5-6.夢狐
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
5-6.夢狐
「姉さま〜っ!姉さま〜っ!」
「どこにいるの〜っ!」
幼い子狐が二匹、落ち葉の積もった坂道をトコトコ駆け下りて来る。
「「姉さまぁ〜っ」」
泣きそうになりながら探す。
「私ならここにいるぞ」
子狐達は少女に飛びついた。
子狐は金色の毛並みと赤銅色の毛並み。
「クガネ、アカネ。何をそんなに慌てている?」
「あのね、あのね。怖い夢を見たの」
「悪いお坊さんがね、姉さまを連れてっちゃうの」
「そうか。二人とも同じ夢を見たのか?」
少女の頭には狐の耳が。そして三本の尾が。鼎尾の狐だ。
「怖かったのか…よしよし」
「姉様、どうされたのです?その酷いあざ」
「いや何でもない。あの男…我が狐と判ったら急に殴った」
「だから言ったでしょう。人間なんて野蛮な生き物です。我らと共に森へ帰りましょう」
「そうですよ姉さま。今は大切な時」
「悔しや悔しや、所詮男どもは我の体が目当てなのか…」
「余り思いつめられては…」
「今は大切な時。今邪な心を抱かれると…」
「ああ恋しや恋しや。我は全てを捧げ尽くした。なれど人間には誠と言うものがないのか!ああ悔しや悔しや」
「姉さま、いけません。尾分かれが!」
「ああ駄目!黒い尾が…」
娘の三本の尾から真っ黒な二本の尾がそれぞれ生え、九尾の狐になった。艶やかな黒髪は瞬時に妖しく煌めく銀髪に変わった。
「さて、そろそろ出かけるとするかの」
「姉様、どこへ」
「その尾は…」
「知れた事よ。人を滅ぼしにじゃ。手始めに大東の帝を誑かし、彼の国を腐らせてやろうぞ」
「「姉様!」」
「御前達とはここでお別れじゃ。修羅の道に無垢なる者どもを連れて行くわけには行かぬでな」
「いえ、我らは姉様の妹として、最後の日まで共に行くと決めています」
「修羅の道、上等じゃないですか」
「黄金丸、赤銅丸!」
傷だらけ、ボロボロになった九尾の狐が祠の前にいる。両手には小さな石像
「クガネ、アカネ。やはり置いて行けば良かった。まさか蓬莱にあの様な強力な陰陽師がおろうとは…。クガネは彼奴の式神と我の身代わりに相打ちとなって果て、アカネも大東に逃げ戻って後、醍醐僧兵団に滅殺された。我は二人の魂を石像に封じて持ち来たりた。聞こえるか?御前達」
「「はい姉様。余り多くは話せませぬが」」
「我は憎き醍醐僧、梵天菩薩を籠絡して見せる。必ず彼奴を手中にして戻る。待っておれ」
「力足らず最後までお守り出来ず、申し訳ございません」
「この地を死守いたします」
「この祠に戻る道はただ一つ。その地下道を灼熱の熱湯で満たす。御前達は地中に入り、時を待て。必ず迎えに戻る」
「「姉様!」」
「これがこやつらの夢に潜む記憶。と言う訳か。悪事を悔いて身を苛む初代様の心を安堵するため、記憶の多くを封じられたとはいえ、この者たちは置き去りにされ、忘れられたのだな」
先先先代の強力な催眠魔術を浴びた黄金丸と赤銅丸の石像は眠りについていた。
俺はノヅリ師から授かった(かっぱらったとも言う)強力なアッチラ式精神感応術で、彼らの夢に潜む過去の記憶の断片を映像化したのだ。
「ワルになった初代様、先先先代様にそっくり」
「そうか?むふふ。先祖返りとは良く言われたが。皆も妾が悪の九尾にならぬ様、気をつけよ!」
「大丈夫、私がそんな事させない」
「聖上、冗談でございます。妾は聖孤天様の僕。悪の沼に嵌る事など間違うても」
後でコンコンが、鼎尾の狐は成熟と共にゆっくり一本ずつ尾を増やして行き十数尾に達するのだが、初代は憎しみの怨念を抱き一気に九尾に分裂したのだと教えてくれた。
「しかしこの脇侍ども。黄金丸、赤銅丸と言ったか。主君を庇って落命し、死して尚この地を守るとは、武人の鑑よのう。ぜひ月光の杯に紅き葡萄酒を満たして、一夜語りあいたいものだ」
「くがねちゃん、あかねちゃん。かわいかったなあ。あいたい」
「それだとわてとキャラが被りますがな」
「しかし気の毒ね。慕い続けた姉様はこの事をすっかり忘れて、ボン様に従ってしまったのだもの」
「私も一万年以上モヘンジョで待ち続けていたのは、ヌナムニエル様が私を忘れずにいてくださったからこそ」
いやちょっと忘れてたんじゃないか?と言う疑惑も…
「百年待って貰うしかないのう」
「わてらには間なしの時や」
「初代様ってさ」
「ん?」
「すっかり全部忘れてるかと思えば、ここから溢れた温泉のある場所に妖狐の里を作ったんだね」
「無意識下の意識ちゅうもんだがね」
「では、聖狐天、両名を目覚めさせてよろしいか?」
「はい、この人たちは私が救わなければなりません」
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