神界見聞録4(オーランドの動乱1)
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
3-27.神界見聞録4(オーランドの動乱1)
犬はエノキドは知らない。と言ったが、俺たちは他に宛てもないので犬の友人のところに行って見る事にした。
西へ西へと進むと、地形が急速に下っていき、おそらく対応している現世の方もかなりの低地なのだろうと推測できる。
「川が見えるけど。海がないな」
神界にも海はあって海神や海竜が住んでいるのだが(シバヤンの乗ってた"軽"とか)、ここの川は地上の大穴に向かって滝の様に流れ落ちている。
川のほとりに幾つかの大きな天幕が張ってあり、数百人の人々が整列している。
「なんか兵隊みたいね」
あまり立派なものではないが、それぞれ革鎧や兜で武装し槍を持っている。しかし何かバラバラ、ちぐはぐな感じだ。
「我ら〜っ!オーランド川の恵みを受けしもの〜っ!共に敵の脅威を跳ね除けようぞ〜っ!」
隊長らしき人が声を上げるが、答える声は弱々しい。
巨大な翼獅子に気づいた者が
「うわ〜っ!怪物」
「新たな敵か?!」
と色めき立ち、向かってくるかと思いきや逃げ出してしまった。
「おい!待たんか!」
と隊長が叫ぶが、全員居なくなった。
「あの、なんかすみません」
俺が声を掛けると、隊長はビクッとして
「何者であるか?」
と誰何した。
「旅の者です。みなさんに敵対する意図はありません」
「だいたい敵はそう言うのだ。我輩の部下は流域の漁師が中心の民兵なのだが、どうも腰が座っていなくてな。そなたらが敵であれば、我輩が独力でお相手致す!」
剣に手を掛ける。
「待たれよ」
なんかこちらも変な口調になり、
共通定期券を差し出す。男はそれを改めて
「失礼いたした。ギルガメシュ殿のご身内でござるか?」
「まあ知り合いです。ギルガメシュさんをご存知で?」
「かつて東の辺境で共に悪鬼と戦った戦友でござる」
「もしかして、あなたがエノキド?」
「その名前は存ぜぬな」
男はフルフェイスの兜を撮った。
イタチ?いや黒くてツヤツヤ濡れた毛並み。
「獣人ですか?」
「如何にも。我輩がオーランド川防衛隊長の、ミニヨン・ド・オーランド(オーランド川のカワウソ。ミニヨンはフランス語でカワウソ)である。と言っても今では部下は僅か300で、士気も上がらぬこと、先ほどご覧の通り」
「旅行家のウラナと申します。それではエノキドという人はご存知ないと」
「一向に」
ギルガメシュの戦友なら知っていそうな者だが。いや待てエノキドはすっとギルガメシュと名を偽って各地で活躍していたという。
「エルロンは知っていますか?」
「知っているとも。彼奴が投獄されて後、ギルガメシュ殿は東部戦線に身を投じたのだ」
という事は彼が知っているギルガメシュはエノキドだ。
「ギルガメシュが今どこにいるか、わかりますか?」
「こちらこそ聞きたいぞ。そなたらはギルガメシュ殿の知り合いではないのか?」
隊長は怪しむように見る。
「ギルガメシュさんはここ数百年行方不明なので、我々が神界まで捜索に来たのです」
「そうであるか」
ラン子から皆降りてきて思い思いに体を伸ばす。
「珍しなあ、カワウソはんやおまへんか?絶滅しはったと聞いてましたえ」
「ややっ、そこもとは妖狐か。我輩は初見であるが、その節は一族が色々世話になった」
後で聞いたら絶滅寸前で、初代妖狐が"神界渡り"を手引きしたそうだ。
「なんの。共に妖怪としては従兄弟みたいな物やさかい」
獣人は元の動物とは直接関連は無いのだが、神々における信者の数の様に、モデルの動物の数で、獣人の勢力も規定されてしまう。川の流域のカワウソの漁場が人間に荒らされて、カワウソ獣人も子供が生まれなくなり、激減したのだとか。
「ところで、何と戦ってるの?」
相変わらずオコは直球だ。軍事機密かもなんだぜ。
「毎年この時期に、奴らが登ってくるのだ」
「奴ら?」
「玄武軍だ」
「げんぶってかめのおじいちゃん?悪いことしないよ」
四獣のうち北方を守る巨亀の玄武は、仕事柄西方を守る白虎と付き合いがあり、ラン子も小さい時から可愛がられているらしい。
「困った事に玄武様とは関係無いのに、勝手に名乗っているならず者共じゃ。この川が落ち込む大滝の滝壺にいつの間にか住むようになった亀どもでな。最近滝を登って来て略奪の限りを尽くしおる」
防護の網を張るとか…
「何年か前に不思議な金属製の小さな剣が南東より飛んできてな。穴に飛び込み、網を破ってしまった」
方角はあっている。シバヤンホールインワンだな。しかしなぜ穴に落ちた独鈷杵がジョウザに?
「たぶん今夜奴らは登って来るが、部下は四散してしまい、このままでは…。困った」
隊長はジトッとこちらを見る。
「ウラナ殿はともかく、お付きのお二人は強そうだのう」
まあ元はシバヤンの癇癪が原因だし、部下が居なくなったのも俺たちのせいだし。仕方ないか。
その夜、本当に奴らは登って来た。
「殺しちゃダメだぞ」
「縛ればいいんだね。パーサ行こうか?」
「数は500?まかしときゃぁて」
穴を登って、続々と亀が登って来る。
オコは鏃を潰してた矢で一度に何十匹と言う亀に脳震盪を起こさせ、パーサが片っ端から縛る。なぜご丁寧に亀甲縛りを?
30分もかからなかった。
パーサが時代劇でよくある方法で(これはパーサしかできないだろう。甲羅だもの)、大将らしい亀の背中をとんと押すと、昏睡から醒めた。
隊長が尋問する。
「滝壺には魚も沢山住むであろう。なぜ侵略する?」
「そこに穴があるから?いやごめんごめんない。お頭の命令なんでさ」
「そいつはどこに居る?」
「滝壺の下でさ。お頭は重すぎて、滝を登れねえんで」
「じゃあ行くしかないな」
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