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元聖騎士 グルムッド

ぬぐぐ、遅れてしまった。

待っていただいていた皆さま、ごめんなさい。

 

この投稿は今日二回目となっております。

朝七時にもう一話ありますので「まだ読んでいないよ、ちゃんと定時に投稿しろよ作者!」という方はまずはそちらを確認してください。

俺達が守護する『聖杯』が人知を超えた力を持っているのは『守護者』などごく一部の人間にとっては周知の事実だが、そんな特別な力を持っているのは何も俺達聖杯の一族だけじゃない。


『聖剣』 『聖槍』 『聖杖』 『聖典』


まがい物を後生大事に宝物庫に収めている『外』とは違い、この四つの聖なる武器の力は本物だと聞いている。

そして、自身では超常の力を持たない『外』と、四つの聖器をそれぞれ信奉する聖剣の国、聖槍の国、聖杖の国、聖典の国と決定的に違う点がもう一つある。

どういう経緯があったかまでは知らないが(長や一部の大人達なら把握しているかも)、その四つの国が聖器のレプリカの製造に成功し、少数ながらも各国が量産、所持しているということだ。

その人造聖器の使い手は聖騎士、聖導師などと呼ばれ、各国の軍の切り札兼象徴として国民からの信頼を一身に集めているという。

それは同時に、たった一人でもパワーバランスを左右する力を持つ彼らが国からの厳しい監視と制限を受けていることと同義であり、特に無断での他国への侵入はそれ自体が宣戦布告にも等しい行為とされ、その対策として互いが互いを監視し合うことで危うい均衡を保っている。


だから、その聖騎士が国境を越えて俺達の前に現れるはずがない、というゲイルの現実逃避も、政治的視点から言えば至極真っ当な発言だった。






「現実、か。確かに本来なら俺は今ここに存在してはならない人間だ。だが、民からその存在すら忘れられている貴様ら『聖杯』を守護する聖戦士と何が違う?」


奇襲に近い初撃を外したことで多少戦意が殺がれたのか、それまでほとんど喋ることのなかったグルムッドが、輝くオーラを放ち続ける槍、聖槍を引いて口を開いてきた。

もちろんこれは、グルムッドの意図、あるいは聖槍の国の差し金なのかどうかを知りたい俺にとっても好都合な展開だ。


「聖杯を守れればそれでいい俺達と一緒にするな、『鮮血の鬼人』グルムッド――いや、元聖槍の国の聖騎士グルムッドと呼べばいいのか?」


「ほう、俺がこの聖槍を本物の聖騎士から奪い取った偽の聖騎士とは考えんのか?」


「俺達が何も知らないと思っているのか?――『聖杯』が太古の昔に俺達聖杯の一族を選んだように、四つの聖器もその使い手を選んだことくらいは知っている。そして、その聖器を模倣したレプリカだろうと、使い手の厳選という大原則から外れることはできなかったことくらい簡単に想像がつく」


「ならば、たまたま聖槍を拾った俺が適合したのかもしれんぞ?」


「それこそあり得ない。レプリカだろうと本物だろうと使い手の確保は各国の最優先事項で、適性が認められ次第、専門の機関に所属することになっているはずだ。一人でも使い手が欠ければ、それがそのまま国力の減少に直結するんだから当然だ。だからこそ、まともな使い手が聖器のレプリカとセットになってここに現れるはずが無いんだ」


「……なるほど、事情はある程度承知しているというわけか。さすがは聖戦士の末裔、恐れ入った」


褒められておいてなんだが、事実は多少異なる。

『聖杯の一族』のほぼ唯一の情報源である『守護者』の情報は、基本的に長と大人たちにしか共有されず、王都へ行く前の俺のような子供に教えられることはまずない。

里を離れていた俺が大人顔負けの知識を持っているのは、王宮の役人時代の仕事の合間を縫って必死こいて勉強していたからで、聖杯の一族云々はこの場合は全く関係ない。

(ちなみに、この間その思い出話を父さんと母さんにしてみたところ、鼻で笑われてしまった。

息子の頑張りを信じもせずに鼻で笑うとは何事かと怒りに震えたが、子供時代の俺はどう見てもそういうキャラじゃなかったんだから怒るに怒れない)


「……今度はこっちの質問に答えてもらおうか。そんな存在するはずのないお前がなぜこんなところにいる?」


「ほう、実に面白い訊き方をしてきたな。その質問、なかなかに的を得ているぞ」


「どういうことだ?」


「この聖槍と今の俺は存在するはずのない、存在してはならないことになっている。少なくとも、我が祖国と『聖典の国』の記録上はな」


「……つまり、君は両国の暗闘の中で聖槍ごと存在を抹消されたというわけかい?」


「鋭いな、風の聖戦士よ。表向きは抑止力以外に使われることのない我らだが、実際には歴史に名が残らない戦いが幾度もあったと聞いている。そして、俺はそのうちの一つに駆り出された挙句、戦いの余波に巻き込まれて聖槍ごと消滅した、とされている」


