5-7.聖孤天出座
※第5部の主な登場人物
◯旅の仲間
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。生真面目な15歳と結構浮気症な66歳が同居している。"国民的英雄"に加え、"改革者"の称号を獲得。
未婚のまま聖狐天の父となる。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。メグルとの結婚と子作りを夢見ている。弱者の味方で直情的。未婚のまま聖狐天の母となる。
コンコン…先先代妖狐。子狐と伎芸天女の童女に憑依できる。
ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。メグルをあるじと慕う優しい幼女。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。諜報活動に大活躍。自称第二夫人。大型肉食獣アヌビスに変身出来る。
◯その他の主な登場人(神)
聖子ちゃん…メグルがシバヤン達やダガムリアルの協力で作った聖狐天。
メル…元暴風の魔女メルハバ。剣士メル・ファとして、聖狐天を守る。
先先先代妖狐…鼎尾の銀狐。後見として聖狐天に仕える。
二娘…ナンバーズの一人。武神として聖狐天を守り、メルに剣を指導する。
シャミラム…元モヘンジョの北風の巫女。宮宰として聖狐天に仕える。
黄金丸…初代妖狐の帰りを待つ狐。
赤銅丸…初代妖狐の帰りを待つ狐。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
5-7.聖孤天出座
三人の侍従が仰け反った。
メルはドヤ顔で微笑んでいる。
「聖子ちゃん…立派になって」
オコが涙ぐんでいる。
「この人たちは私が救わなければなりません」
と言う宣言は、聖子ちゃんの神としての初めての、はっきりとした意思表示だった。
メルを招いたのも聖子ちゃんがやった事だが、そもそも聖子ちゃんが生まれたのがそのためだったのだから、これは定めに従っただけ。
今回は特にこの狐達を救わなくても、初代妖狐の遺跡を一つ封印しただけで解決する。里に新しい井戸でも掘って熱原石の魔法でも仕込んでおけばいいのだ。
だが二匹の狐を助けたいと言う思いは聖子ちゃん本人から出たもの。
「これが聖孤天の慈悲やな。尊いなあ」
コンコンが手を合わせる。
「では催眠を解く」
先先先代が告げる。
オコがオルコンの弓を用意するが、メルのグラムは微動だにしない。
2体の石像が光りだし、金と赤銅の狐が目を覚ました。
「うっ!貴様ら何処から現れた?!」
「御前達は先程の!」
「黄金丸、赤銅丸。私の話をお聞きなさい」
聖子ちゃんは静かに話し始める。
「貴女は?」
「もしやお姉様では」
「私は貴女方のお姉様ではありません」
聖子ちゃんは正論しか語らない。これが神だ。二匹は聖孤天のオーラに圧倒されている。
「私は貴女方のお姉様から生まれたもの。聖孤天と言う神です」
「姉様は大妖怪九尾の妖狐なのです。神が生まれるはずがない」
「貴女方がお姉様と一緒に人間と戦った時代からもう数千年が経っています。初代妖狐様は何度も妖狐として転生し、私のお母様もその一人です。私は衆生の聖孤天を求める声に応えて、お母様の魂を分かたれて誕生いたしました」
聖子ちゃんは自分の事をこの様に解釈しているのか。とてもクレバーな子だな。
「お姉様は、お姉様は梵天菩薩の所に行って、どうなったのですか?」
「勝ったのですか?」
「初代妖狐様は初代ボン様の御威徳に触れ、前非を悔いてボン様の忠実な僕となり、ボン様と同じ生涯を歩まれました
「「なんと!」」
「さぞ不満でしょうね」
将軍の為に死ぬ覚悟を決めた部方の耳に、将軍が敵将に下り、恭順を示したとの報が届いた様なものだ。ある意味大阪から将軍徳川慶喜が船で帰ってしまったとの報を聞いた幕臣達の思いに似ているだろう。
