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5. お食事をお届けに参りました!


翌朝、私は早起きをしてお侍様に届けるお食事づくりに取りかかった。



「お守りくださりありがとうございます」の想いを込めて、いつもよりも丁寧に野菜を切る。



昨夜、ジェマ婆ちゃんと入れ違いでやって来たクマおじさんがくれた鴨肉で、鴨汁を作ったのだ。



冷蔵庫がないため、肉や魚は、新鮮なうちに火を通さなくてはならないが、夜に作ったものは、火を通せば翌日にも食べることができる。



鴨鍋に火をつけ、新しくねぎを足した。



切り終わった野菜をサラダし、その上に茹でた卵をカットしてのせる。



葱に火が通り、お米が炊ければ完成だ。



早起きして料理をすると、何だか温かい気持ちになる。



窓から見える外の世界はすでにキラキラしているし、木々たちは早くおいでと言っている。



お侍様は、一体どんな人だろうか。



魔物は夜にしか出てこないと聞いた。



私たちがぐっすりと眠っている間に働いて、この時間にはもうすでにお家で寝ているのだろうか。



この任務についているうちは、こんなに美しい世界を清々(すがすが)しい気持ちで見ることは叶わないのではないだろうか。



一晩中魔物と戦っていたら、家に帰った途端にぶっ倒れるに違いない。



そしてまた夜が来たら、魔物を倒しに行く・・・



私にはできない。絶対に無理。考えただけで気が遠くなる。



だったらせめて、栄養面で協力して差し上げるしかないじゃないか。



嫌いな食べ物はないかな、好きな食べ物は何だろう?



ーーー なんて考えているうちにお米が炊けた。



お盆の上に蓋をした食事を乗せ、私はお侍様の住んでいる家に向かった。



うちから歩いて十数分くらいだろうか。道の草木がお侍様のお家までの道のりを教えてくれたから、迷うことなくたどり着いた。



昨日ジェマ婆ちゃんが道順を教えてくれたような気もするが、すっかり忘れていた自分にびっくり。



そこは、美しい緑の中に静かに佇む、私たち農民の家よりも立派なお屋敷だった。



こういうのを武家屋敷というのかな。



多分お一人で暮らしているためか、規模は大きくないけれど、無駄なものが何一つなく、清流な空気感を纏ったお屋敷を前に、背筋が伸びる。



「お食事、どうしよう・・・」



そういえば、ジェマ婆ちゃんに肝心なことを聞くのを忘れていた。



このまま門の前に置いておけばいいのか、扉の前まで運ぶべきか、本人に直接お渡しするべきか。



温かいうちに鴨汁を召し上がっていただきたいし、出来れば一秒でも早くこのお盆を手放したい。



中身がこぼれないように気をつけながら運んできたため、そろそろ腕と手が限界である。



汁物というチョイスは間違いだったかもしれない、と今更気がついたのだが、もう遅い。兎にも角にも、この細腕にはかなりキツイ。



そうそう、転生前から割と細身な方だったけど、カステラちゃんはさらに華奢だった。



しかも色が透き通るように白く、本当に農業をしていたのかと疑ってしまうほどだ。



いろいろな部位がプルプルしてついに限界に達そうな時、門の中の扉が開く音がした。



誰かが門まで近づいてくる音がする。



ーーー これはもうお侍様に決まっている。どうしようめっちゃ怖い人だったら・・・俺の眠りを妨げるヤツァ首をねられたって文句ァ言わせねエェェェェとか言われたりしてぇぇぇー?!!!



「人の気配が消えぬから来てみたが、ご苦労であったな。」



脳内でヤクザまがいの強面武士を想像していた所に、凛とした耳障りの良い声が聞こえた。



お侍様は門越しに話しかけてくれているようだ。



あれ、何だかとっても良い人そう。



そう感じた私は、思わず口を開いていた。



「あのっ・・・鴨汁を作ったのです。冷めてしまわぬうちに、どうかお召し上がりくださいませ。あ、でも、お疲れでしょうからお休みになってからでも・・・あー、もうっ! ホントどうして汁物にしちゃったんだろう!武士といえばおにぎりですよね・・・」



私が一方的に喋ったためか、門越しのお侍様は驚いたように言葉をつまらせた。



しかし少し間を開けた後、微笑むように返してくれた。



「いや、構わない。鴨汁は好物だ。」




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