「消滅?死亡とか行方不明じゃなくか?」


「ふ、どうせならその目で見てみるか?」


俺からすれば何の意図もないただの質問だったし、隣のゲイルもきっと同じように感じたはずだ。

だが、それまで倦怠感を漂わせていたグルムッドが突然戦意を剥き出しにして聖槍を構えたところを見る限り、なぜか俺の言葉が奴の琴線に触れてしまったらしい。


「セイラン下がって!」


「心配するな、これはただのデモンストレーションだ。よく見ておけ、聖槍のレプリカでも簡単にこの程度のことができるのだということを」


キイイイイイイィィィン――


「はあっ!!」


甲高い音と共に輝きを増していった聖槍がグルムッドの気合の声と共に前方の地面に触れた瞬間、


ドオオオオオオオオオオオオオオオォォォン!!


聖槍の光の炸裂と共に地面が爆発した。


「ぐうっ!――こ、これは……」


俺と同様に眩しい光に視界を潰されたゲイルの驚愕の声が聞こえ、一呼吸遅れて視界が戻った俺が目の前を見てみると、真っ平だったはずの地面が半球状に大きく抉れていた。

――人一人どころか十人分くらいは優にあるんじゃないかというサイズで。


「これで俺の消滅が疑われることもなく秘密裏に処理されたことは納得できたか?――さすがにあの戦いを生き残れたことはただの偶然だったし、国中から尊敬されてきた人生から誰にも正体を明かせないみじめな境遇との落差には苦労したがな。何しろ俺が生きていることが祖国に知れたら、即追手がかかることは目に見えていたからな。元の名を捨てることは最優先だった……」


「……なるほど、それで聖杯の国に目を付けたんだ。ここなら君の正体がバレる心配は少ないからね」


ゲイルの予測を交えた相槌に頷くグルムッド。

だが、その眼に微かな光が宿り始めたことを俺は見逃さなかった。


「そういうことだ。それでも聖槍の力の使いどころにはそれなりの苦労があったのだがな。まあ、『鮮血の鬼人』が崩壊した今となってはそれもどうでもいいか。――もはや俺の望みはただ一つ」


「なんだい?僕ができる範囲でよければ力になるよ」


「……できる範囲、だと?ククク、クハハハハ!」


「なっ!?」


豹変したグルムッドの様子に思わず後ずさるゲイル。

だが、その焦りが決してグルムッドの殺意によるものだけでないのは、そばにいた俺には分かっていた。


「俺との会話を引き延ばせばあそこにいる女の力で俺を無力化と思っていたのか。バカめ!お前たちの聖杯の力は決して無敵ではない!原点を同じくする以上、この聖槍のレプリカでも、気流操作による無音無気配の酒精による攻撃程度なら装備しているだけで無効化できるわ!元とはいえ、あまり聖騎士をなめるなよ!」


「「――っ!?」」


グルムッドの嘲笑に、ゲイルとウンディの両方から驚愕の気配が伝わってくる。

無理もない、そもそも聖騎士と戦うという時点で完全に計算外で予想外なのだ。

しかも、最初に『鮮血の鬼人』の五百の兵を無力化した時も、グルムッドにだけはウンディの力が効かずに狸寝入りをされていたということになるのだから、ショックはさらに大きいだろう。


「――なら僕が直接!」


「やめておけゲイル。あいつの言っていることが本当なら、お前の気流操作もある程度無効化できるということだ。何の策もなしに突っ込めば気流の制御に失敗して自爆するぞ」


「くっ、で、でもセイラン――!?」


「……俺がやる。それでいいよなグルムッド。それが望みなんだろう?」


「ククク、確かにその通り。俺としては伝説に聞いた聖杯の聖戦士と戦えれば、相手が誰でも、その後のこともどうでもいい。もちろん、それが二人の戦士の将だというなら願ったりかなったりだ」


「決まりだな。――というわけだゲイル、ちょっと後ろに下がってろ。ウンディももう手を出すなよ。下手をすれば互いの巻き添えを食うからな」


「で、でもセイラン――」


「くどいぞゲイル。これは命令だ」


「……わかったよ僕の将。でも、君がここで死ぬのなら僕たちの命もここまでだ。それだけは覚えておいてくれよ」


「わかってる。そもそも勝つ自信が無けりゃこんなことは言いださないさ。だから、ちょっとの間だけそこで見てろ」


俺の言葉に頷いたゲイルと、心配そうに見つめてくるウンディと視線を合わせた俺は、すでに聖槍を構えなおしていたグルムッドに向き直った。


「ほう、ずいぶん大きく出たものだな。俺を相手に戦う前から勝利宣言か?」


「違う、これは確定した事実だ。グルムッド、お前は俺に触れることもないままに負ける」


「よくほざいた!その言葉、俺の槍を受けた後でも言えるか試してやる!」


輝く聖槍を先頭に突撃を開始したグルムッドを待ち構えつつ、雲行きが怪しくなってきた空を視界の端に収めながら、俺はゲイルと雲泥に守られる聖杯の将ではなく、ただ一人の聖杯の戦士としての戦いへと突意識を切り替えた。

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