5-8.シャミラムの提案
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
5-8.シャミラムの提案
シャミラムはヌナムニエルの巫女。
その後を継ぎ西南レムリアを統べる神、エルロンの命で聖孤天の元に派遣された。
古くから文明が栄える東レムリアの天帝はタオ教の主神。大東の民の多くが信仰している。
南レムリアのペンジク国では、シバヤンを始めとする神々が君臨する、神と民の距離が最も近い地域である。
そして古い歴史のある西南レムリアで、主神ヌナムニエルが長く務めて来たバクロンは、現在エルロンが統べている。
これに醍醐教徒を加えたのがレムリアの主な宗教勢力だが、近年特に新しく聖孤天信仰が盛んになり、聖孤天教徒が他の教派に対し過激な行動をとらぬ様、新たに実体を持つ神として聖孤天が造られ、三大勢力の監視下で独立した宗教としての形を歩み始めた。
シャミラムは侍従長として聖孤天の世話をする傍ら、対外的な一切を取り仕切っている。二娘が聖孤天の警護、先先先代が聖孤天の育成に全力を入れている関係上、様々な雑務がシャミラムに回って来る。ある意味宮内庁長官で、なおかつ官房長官に当たる重職なのだ。
そのシャミラムの相談とは?
宮殿の食費がかかり過ぎる件か(すまん)?
何処かの信徒の問題か?
どっちも考えられた。
「改まってなんだい?」
「はい、是非とも旅行家で文殊菩薩様であらせられるウラナ様にお力添えを頂きたく」
こいつらがメグルと呼ばない時は要注意だ。なんかどんどん嫌な方向になってきた。
食材費が安くて美味しい、宮殿食堂の新メニューの相談では無さそうだ。
しかし文殊菩薩はやめて欲しい。俺たちは話あって知恵を絞り、難題を解決してきた。言わば
「4人寄れば文殊の知恵」
いやラン子も子供ながら時々斬新な提案をするから5人か…。
「実は、チャガマン国の事なのですが」
そうか、それがあったな。
チャガマン国太守のチャガムIV世はあの芝居小屋での奇跡の夜以来、家族こぞって聖孤天教に帰依してしまった。
チャガマン国の国教は、太祖アンゴルモア大王を祖先神と仰ぐゴルモア教なのだが、その神官が大臣や有力貴族を動かし、太守の帰依を批判している様だ。
本来どの宗教も祖先を祀って神と崇める事は禁じていないので、元アンゴルモア帝国の領域では、様々な宗教が入りこんでいる。かつてゴルモア人が大東を支配した時は国教をタオ教としたし、バクロンのイザン朝は沈黙の神エルロンを主神としている。
結局タンジンの弟子の元クルタン国第二王子の伝道が功を奏し、この後ゴルモア人の国々の多くは醍醐教(特に梵天派)を受け入れていくのだが、この時点ではチャガマンの有力者達は聖孤天を国教にしたいと言う太守の要望を受け入れていなかった。
「そんなに太守は人気がないのか?」
「タンランの様な事はありません。可もなく不可もない人物ですが」
かつて西南レムリアの領地を掠め取っていた、クルタン国の強欲王をシャミラムは引き合いに出した。タンランは五娘を実験材料にしようとし、シバヤンの怒りをかって滅んだ。あの国も祖先神アンゴルモアを信仰していた筈だが、他国の神に国王が滅せられクルタン国が滅んでも、アンゴルモア神は何も言わなかった所を見ると、あの子孫には大王も困っていたのかも知れない。
シバヤンがタンランを滅した件は、アンゴルモア神の激怒をかっても不思議は無かった。シバヤンは姿を見せただけで、恐怖でタンランの心臓が勝手に止まった。としてもだ。
「そもそもアンゴルモア神って、実在するの?」
「ご本人はとうに冥界の大草原で悠々自適ですが、ゴルモア人の信仰を集めているので、残留思念みたいな形の神としては神界におられますよ」
なんかモヘンジョでのシャミラムみたいだ。
「ではその神の承諾を得れば?」
「いえ、そっちじゃなくて人間の方が」
面倒臭くなってきたぞ。
「反対勢力か?」
「太守の長男は、大街道中部に領地があるのですが」
ギョウザ歌劇団にチャガムが連れて来たのは若い子供達ばかりだった。チャガムはメルにも手を出そうとした程の好色漢だが、夫人が複数いるのか?
「長男のウメダ公爵は太守の最初の夫人の子で、夫人は亡くなっております」
なるほど、新しい夫人の子らを寵愛しているのか。ありそうな話だ。
「つまり」
「ウラナ様得意の後継者争いです」
得意なんかじゃないやい。たまたまバクロンで喫茶店を開いたら、国王の五人の王子に関わるゴタゴタを解決しちまっただけだ。
「充分じゃないですか。ヌナムニエル様も感謝しておられましたよ」
「で、俺に太守の肩をもって、その長男とやらを説得せよと」
「そこまで必要になるかは、まだわかりませんが」
必要になるかもしれんのだな。
「引き受けるにあたって、聖子ちゃんの父として、確認しておきたい事がある」
「どの様な?」
「シャミラムさんは聖子ちゃんにどんな聖孤天になって欲しいんだい?」
「それはご立派に、真っ直ぐに、すくすくと」
「そう言うのは二娘と先先先代に任せておけばいい。宮宰シャミラムは、聖孤天の信者が遍くレムリア全土に広がって欲しいのか?」
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