4-38.ユーリケ!
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
4-38.ユーリケ!
「ああ。お父さんお母さんは待ってるのか。でも今更帰れないなあ」
「なんでよ!別に悪い事した訳でも無いし、当時はみんなの模範だった訳でしょ?」
「でも…」
60代以上の男性、つまり俺の前世の年齢だが、椅子から立ち上がる時
「よっこいしょういち」
と言う人が未だにいる。この愛知県出身の伍長は、日本がアメリカに負けても一人で戦争を続けた。
当時は絶対に捕虜になるな、惨たらしく殺されると教えられ、集団自決した人々もいた時代。
横井さんは一人になってもグアム島のジャングルに隠れていた。
洋服屋さんで手が器用だったので、何でも作れた。俺も生前博物館で横井庄一展を見て感心した。
彼は何故隠れ続けたのか?
原因は色々あると思うが、同時期にフィリピンのルバング島で発見された小野田少尉が実際に戦闘を続け、地元で恐れられたのに対し、グアムと言うリゾート地の、すぐ近くのジャングルに隠れ住んだ横井さんは、全く誰にも気付かなかったと言う。横井さんの場合は、恐らく早い時期に戦争は終わり、人々は平和を楽しんでいる事に気付いていたのではないかと思う。
じゃあ何故出てこなかったのか?
引っ込みが付かなくなったのだろう。
横井さんが日本に帰って来た時、日本中にニュースが流れ、最初の言葉は流行語になった。
「横井庄一、恥ずかしながら帰って参りました」
チョコラトルは超優秀な学生。彼氏が王子。当時は名誉と思われていた生贄にも当選した。
「行ってやろうじゃないの。死ぬ事なんか怖くないわ」
生涯友達にも弱みを見せずに生きてきた彼女が、今更帰れるか!と言う思いがあり、一緒に固い決意で(決意のない巫女達はパトニカトルの説得に応じていたから)冥界に行った先輩達も、一人また一人と欠けて行く。
「一緒に帰ろうよ」
と言ってくれる様な人間関係じゃなかった。みんなチョコラトルに一目置き、彼女はおめおめ帰らないだろうと思った。
横井さんは、その飄々とした風貌から、何となく生き残った様に思われるが、彼が洞穴生活で作り出した様々な生活必需品(木の繊維で洋服も作っている)を見ると、彼はグリーンベレーや自衛隊レンジャー部隊の教官が優に務まる、超優秀なプロ兵士である事が分かる。戦場で敵を倒すのは銃が上手ければできるが、生き残るのは簡単ではない。
プライドがあり、根を上げないから帰れないのだ。
「じゃあ、帰るのは諦めましょう、チョコラトルさん」
初めて会って開口一番、俺は言った。
「え?」
「みんなの模範、貴族の鏡のチョコラトルさんは絶対帰らない」
「そ、そうよ!」
「ウラナさぁ〜ん」
オルフェが泣きを入れる。
「そんな意固地な頑固娘は、さっさと冥界に置いて、あなたはさっさとオルフェと旅に出ちゃいましょう!」
ヴァニル王子は婚約者を殺した帝国への恨みを抱いて、王子の位を捨て大雪原を彷徨い、コリナンクリンに拾われてオルフェと言う別人として再出発した。今はオルフェが手を差し伸べている。簡単な事じゃないか。
共にジョウザを捨てたオコは深く頷いていた。
「あたし達は死んだとみんなに(特にメルに)思わせるのに滅茶滅茶苦労したけど、あんたは、あの国で一番有名な死人だものね」
相変わらずの直球だ。
「でも…帰らないとお父様お母様が悲しむ」
「そう思うなら、どんなに後ろ指刺されても帰ればいいじゃない。まあ噂になるのは半年だけどね」
「俺がこの方法を勧めるのは、オルフェがヴァニル王子としてはもう国には帰らないからなんだ。オルフェを取るか、両親を取るか。だ」
「両親に会いたければ、こっそり会いに行けばいいじゃない。完全に他人になっちゃえば、孫の顔だって見せに行けるわよ」
「…」
「もう充分や、あんたはどうしたい?」
「私は…ヴァニル、いえオルフェと一緒に行きたい!」
オルフェがぎゅーっとチョコラトルを抱きしめた。
「じゃあアシが新しい名前つけたるわ。いつまでもチョコラトルじゃいかんでしょう。頑子ちゃんがいいがね」
「パーサ、センスないなあ。却下却下。他の案は?」
「わたつま。わたりがらすのおにいちゃんのつまだから」
「やっぱりウラナに付けてもらったらええで。今回はウラナのお手柄や」
コンコンが珍しく褒めてくれた。
「そうだなあ…。ユーリケじゃどうかな?」
ギリシャ神話のオルフェウスが冥界から連れ戻せなかった妻エウルディケをちょっと訛らせてみた。しかもちょうど
「ヤクスチラン語で"私は取り戻した!"ですね」
「私は自分を取り戻した。オルフェは私を取り戻した。素敵な名前、ありがとうございます」
チョコラトル改めユーリケは、お世話になったニンニンにお別れを言いに行った。ニンニンは大変喜んで、『またウルニアの神殿で会いましょう』と言ってくれたそうだ。
俺たち一行は冥王様に、正式なクエスト達成の報告と、お暇を告げに行った。
「あなたのお陰で冥界がパンクせずに済み感謝です。更に功徳を積まれましたね、文殊菩薩」
だから地蔵菩薩の姿で、そう言う事言うのやめて!
