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追跡者始末

「ようセイラン、久しぶりだな」


「思ったより元気そうじゃない」


「外で役人なんかやってるからひ弱になったんじゃないかと思ったよ」


「バカ、加護もなしに三日も森をさ迷っていたのよ。そんなわけないじゃない。と、ところでセイラン、あたしのこと、里長は何か言ってなかったかしら?」


里長の家から出たところでそう俺に声をかけてきたのは、俺と同世代の若者男女二人づつの計四人。

そのうちの一人はさっき会ったばかりのクロナだったが、


「久しぶりだな、アグニ、ウンディ、ゲイル。それからクロナ、爺様は何も言ってなかったけど、あれは多分怒ってる」


「そ、そんなー!ちょっとイタズラしただけじゃない!」


どうしよう、と声を上げるクロナだが、被害者である俺としてはどう逆立ちしても擁護できないな。


「それから、言葉を慎め。今の俺はお前らの指揮官だ。今さっき、任官式を終えた」


その言葉に、四人の空気が変わった。


「ほう」 「そういうことね」 「納得したよ」 「じゃあ!」


「ああ、そういうことだ。ゲイル、早速で悪いが里のみんなに伝令を頼む。『聖杯の縁は欠けた』と」


「まあ、この四人の中では妥当な人選だよね。わかったよ」


ゲイルのその返事が来た時にはすでに彼の姿はなく、木の葉の舞う様子だけが、ほんのちょっと前まであいつがいたという唯一の痕跡だった。


「ちょっといいセイラン?あ、それとも指揮官様って呼んだ方がいい?」


ゲイルが去ったタイミングでそう言いながら手を挙げたのはウンディだった。


「いや、歴代がどういう方針だったかは知らないけど、少なくとも俺はあまり堅苦しくやるつもりはないよ。最低限のけじめさえつけてくれれば、今まで通りでいい」


「そう?じゃあ普通に話すね。実は二日くらい前から余所者二人が森に入り込んでるんだけど、どうする?」


その言葉を聞いて、俺の中で予感めいたものがあった。

おそらくは――


「余所者?具体的にはどんな奴らだ?」


「うんとね、一見採取が目的の冒険者っぽく装ってるけど、あの目つきは暗殺者だと思うな。ずっと見てたけど、時々血走った目をしてたし」


「ずっと見てたって、この二日間丸々か?」


「うん。あ、でも、近くに寄ってきた獣を狩りながらよ。さすがにそれくらいしないと母さんに怒られるし、もちろん気づかれるようなヘマはしてないよ」


「まあ、エルディさんが怒っていないならいいんだけど」


その時、俺とウンディの間に寒気のようなものがよぎったのはきっと気のせいじゃないだろう。

エルディさん、怒らせると怖いんだよな。

特に、うっかり間違えておばさんと言った時の恐怖といったら――


「で、どうするセイラン、セイラン?」


「あ、ああ悪い」


久々にあの感覚を思い出してちょっと現実逃避してしまった。

話を戻そう。


「そいつら、ここに入ってきそうなのか?」


「まさか。この森に入るには土地の案内人が必要なことくらい、セイランだってよく知ってるでしょ?そしてこの森に入ってきた時点で、奴らはもうあたしたちの手のひらの上。生かすも殺すもあたしたち……ちょっと違うか、セイラン次第じゃない」


「まあな」


可憐な少女といっても差し支えない雰囲気のウンディから出た、酷薄ともいえる物言い。

外の人間が聞いたらさぞ驚くだろうが、本人はもちろん、俺を含めた全員がその言葉をごく自然に受け入れている。


「だがまあ、一応念には念を、だ。ウンディ、ひょっとしたら別動隊がいるかもしれない。その案内人の人と協力して、他に森に異常がないか確認してくれ」


「りょーかい。()()()()とは何度か連絡は取っているから、すぐに行動に移せるよ」


「だと思ったよ。頼む」


苦笑しながらそう言って俺が見た時にはすでに、ゲイルと同じくウンディもまた姿を消していた。


「となると、実際に奴らに接触するのは俺とクロナか?」


「え、なになに?おもしろそう!」


そう早手回しに立候補してくるアグニ。

確かにいつもの俺ならそう指示を出しただろうが、今回ばかりは事情が違った。


「いや、今日のところは俺が自ら行くよ。アグニは俺のバックアップを頼む」


「珍しいな、セイランが前線に出てくるなんて。昔は子供だけの狩りなんかでも自分は動かずに、俺達をうまく使うやり方だったじゃねえか」


「えーーー!あたしの出番無いの!?なんで!?」


「一応最初くらいは、俺自身の手を汚したかったのが、一点。二つ目は、どうやら俺の帰り道を尾行してついて来た、王都の顔見知りらしいからね。情報を聞き出すなら俺が最適だってことさ」


「それじゃ、あたしを連れて行かない理由になってないじゃん!」


「落ち着けクロナ。もちろん、それについてもちゃんとした理由はある」


俺はクロナに忍び寄る人影にあえて挨拶をせずに、人差し指を彼女の背後に突き付けた。


「俺より先に、お前に用がある人がいるからさ」


「誰よそいつ――って、ママッ!?」


「久しぶりねセイラン君。そして、うちの娘を迎えに寄こしたのに、逆にひどい目に遭わせてしまったようでごめんなさいね。ちゃんと今からこの頭と体に言い聞かせますから、それで許してあげて頂戴」


「お久しぶりですクロエさん。いえ、人手は十分足りていますのでお気になさらず。存分に親子で語り合ってきてください」


「ちょ、セイラン!?この状況見ればわかるでしょ!?早く助けなさいよ!?あ、ち、違うのママ、ちょっとしたイタズラ心でやっただけでセイランをケガさせようとかそういう――ぎゃああああああああああ!?」


多分、口応えが良くなかったんだと思う。

村の開けた場所でクロエさんのお仕置きと称したクロナへの公開処刑が始まってしまったが、止める人は誰もいない。

誰だって腹を空かせている虎がエサを食べているときに、そのエサを取り上げようなんて思わないだろう?

俺もアグニも、こんな若い年で愚かな真似をして自分の一生を終えたくないので、さっさとその場を離れることにした。


俺達がクロナに対してできたのは、せめてその無残な姿を見ないように背を向けてやることだけだった。


「やべでええええ!?肋骨は間接じゃないから!?そんな風に曲がらないからあああああああああああああああああああああああああ!?」

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