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ゲイルの一人舞台

「熱中しているところ悪いけど、その辺でやめてもらおうかな」


「な、なんだてめえ!どこから入ってきやがった!」


「どこからって、唯一の出入り口のそこの扉からに決まってるじゃないか。そんなこと、このタイミングで襲撃をかける計画を立てた君が一番よく知っていると思ったんだけどな、ねえ『ブラッディオーガ』の副団長のゴーザさん」


「なっ!?おいてめえら、見張りはどうした!?余計な邪魔が入らないように十人ばかり置いといたはずだろうが!」


「ダ、ダメですゴーザさん、ぜ、全員のびてます。これ、あいつ一人でやったってのかよ・・・・・・・」


「んなわけあるか!おめえらは俺自らこのために選んだ『ブラッディオーガ』の精鋭だぞ!それが素手のたった一人にやられるわけがねえだろうが!眠り薬でも嗅がされたに決まってるだろ!」


「い、言われてみれば確かに。そ、そりゃそうですよね」


「そうだろうが!てめえらもコロッと騙されてんじゃねえぞ!」


「えー、心外だなあ。確かにそういう薬と僕の力は相性がいいけど、傷一つ付けたくない相手にしかそんな手は使わないよ。なんで僕が君たちのような社会のゴミにそんな気遣いしなきゃならないのさ」


「て、てめえ、言わせておけば調子に乗りやがって――!!おいてめえら標的変更だ、まずはこのいけすかねえ優男を始末しろ。ここにいるVIPを誘拐するのはそれからだ!」


「「「へ、へい!!」」」


「いやー、君たちがバ――シンプルな思考の持ち主で助かったよ。じゃあミルロさん、皆さんと一緒に端の方に避けておいてくださいね。武器なんかが飛んできたら危ないですからね。――それじゃあ行くよ。せめて運動不足を解消できるくらいには頑張ってほしいな」






広間の扉付近に転がっている傭兵たちを避けながら俺達がその場に辿り着いた時、戦いはすでに佳境に入っていた。

十人以上いた傭兵たちは四方八方で意識を失っていて、立っているのはミルロさん達『守護者』のメンバーと、戦いを続けているゲイルとゴーザの二人だけだった。


「て、てめえ、俺の部下たちに一体何をしやがった!?」


「何って、ただ当身をくらわせただけだよ。君も目の前で見ていたじゃないか」


「バカ言うな!ただの当身で、鎧を着た大の男が壁に突っ込むほど吹っ飛ぶわけがねえだろうが!?」


「本当なんだけどなー。そこまで言うなら君自身が確かめてみればいいじゃないか。ほら、ここから動かないでおいてあげるから攻撃しておいでよ」


「ふ――」


「ふ?」


「ふざけんなっ!!」


ゲイルの挑発にまんまと乗せられたゴーザが怒りのままに剣を片手に突進を開始する。

対するゲイルはというと、言葉通りに馬鹿正直にゴーザを待ちつつ、まるで差し出すように間合いのはるか手前で右手を軽く突き出した。

その瞬間、ゴーザの動きがわずかに鈍ったかと思うと、すぐに突進を止めて後方に飛び退った(すさった)


「っ――!?」


「おやおや、来ないのかい?さっきまでの威勢の良さはどこへ行っちゃったのかな?――っていつもなら言うところだけど、うん、さすがに大きな口を叩くだけのことはあるよ。もしあのまま何の工夫もなく突っ込んできていたらお仲間と同じ結果になっていただろうね」


「てめえ何をしやがった!?」


「そのセリフはさっきも聞いたよゴーザ君。人に聞いてばかりいないで少しは自分で確かめてみたらどうだい?何も突進だけが芸じゃないだろう?」


「もうその手には乗らねえ、よっ!」


そう言ったゴーザの手から剣が真上に投げられたかと思うと、両手が鎧の隙間に差し込まれて抜く手も見せずに計四本の光が彼の元から飛び立った。


「ははっ、傭兵ともなりゃ騎士様みたいな小綺麗な戦いだけじゃやってけねえ。時にはこういう隠し技の一つも使わねえと生き残れねえの、さ?」


勝利を確信して興奮していたのだろう、自分の手の内を饒舌に語りだしたゴーザの言葉が最後におかしくなったのは、その両目が追っていた四本のナイフがゲイルの体すれすれに何のダメージも与えずに飛び去ってしまったのも見てしまったからだろう。


「バカな!?俺の投げナイフは百発百中、練習だろうが本番だろうが一度も外したことなんてねえんだぞ!それが何で傷一つ負ってねえんだよ!?」


「傷一つ云々はともかく、確かに君のナイフは僕の体を正確に狙っていたさ。ただし、飛び道具なんて風の一つでも吹けば簡単に軌道が変わってしまうからね、さすがに百発百中は言いすぎだと思うよ」


