2. 農民であることを再確認して
「いかにも、私の名前はカステラですが、どうやら頭を打って一部記憶を失ってしまったらしく、この世界のことや私自身のことをよく覚えていないのであります。よろしければそれらのことについてご教授願えませんでしょうか候・・・」
中途半端な嘘と本当が入り混じっているが、出来る限り丁寧に尋ねてみた。
怒りに触れてその鍬を振り下ろされたら大変だ。
「それは本当かい?・・・まぁお前はそんな下らない嘘をつくような女子じゃないだろうよ。」
訝しげな視線から同情の視線へと変わる。
カステラちゃん、グッジョブ!
どうやら私は良い子に転生したようだ。
「アンタの名前はカステラ・・・は知っているのか。私はジェマだよ。アンタのご近所さ。アンタん所の畑からは良い農作物が取れるからね。今日もうちの鶏が産んだ卵と何か交換してもらおうと思って来たんだ。」
ふむふむ、なるほど。
「あのー、つまり、私ってば何者なのでしょうか・・・?」
「何者ってアンタ、あたしら含めてこの辺りの人間はみんな農民だろうが。」
やはりーーーー!
やはりそうかーーーー!!!!
「実は大きなお屋敷のお姫様でしたって可能性は・・・?」
「アンタ、本当に頭を打っちまったようだね・・・」
ジェマ婆さんの同情の色がちょっと濃くなった。
うぅ・・・やっぱり・・・
私は、この状況に軽く絶望していた。
だって、転生前、一部の人間にとっては最も希少価値の高いJKだった私は、一体何のためにお小遣いとお年玉を悪役令嬢物語と乙ゲーにつぎ込んできたのか。
よく見ればジェマ婆さんだけじゃなくって、私だって薄汚れた桜色の着物を着ている。
きっとここは昔の日本を舞台としたどこかの世界なのだろう。
日本だと言い切れないのは、名前がそれっぽくないから。
私はこれから先、一生農民として生きていくのだろうか。
・・・不思議と、それも悪くないかと思い始めている自分に少し戸惑う。
だって、静かな土地に、綺麗な空気。
コンクリートに囲まれた電線だらけのあの街よりも、ずっと居心地がいいんだもん。
ご近所さんだって優しそうだ。顔は少し怖いけど。
私の顔を心配そうに覗き込む灰色の瞳に、なぜだか泣きそうになった。
少しだけ、農民として頑張ってみよう。