それから俺たちは渡し船で宿屋に戻り、エノキド夫妻に別れの挨拶をした。
彼らも喜んで、いつでも宿屋に来れる護符をオルフェに贈った。
そしてパトニカトルに報告しに行った。
パトニカトルは大変喜んで、当然宴会になった。パトニカトルの旧妖精達は、両親の元に帰ってからも何かと理由を付けてパトニカトルの元にやって来ていたが、その一人が何とびっくりするゲストを連れて来た!
「「チョコラトル!」」
「お父さんお母さん!」
パトニカトルの粋な計らいだった。
ユーリケはオルフェを両親に紹介し(ヴァニルは婚約者だったから旧知の仲だけどね)、自分はユーリケとして生まれ変わった事、オルフェと旅に出る事を告げた。
両親は寂しそうではあったが、娘が生きて帰って来ただけで充分。と言ってくれた。
きっと久しぶりに着た洋服のポケットに福沢くん見つけた!と思ったら樋口さんだった。的な感じ?(例え下手ですまん)
お父さんはそれでも結構粘って、
「赤ちゃんが出来たら実家で産む」
と言う条件を引き出してガッツポーズしていた。
お母さんは私達も旅について行こうかしら?とか言い出して、オコにダメダメされていた。
それからオルフェはユーリケをコリナンクリン社長に引き合わせ、旅の同行の許可を願った。
「ユーリケと申します。よろしくお願いします」
「気合の入った子ね。即戦力だわ。しめしめ。雇用条件とか、なんか聞いておきたい事、ある?」
「そう言うのじゃないんですけど…。なに食べたらそんなに大きくなるんですか?」
「ウシシシ。気になる?ゆっくり教えてあげるからね。社員旅行で混浴温泉行ったりすると、オルフェくんたら私の胸ばかり見てるのよ。結構なおっぱい星人」
「オルフェちょっと」
ユーリケがオルフェの耳を引張って別室へ。まあかかあ天下が安全だよ。とニヤニヤしてたら、オコさん?何で俺の耳を!
今回の旅は本当にハードだったが、ようやく終わった。
「さて、次はどこ行きたい?」
「取り敢えず妖狐の里行って聖子ちゃんに会いたい!」
「賛成やな」
「アシはちょっとシバヤンさの工房で定期点検して貰ってくるで」
「妖狐の里の結界の家は落ち着くなあ。温泉に浸かって、雪見酒♫」
「おうちがいちばん!」
ラン子が後ろ足を
パンッ
と打ち鳴らした。
第4部 完
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お付き合いありがとうございました。
ユーリケは前述の通り、エウルディケから来ていますが、アルキメデスが浮力の原理を発見した時、風呂から全裸で飛び出して街を走り周った(お巡りさんこいつです)時の言葉
「ユーレカ!(私は見つけた!)」
にも掛けています(ドヤ顔)。
第5部では旅ばかりではなく、メグルとオコの新婚生活も書いてみたいと思います。
エッチいのはなしよw
読んでいただきありがとうございます。
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