1. 転生した事実より転生先に問題あり
んむっ?!この感じ・・・私は知っている。
--- なぜなら悪役令嬢への転生モノを死ぬほど読んできたのだから!!
目を閉じて仰向けに寝転がる私。肌に伝わる空気が、ここは異世界だと言っている。
なんならこうなることを見越してありとあらゆる乙ゲーを制覇してきた。
もちろん全キャラ攻略済みだし、悪役令嬢として転生後の立ち振る舞いもシミュレーションし尽くした。
よく考えれば完全にヤバい奴だったけど、転生するならヒロインではないと自覚していたのだ。ハハハ
前世の記憶は飛び出した猫を助けようとしてトラックに跳ねられた所で途切れている。
転生されたのはどの世界だろう。『薔薇色のプリンス』かしら、それとも『聖女のファンファーレ』?
うんうん、どこでもいいよ。
だってどの世界も華やかで甘くて、本当にとても素敵だから・・・
しかし、期待を胸に閉じていた目を開いた私は、予想に反する眩しい光に顔をしかめる。
あれ、ここは外なの・・・?
天蓋付きの豪華なベッドに横たわり、侍女たちが心配そうに見守ってくれている場面を予想していたのだけど。
「アンタ、そんな所で何してんだい」
突如降ってきたのは、しわがれた老婆の声。
「っ?!」
思わず飛び起きた私は、ものすごい勢いで首を上下左右に振り、現状把握を試みる。
え・・・畑?!
ふかふかの土に手が食い込んだ。
どうやら私はのどかな畑のど真ん中で大の字になっていたようだ。
目の前の老婆は、とにかく小さかった。
土の上に座り込む私より少しばかり目線が上になるくらいの身長で、所々土で汚れた着物、頭には手拭いを巻いて、いかにも農民という感じ。
えぇっ?!
転生先、間違っちゃった?!
もしかして外出中に事故にあって馬車が破損して行方不明とか?!まさかの記憶喪失設定?!
いや、どれほど頭の中で都合良くまとめようとしたって、この辺りはどう見ても馬車って雰囲気じゃない。
中世ヨーロッパばかり視野に入れてきたから、こんな昔の日本のような世界は知らない。
はぁ〜・・・
ふわふわひらひらのドレス着たかったなぁ。
もうお手上げの私は、目の前の老婆を盗み見る。
頼むから鍬を片手に見下ろさないでほしい・・・
状況を把握できずに閉口する私に、老婆は信じられない言葉を口にした。
「カステラ」
はいいいぃぃぃぃ?!
カステラですと?!大好きだけれども!!
見渡す限り茶色と緑色しか目に入らないその他に不釣り合いな単語に混乱を増すばかりの私を、老婆は訝しげに見つめ返した。
「アンタ自分の名前も忘れちまったのかい?」
うっそーん!!?