「そうは思いません。むしろ安堵しております。我らは尾が九尾に裂け、悪事の限りを尽くすお姉様を心配しながら従っておりました」
「戦局はどんどん不利になり、お姉様は追い詰められて行きました。最後の逆転作戦として敵の中でも最も強力な梵天菩薩を籠絡すると言い出したのです」
その様な色仕掛け(ハニートラップ)がボンに効果がある筈がない。もはや殆ど玉砕作戦だ。
「初代様は初代ボン様の侍従としてボン様を護り、幸せな生涯を終えられはった。そしてボン様と妖狐はその後何代も転生しはった。妾もその一人や」
先先先代様が告げる。
「貴女は…。お姉様の面影が」
「先祖返りと言われておる。初代様は何度も転生し、やはり転生し続けるボン様と共に、ジョウザ宮殿にあり続けた。レムリアの殆どを支配したアンゴルモア帝国にも屈せず」
「全土を支配する帝国を退けたと!」
「大東の侵略とも戦って撃退した」
「大東をも…」
「その功績は民衆の心を打ち、聖孤天は信仰を集めた。あるボンが衆生を救うため如来に成仏する事を拒んで文殊菩薩となった時、従っていた妖狐は共に死して神となった。それがこの方、聖孤天様や」
神学上はそう言う事になるらしい。
「私は、貴女方のこの先を強制出来ません。でも、もし私と一緒に歩んでくれるなら。歓迎します」
「ありがとうございます。でも」
「一緒に行く事は出来ません。お姉様は我らに、ここで待て。と言われた」
なんだよ、この忠犬ハチ公達…。ここで初代ボンが初代妖狐の苦しみを和らげる為に、記憶の殆どを封じ、その為黄金丸、赤銅丸の事を忘れている事は言わないでおこう。
「では、再度この遺跡を封じるとしよう。初代様は今100年の眠りについて居られる。100年後に、必ず御前達を迎えに来るだろう」
ここに居る全員にとって、100年と言う年月は決して長くはない。
「初代様は、生きて居られる間はお忙しく、亡くなってからは大半眠っておられるので、貴女方の所に来るのが叶わなかったのです。次には必ず私が直接ご座所に行き、貴女方の事をお願いします」
聖子ちゃんが約束した!
「ありがとうございます。あのもし」
「その後また姉様は眠りにつかれるのでしたら、その時は私共を供にお加え願えませんでしょうか?」
「100年後が楽しみです」
「そう言や、なぜ温泉は出ーせんくなったんきゃ?」
こう言う現実に引き戻す発言は、パーサの仕事だ。
「今判り申した。祠自らが入り口を開ける為、止めたのでしょう」
「お姉様ご帰還の兆しが、地上であった為に」
なんと原因は
「聖孤天の祠が出来たから」
だった。
湯は再び湧出し始めた。間もなく地下通路全体を覆い、地上に湧き出すだろう。
「ではまた100年後に会いましょう」
「聖孤天様。お姉様の血脈が後代にまで続き、貴女様と言う神様を生み出した」
「我らの死が無駄では無かった事を知り、大変嬉しいのです」
黄金丸は蓬莱の陰陽師が放った式神の攻撃に抗して、初代妖狐の身代わりとなって滅され、赤銅丸は醍醐僧兵数千の一万回以上に渉る打突を身に受けて、やはり身代わりで死んだ。聖孤天が動けば、初代様も必ずやその記憶を取り戻すだろう。
我々は聖孤天の神殿に戻った。
数日後、温泉は復活したとの報を長老がもたらした。これでやっと温泉に入れる。
でも…。
「お父様お母様、まだしばらく一緒に居てくださるのでしょう?」
聖子ちゃんが俺たちの側を離れない。結界の家に行く暇もなく、メル達が神界に立派な迎賓館を作ってしまったので、そこに居るしかないのだ。あの家の方が好きなんだけどなあ。
そんなある日
「ウラナ様、一つご相談が」
シャミラムが何か話がある様だ。
また仕事か?
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