4-17.メルの事
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
4-17.メルの事
俺はダガムリアルにエルロンの一件を話した。
「なるほどな。別の話の様でいて全て繋がっておる。マーリンは計算高い男よ。余程の条件を示さねば、冥界の牢獄を開けてはくれまい。まあわしが開けてもいいのだがな。あの鍵はわしが作ったのだ」
「なんと。でもそれではエルロンは納得しますまい」
「そうだな。そもそもあやつならば、鍵を壊すのは、造作もない事」
「はい、あくまでもかつての人類の代表、ギルガメシュ(実はエノキド)に断罪されたのだから、現在の人類の代表のマーリンに赦免されたい。との思いの様です」
「まあ屁理屈を言っておるが、要は牢を出たくないのであろう。妻とは和解し、長子のナントは立派に月の神を務めておる。下の子供達は冥王の片腕として無くてはならぬ冥界神じゃ。今更みすみす面倒なバクロンの主神ごときになりたいなどとは思わんじゃろ」
「おっしゃる通りです。エルロンにはヌナムニエルの窮状を訴えましたが」
「自業自得と言われたであろう」
「はい。ただこのまま"沈黙の神"を許し続けるのは、イザン朝初代のイズの思う壺かと。エルロン殿が冥界に来たイズに、なぜ自分の様な投獄されて何もできない神を主神に選んだのか?と聞いたところ『神などは不要なのだ』と言われたと、忌々しげに言っておられました」
「不要にされては困るな。メグル殿、なぜレムリアにはこの様に神々が多いかお判りか?」
「人々が多様に信心するからでしょう?」
「まあそう言う事じゃが、要は飽きやすいのじゃ。或いは自分の願いが叶えられぬ時、信心自体を止めてしまわない様に。とも言える」
「気に入らなければ乗り換えても構わないが、信心は止めて欲しくない。と」
「そう言うことじゃ。レムリアの世界は魔素に満ちており、魔法を学ぶ事により魔術と言う形で人々の暮らしに役立てておる。それを管理しているのが神々と言うわけじゃ。ところが、先日そなたらが退治した科学者と言う奴らじゃが」
「あれは退治と言うほどじゃ」
「奴らは無神論者じゃ。わしらの存在を無視して、魔素を自分達の都合のいい様に使おうとする。失敗しても暴走しても、科学の発展のためと言って犠牲を厭わない。技術の力を信じている。と言う意味では、わしなどは共感する面もあるのじゃが、人間は触ってはいけない。またはまだ早いと言う領域まで、ズカズカ入って来る」
「神々を信じる事を止めれば、科学はもっと大きな力を持ち、人類は破滅に向かうと」
俺は環境破壊、核戦争などで破滅に向かって歩き始めた20世紀の地球に思いを馳せた。
「そなたもエルロンから聞いておろう。イザン朝は保って後2−300年。おそらくその後はバロニアが再建されようが、その際民が主神を求めなかったらどうなる?今回バロニア独立勢力と大東の科学者が手を組んだ。もしこの二国が神を持たない、科学による支配を目指す国になったら?」
「魔素の利用に歯止めが効かなくなる。国中がメルハバだらけに」
「あの娘はまだ暴走した後、自分のした事に恐れおののいておる。科学者達は例えこの星を吹き飛ばしても、科学の成果と自画自賛するじゃろう」
「やはりエルロンには例え200年でも"良き神"としてバクロンに君臨して貰わないと行けませんね」
「そうだな。その為にはまずマーリンを説得する事。それには目下マーリンが抱えている問題を解決して貸しを作るのが上策じゃろう」
「メルの事ですね」
「メルはな、魔術師をやめたいのじゃ」
「あれだけの才能がありながら」
「オコよ、確かにあの者に比べればそなたの才能は乏しい。だがそれを的確に過不足無く使える事によって、弓でも踊りでも最良の結果を得ておる。しかしメルはそれが出来ないのじゃ。メルはそれが判ったので、魔法を封じようとしておる」
「独鈷杵を返してまえばええんでにゃぁの!」
「確かに以前は独鈷杵がメルの力を増大化しておった。しかし今はむしろ独鈷杵がメルの暴走を食い止めておる。大した宝具よ」
「マーリンはメルが魔術師を止めるのに反対なの?」
「無理に魔素を使わぬ様に封じた結果、より悲惨な暴走を起こす事を、マーリンは案じておる。体内に封じ込めた魔素を封じた事により暴発してしまい、人でなくなった魔術師がかつておったのじゃ」
「人で無いなら何に?」
「大魔王。もしくは竜」
それはいけない。あの美しい、いや容姿はこの際関係無いが、あの純真で真っ直ぐなメルがその様な化け物に…。
「ダガムリアルさん。私にできる事なら何でもします。メルを救いたい」
「では、仲間で解決して行こう。ワシの力だけでは何ともならん」
「マーリンはメルに、どうして欲しいんですか?」
「これよ」
ダガムリアルは麻袋から無造作にカラリと金属片を取り出した。
「剣の破片。グラムですね?」
「マーリンはメルに様々な魔道具を示した。農具、料理器具、機織り機、文房具。独鈷杵の代わりに彼女の才能を引き出す道具をな」
「そしてグラムに興味を持ったと」
「まだ魔法の訓練など始まる前、色目人の村で棒切れを振り回してチャンバラごっこをしていた子供時代を思い出したとか。マーリンも剣士であれば、才能を活かせるのではないか?と望みを持ったそうじゃ」
「でも、剣で切らなくてもいい味方まで切っちゃわないかしら?」
「グラムはな。自分や味方に危害が迫らない限り、鞘から抜けんのじゃよ」
「なるほどなあ、そういえばあの子。山賊や狼を楽しそうに切ってはったらしいな」
剣士か…。聖狐天を守護するのに相応しい職業かも知れないなあ。魔剣であればメルの魔素を受け止めて剣技に変えてくれるだろうか?
「マーリンは多くの鍛冶屋に依頼して、この折れた破片を繋ごうとした。しかし尽く失敗したので、俺に依頼が回って来た。しかしわしも三たび失敗しておる。どうしても継ぎ目から折れるのだ」
グラムはヨーロッパ系の直刃で両刃の片手剣だ。かなりの重量なので、余程の筋力がないと扱えない。この手の大剣は利き腕で扱い、反対の手には盾を持つ。刃は焼き入れして研ぎ出してあるが、基本は鋳造剣である。盾で心臓を守る為右利きである事が要求され、左利きが少なくなったと言われる。大きく重く。基本は鈍器の様に相手に振り下ろして打撃を与える事が中心で、素肌の部分しか刃で切り裂く事は難しいのだが、グラムやエクスカリバーは、易々と鎧兜を切り裂いたと言う。ただ打撃を与えるだけなら巨大な戦闘斧や大棍棒の方が質量的に勝っており、しばしば打ち合って折れてしまうのが、硬いが脆い鋳鉄剣の弱点だ。
「この剣はまた必ず折れます。それも継ぎ目から」
「判っておるのだが、何ともならん!」
「継げないなら、溶かしてしまいましょうよ」
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