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6. 初日終了と勘違い


目の前の門は相変わらず固く閉じられているため、お侍様の表情はうかがえない。



しかし、少なくとも怒っていないのは伝わってくる。



そのことが嬉しかったためか、胸が大きく高鳴るのを感じた。



なぜだかわからないけど、どうしてもお侍様のお顔を拝見したい。



「あの・・・」



だが、口を開いた瞬間に、それは出過ぎた望みであるような気がした。



「そ、それでは、こちらに置いておきますので、お召し上がりくださいね。お口に合うといいのですが・・・」



お侍様が何か言おうとする気配がしたが、お疲れのところ長居するのも心苦しい。



「また、明日持ってきますね。えっと、量が足りなければ教えてください。」



いつもより饒舌じょうぜつな自分に気がつきつつも、どうしたことか止められない。



「それでは、本日もお勤めご苦労様でした。いつもダンデをお守りくださり、ありがとうございます。」



門を隔てて向こう側にいるであろう相手に、深々と頭を下げる。



踵を返し、半ば急ぐようにその場を後にした。



ーーー ひゃ〜っ!なんか胸がドキドキする・・・!



火照った顔をおさえながら、意味もなく走った。



荷物を手放したので、来た時よりも身体が軽い。



動悸どうきはするけど・・・



この時の私には、この鼓動の由来が分からなかった。





ーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー




家に着くと、ジェマ婆ちゃんと孫のアデルが待っていた。



「あ!カステラが帰ってきた!」



私に気づいたアデルが声を上げる。



「ジェマ婆ちゃん、アデル、おはよう!」



手を振りながら二人に近づく。



まるで何かのキャラクターであるかのように特徴的なジェマ婆ちゃんに比べ(失礼)、アデルはいわゆるイケメンで、村の娘たちの間でも人気があるようだ。



身長は頭二つ分くらい違うけど、年齢は私と同じくらいだと思う。



後ろに結んである赤味を帯びた黒髪に、意志の強そうな瞳が印象的だ。



ーーー 性格に少し難ありだけどね。



「その様子だと、初日は無事に終えたようだね。」



入り口に置いてある椅子に座っていたジェマ婆ちゃんは、よっこいしょと立ち上がった。



二人のもとにたどり着くと、ふぅ、と息を整える。



「ジェマ婆ちゃんってば、本当に大袈裟なんだから。お侍様、とってもお優しい方だったわよ。」



その瞬間、目の前の二人はこれでもかってくらい目を見開いた。



「「会ったのか???!!!!」」



さすが血縁者同士、ジェマ婆ちゃんとアデルの表情と声がぴったりと重なったので、思わず笑ってしまった。



「ふふ、会ってはないけど、声は聞いたよ。とっても素敵な声だったな〜・・・」



あの低くて涼しげな声を思い出すだけで、頭がふんわりする。



そんな私を見たアデルが、ムッとしたように言った。



「声だけで良いヤツかどうかなんてわからないだろ?」



「わかるもん!空気感っていうのかな?フィーリング??」



ふぃーりんぐぅ?!と頭をひねりつつも、さらにムッとした様子のアデル。



一方、ジェマ婆ちゃんは、深刻な表情をしている。



「カステラよ。あんたお侍様と喋ったのかい?」



ジェマ婆ちゃんの問いかけに、思わずきょとんとしてしまった。



「喋ったよ?門越しでだけど・・・お料理をどこに置けばいいかわからなくてあたふたしていたら、お家の中から出てきてくれたの。」



「料理だってぇ?!」



驚いたように声を荒げるジェマ婆ちゃん。



ジェマ婆ちゃんがなぜそこまで驚くのか理解できない私は、さらにきょとんとした。



「いや・・・これは私の責任だねぇ・・・説明不足だったか・・・」



ハァ・・・とため息をつくジェマ婆ちゃん。



「カステラ、アンタは料理ではなく、食べ物・・・つまり、新鮮な野菜だの米だのをお届けすれば良かったんだよ。」



「えぇっ??!」



今度は私がびっくりする番だった。アデルは両手を頭の後ろで組み、私に向かって「バーカバーカ」と言っている。



ということは、わざわざお料理しなくとも、ただ食材を届ければ良かったってこと?



「昨日アタシの他にも誰かがアンタんちに食糧を届けに来ただろう?」



「そういえば・・・」



クマおじさんは鴨肉の他に、米や麦などの穀物も持ってきてくれたっけ。



「これから今まで以上に農民がアンタんちに食べ物を持ってくるようになる。それは暗に、お侍様への貢物も含まれているんだよ。役割を担ったもの一人に負担させるわけにはいかないからね。」



それを聞いて、一気に恥ずかしくなる。



ーーー 私、もしかして物凄く差し出がましいことをしてしまったんじゃ・・・



「バッカだなぁ、カステラは。まぁ知ってたけど。」



今の私には、いつものアデルの憎まれ口にツッコミを入れる余裕はない。



「どうしよう、ジェマ婆ちゃん・・・お侍様に謝りに行った方がいい・・・?」



半泣きになりながらジャマ婆ちゃんにしがみつく。



「落ち着きな。まぁ、初日だからという理由でお侍様も大目に見てくれるだろうよ。お優しい方だったんだろ?」



コクコクと盛大に頷く。



「なんせアタシらの中にあのお侍様にお会いしたことのある者は誰もいないんだ。噂が一人歩きしちまってるふしもあるかもしれん。だが、必要以上に心を許すんじゃないよ、カステラ。恐ろしい魔物たちを相手にしてらっしゃる方なんだからね。」



ジェマ婆ちゃんにも念を押され、明日から出過ぎた真似はしませんと心に誓うのであった。



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