く望んだが、訓練が完成するまでは正直味方にも秘密にしておきたい。
新兵器のコンパウンドボウによるパイセン軍へのアドバンスは絶対に維持しておきたいのだ。
と言う訳で、一旦彼らは俺の手持ちの浮遊神界の一つに入って貰う事になった。
小さいとは言え、彼らが魔界で暮らしていた領地よりは広いらしく、気候も温暖で農業にも適しているので、彼らは非常に喜んだ。
その後50年で、人口も5千人に達し、様々な面で大聖母を助ける、強固な信者群になったのである。
孔雀明王にこの事を伝えると、ヴェスパ火山でテンマノオトシゴを取り逃がすと言う失態を気にしていた孔雀明王は大変喜び
「禍福は硬貨の裏表。ですね」
と言う手紙を送ってよこした。
さてこれからは開戦前に出来れば片付けておきたい最後の事、と言うかずっと後回しにして来た事を片付けようと思った。
神界を襲う天使兵。
現世を襲う大型魔物や魔族たち。
こう言った力押しの、言うなればフェンリル級の準備は、ほぼ整った。
一方前回ラグナロクでの、大毒蛇ヨルムンガンドに相当する頭脳戦。
ヨルムンガンドが知力に優れていた訳ではなく、利用されたのであるが。
大毒蛇を滅すべく登場した古代神族最強の神、トールは愛用の全てを破壊する大鎚ミョルニルでヨルムンガンドの頭を叩き潰すが、飛び散った猛毒がトールにかかり、トールは命を落とす。
世界に猛毒や毒素は数あるが、これ程強烈な毒は少なく、トールも
「飲まねばよいのであろう?」
くらいに油断していた。
触るだけで危ない猛毒。
そう言う物は前世にもあって、これは毒ではなく毒素だが、ノロウイルスの恐怖と言うのは有名だ。
一般には鮮度の悪い生ガキなどを食べた人が発症するノロウイルス中毒は、罹った人には生死をさまよう程の食中毒なのだが、厄介なのは二次感染だ。
治療した医師・看護師がやられる事もあるし、患者が出した吐瀉物や排泄物を始末する時にも発症する。
飛沫や乾燥した排泄物から微粒子が空中を漂い、それを吸った人が発症したりするのだ。
つまり殆どの細菌・ウイルスが死滅する乾燥にもノロウイルスは耐える。
消毒用アルコールも効果がない。次亜塩素酸ナトリウムは多少効果がある。と言われる。
ヨルムンガンドの毒はこの様な猛毒だが、ヨルムンガンド自身は決して賢い蛇ではなかった。
先に神々の王オーディンを飲み込み、最後は退治された巨狼フェンリルの妹であったヨルムンガンドは
「お兄様の仇打ちです」
と魔女にそそのかされ、のこのこ神界に登場したが、あえなくトールに叩き潰されてしまった。
しかし結果的にこの二兄妹によって古代神界の二大巨頭を失い、神界は滅亡し、文明は崩壊する。
だからヨルムンガンド級とは猛毒の事ではなく、この可哀想な毒蛇を計略に使った頭脳戦の事なのだ。
そして今回、人類が生み出した最悪の魔法使い。
禁断の心理操作魔法を研究し尽くした怪物。
マチアス・ナビルこそが、今回のヨルムンガンド級。
教師として慕い続けたミグルディアをバクロン魔法省に処刑され、復讐に燃えた彼が破滅の魔女の側に付けば、戦局は一挙に魔女側に傾く事を、自らバクロン魔法省長官として、マチアス・ナビルの心理地雷にかかり、マチアスに逃げられたのに彼を処刑したと思い込んでいた経験のあるノヅリ師匠は痛感している。
マチアスは復讐の怒りと言う、おおよそ彼らしくない感情に動かされて魔女側についたが、決して邪悪な存在ではない。
愛するミグルディアが
「禁断の心理操作魔法を治療に用いた咎で処刑された」
と聞いたマチアス・ナビル少年は、勉学に励み飛び級に継ぐ飛び級で、魔法大学教授になり、様々な禁断の魔法書へのアクセスを可能にした。
そして時限装置で発動する心理地雷の開発に成功し、黒魔術師として彼を捕らえた魔法省をまんまと
「マチアス・ナビルは処刑した」
と思い込ませて逃亡した。




