袋のねずみ(2)
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
1-15.袋のねずみ(2)
ガチャンという音に驚いて振り返ると、侍女が真っ青な顔をして立っていた。茶道具が床に散乱している。
「あ、あの、早まられてはなりません。きっとボン様が主上をお助け下さいます。って主上がボン様」
訳の分からない事を言っている。
集中しすぎて侍女が入って来たのに気づかなかった。しかもつい思考を口にしていたらしい。二重の不覚だった。
慌てて落ちた茶道具を侍女が片付けている間に、隣室にあった碁の本を背中に引き寄せた。前に魔術の先生から習った、嘉門という近距離で小さな物なら引き寄せる生活魔法だ。
「いや、ここにこう石を打たれると、この地が死んでしまうが、その後の戦局を考えれば見殺しにするしかないか」
「ああ、碁の話ですか。最近主上は考え込んでおられたので、まさか自ら命を絶たれるのかと…」
「愚かな事を。私は自分を含めて、殺す事が禁じられています」
「左様でしたね。申し訳ございません」
キャピキャピ軍団の中では多少は落ち着いてると思っている、名前をベンガニーというこの侍女は、ほっとした様子であった。
「今新しいお茶を」
「ああ、頼みます」
やばいやばい。今日はヨウコが居ないのだ。いつもはヨウコが気を配ってくれるので油断していた。今の所、俺たちはすっぽり袋に包まれたネズミと同じ。どこかに穴があればいいが、あいにくどこにもない。なければ穴を開けるしか無いのだ。
俺はこれからの通過儀礼を考える。修行の完成として、これから半年、様々な儀式が待っている。
近隣巡幸(国内を巡り出家を決意する)、
出家式(実の親とは生まれた時以来会った事が無い。俺には出生以来の記憶があるので覚えているが7人目の子で、ボンを産んだことに、主に財政的な面で心より喜んでいた。こんな親でも、一応出家する挨拶をする建前なのだ)、
滝行(滝は付近に無いので、スコールを浴びる)、
火渡り行、
断食行、
徹夜の読経行。
大変な密度のスケジュールが始まる。密行も顕行もあり、顕行の場合は多くの僧の前で行う。始祖の出家と修行を、形だけなぞって行くのだ。
このうちのどこで仕掛けるか…。ヨウコと綿密に相談して行かなければならない。
ベンガニーが新しい茶を淹れて持ってきた。
「ありがとう、下がっていいよ」と言ったのだが、なかなか部屋を出ようとしない。
「どうした?」
「主上がお疲れと存じまして、せめてもの息抜きに私が手作りした物をお持ちしました。喜捨をお受け下さい」
このような時ボンは断ってはならない。
例え貧しい子供が木を削って作った不細工な人形であっても、ボンは感謝して受け取るのだ。ましてこの娘は俺の気疲れを察して、せめてもの慰みに手芸品か何かを贈ってくれたのだ。
平たい木箱を押し付けるようにして、ベンガニーは走り去って行った。
なかなかしっかりした娘も中にはいるのだな。あの子はキャピキャピする仲間達を、いつも後ろで微笑んで見守っていた。
茶を飲みながら木箱を開けると、意外なことに手綴じの冊子だった。
題名は
「宮廷物語-ポン様とキョウコの物語」
お前かぁ〜っ!回し読み本の作者はっ!!
ベンガニー結構好きなキャラですw
読んでいただきありがとうございます。
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