4-4.ウルスラ
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
4-4.ウルスラ
「妾も師とは生前50年以上の縁であったが、未だにあのお方の考えておられる事は分からぬ。
言える事は2つ。
1.師は気まぐれ。
2.怒らせたら台無し。
と言うことじゃな」
怒らせたら駄目というのは三元も同じだが、気まぐれと言うのは厄介だ。
「あとタオ教で言う老師とはマーリン師の事じゃ。老師譚は読んだことはなかろうな?」
”老師譚”は現世の”老子(老師道徳経ともいう)”にあたる書物で、レムリア版の”老師譚”なら読んだことがある。
「一応読んでます」
「そうか。あれはの、妾が書いたのじゃ」
ウルスラはちょっと機嫌が良くなった。作家として読者に会うのは嬉しい事なのだろう。俺の本も多くの読者に読んでもらいたいものだ。
「師は自分の教えを広く世に出したいと思われ、自ら筆を取られたが三行書いて飽き、妾に口述筆記を命じたがこれも三枚程で飽き、『あとはお前が修行の成果を書いてみよ』と言われた。出来上がった書にさっと目を通され、『うん、これで良いぞ』と言われた」
「一発合格の三元さんも凄いですね」
「いや、日頃から師に口うるさくガミガミ言われたり、師が酒に酔ってくどくど同じ事を繰り返し言われる事を記しただけじゃ」
それが今ではタオ教の最重要経典だ。
「とにかく面倒くさい年寄りじゃった。まあ師の思考回路はだいたい分かっているゆえ、一度そちらの『窮状』とやらを妾に申してみよ」
あれ?これってマーリンに会えるって言う流れ?
「それなら師は一言で答えるであろう『放っとけ』と」
ヌナムニエルの願いを聞いて、三元は即答した。まあ想定内だ。エルロンも自業自得と言ってたしな。
「読んだのなら解ろうが、師の教えの根本は無為自然。あるがままに任せよ。と言う考えじゃ。ただ師が弟子を使って人間界に介入する場合、往々にして自然どころではなくなる。ここに大いなる矛盾があり、師が気まぐれといわれる所以じゃ」
「という事は、エルロンを解放する大義があれば自然でなくてもいいと」
「解っておるではないか。これだけ頭数が揃っておるなら、各々エルロンが解放されるとどんな利があるか申してみよ」
まずオコ
「私は自ら望んだとは言え、無実の人がいつまでも獄に繋がれているのは良くないと思います」
「ふむ妾なら80点じゃが、師は0点をつけるであろう」
「そんなぁ」
「師は言われる。『正義とはなにか?悪とは何か?そんなものは時代に応じて変わる人間の都合よ』と。第一そのエルロンと言う神は出たければ自分で出られるのであろ?」
次はコンコン
「マーリン殿は西域で苦労しておられるご様子。ヌナムニエルやエルロンに貸しを作っておけば、後々有利になるんやないですやろか?」
「流石老練な妖狐。と言いたいところじゃが、相手が北神どもでは、西南の神々は何もできまい」
どうもマーリンは北神と言われる神々とトラブってるらしい。
つぎはパーサ
「マーリンさは、神が同一するとか、自然の理に反すると思ってござるんじゃにゃあかね?だったらヌナムニエルさが引退しエルロンさがバクロンの主神になるのは同一が無うなって、いいんじゃにゃあか?」
「機械の娘よ。師はそこまで思い入れを持たない方だ。合一はくだらんと言うじゃろうが、さりとてそれを人や神が選んだのなら、それはそれで好きにせよ。と言う程度の問題じゃな」
ラン子
「めいかいはさむかったよ?バクロンあったかい」
「うむ。この幼児が一番師の考えに近いな。ただエルロンとかいう神が、暑がりなのか、寒がりなのかは知らん」
最後に俺が進み出る。
「失礼ですがこの一年に、三元さんは師にお会いになられましたか?」
「師に?最後に会ったのはお誕生日に先月弟子一同集まったが?」
「その時マーリン師はなにか酷くお疲れの様子では無かったですか?」
「そう言えば。北神の問題が長引いているとは聞いておるが、いや待て。新しい弟子を紹介する折、ため息をついておられた」
「そのお悩みを、少しでも解消出来ると申し上げたら?」
「冥界牢獄の鍵など簡単に開けてくださるだろうな。詳しく」
俺はマーリンの新しい弟子、旧名メル•ハヴァ。最近は暴風の魔女メルハバと言われている者と、俺たちの因縁を語った。
「ほう。酔って山を吹き飛ばすなどは、若い者には良くある事だが(あるのかよ)、全力で跳んでくるそちの侍女を、木々渡りだけで空中に静止させるとは。そしてそれが無意識に出る?恐ろしい子じゃ」
妙にマニアックなところで感心している。しかし、メルの有り余る魔力と、制御が出来ず暴走するところは、魔術を極めれば極めるほど戦慄するらしい。
「独鈷杵が三鈷杵に育ったら、世界を滅ぼしかねん」
とシバヤン達は心配したが、既にメルはマーリンの元に向かっていたので後をマーリンに任せたのだった。
「で、そのメルがそなたの侍女の」
「妻です」
オコがダメを入れる。
「妻、でいいのか?ウラナは。え?話がややこしくなるから妻でいい?じゃあメルがそなたの妻のオコ女に懸想しておると?」
新しい発見だ!オコ女って小動物ぽくて可愛い!
「はい。それは本人の口からも聞いております」
「では、オコ女の言う事ならメルハバは聞くと」
「嫌です嫌!あんな怖い魔女には関わりたくない。ごめんです!」
「いや…妾とて師匠は大切なのだ。師の心労を少しでも和らげられる事であれば。オコ女よ、了見してはくれぬか?」
「なんかあの子にいい顔すると、要求が更に倍加しそうで」
「いやいや思春期に抱く偶像への想いなど、上手くいなせば大事には至らぬものじゃ。彼奴ら(偶像)をどれだけ愛し、祈っても大願は成就せぬ。莫大な富を捧げても、せいぜい手を握ってくれるだけじゃ」
CD沢山買って握手会か。三元詳しいな。
「嫌あ!手なんか握ったら、手首ごと持って行かれる」
ちょっと怖がりすぎじゃないか?オコ。馬車で旅行していた時は、結構満更でも無かったみたいだが、その後山賊首チョンパとか狼一瞬殲滅を目の当たりにし、そして例の山吹き飛ばし事件を聞いて怖くなったか。
「あんた、何て事吹き込むのよ。私があの子に会って、あんたが私の夫だって聞いたら、あの子あんたに何するでしょうね?」
ヤヴァい!俺が一番危険じゃないか!
「あくまでも」
コンコンが考えながら言う
「あくまでもオコが会うのではなく、聖狐天としてメルに会うならば?」
「そんなに上手く行くかあ?」
「そこでウルスラさんや」
「あたしぃ?」
ウルスラが急に振られて驚く。
「なるほど偽降霊術か」
「よろしい。詳しく話を詰めようではないか。誕生日の贈り物を全員気に入らん、不要だと突き返されて、弟子一同凹んでいた所じゃ。これが上手く行けば、妾の責任でエルロンの解放を師にお願いすると約束しよう」
「ところで、おぬしは最初問いが2つあると言ったな。あと一つは?」
「三元さんは豚肉はお好きですか?」
「嫌いではないが、それが何か?」
「いや何でもないです」
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