「て、てめ、この――」


「さあ、ヒントはあげたよ。僕を倒す算段はついたかい?」


「このやろおおおおおおおおお!!」


必殺の攻撃をあっさり無効化されたゴーザは、今度こそゲイルに向かってなりふり構わず突進し始めた。

大上段に構えずに腰だめに剣を構えたあたりはさすがは玄人と言ったところだったが、やはり同じように手を突き出したゲイルの動きの前に、今度はミルロさん達にもはっきりわかるレベルで動きが遅くなった。


「ゲイル、そろそろ終わらせろ」


「うーん、僕としてはもう少し遊んでいたかったけど、僕の将からああ言われちゃあ終わらせないわけにもいかないね。じゃあね、ゴーザ君」


敵が本気を出すまで待つという悪癖を終わらせたゲイルは、再び俺達の視界から消え去ると一瞬でゴーザの背後に出現し、首筋を叩いて昏倒させた。






「ゲイル、遊ぶにしてももうちょっと時と場合を考えろよ。特に投げナイフなんてどこに飛んでいくかわからないんだからな」


「屋敷の兵を呼んできます」と言って広間を出て行ったミルトスを見送りながら、俺はゲイルに注意を促した。


「大丈夫だよ。あのナイフなら()()()()()()()()()()()()着弾させてるから。ほら、あそこ」


ゲイルが指差した先にあったのは、見事な横並びで壁に突き立っている四本のナイフ。

どうやらあの遊戯(たたかい)の最中にああいう遊びもやっていたようだ。

ふざけすぎと怒るべきか、まだまだ余裕があったと取るべきか、判断に迷うところだな・・・・・・


そこまで考えたところで、端の方に避難していたミルロさんたち『守護者』のメンバーがこちらに近づいてきた。

――いったん棚上げしておくとするか。


「セイラン様、お手数をかけました」


「大変でしたね。皆さんお怪我は?」


「はい、ゲイルが守ってくれましたので、何とか全員無事です」


「それはよかった。しかし、いくら何でも護衛の一人も置かないなんて不用心すぎたのでは?特に今回は予定外の状況だったようですし」


そう、俺達が時間通りに来たからよかったものの、もしそうでなかったらゴーザたち『鮮血の鬼人』の襲撃は目的を達していた恐れがあった。

それはミルロさんたちの身に危険が及んでいたということでもある。


「それは致し方ありません。『守護者』の秘密を守るためにはこの会合を知る者はで最小限に抑えるべきですし、万が一のためにミルトスのような後継もいますので、組織の維持には不都合はございませんよ」


「それなら、『守護者』独自の戦力を作ればいいだけでは――」


「うーーん、セイラン、ちょっといいかしら」


ミルロさんへの俺の反論を遮ったのはもちろん先代南の大公ではなく、さっきまで広間を俺の後ろで暇そうに眺めていたウンディだった。


「ひょっとしてだけれど、『守護者』は独自の戦力を持たない、それが結成当初からの鉄の掟だっていうこと、知らないのセイラン?」


「え、そうなのか?だったらあの『鮮血の鬼人』はなんで加入しているんだ?」


「ああ、そこで誤解しちゃったのね。そのあたりの事情は知らないけれど、元から戦力には事欠かなかった『聖杯の一族』に欠けている情報力とか人海戦術とかを補うのが『守護者』の役目なの。だから会合の場に護衛を連れてこないのは最低限のルールなのよ」


「余計な戦力を持った結果怪我人や死人が出れば、いつかは必ず我らの存在を『外』に知られてしまいます。それを避けるため、そして上手く王家と付き合っていくために我らは戦力を持たないことを決めたのです。彼ら『鮮血の鬼人』にはその広範囲かつ強力な情報収集力を期待しての加入承認でしたが――」


「見事に裏切られたというわけね」


「はい。この責任はひとえにワシ一人にあります。この首を差し出す代わりにどうか他の者には類が及びませぬよう――」


「だそうよ。どうするのセイラン?」


深く頭を下げるミルロさんに俺の判断を待つウンディ。

多分、俺の言葉次第で一瞬で彼女の手がミルロさんの命を奪うんだろうが、あいにく俺の答えはもう決まっている。


「誰一人、何一つ責任を問うつもりはありません。それが俺達『聖杯の一族』と『守護者』の関係ですから。そうだよなゲイル、ウンディ」


「僕としてはそっちの方が助かるかな」


「いいんじゃない、セイランがそう決めたのなら」


「おおお、この老骨に挽回の機会をお与えくださったこと、感謝いたします。まずはあの愚か者たちを血祭りに上げることで――」


俺の言葉に同意する二人に頭を下げたままのミルロさん。

その体と声が震えているのは齢のせいだと思いたい。


「あーー、できればそれもなしで。彼らは適当な場所で解放してくれると助かるんですが」


「そ、それはもちろんセイラン様のご命令とあらば是非もないですが――」


頭を挙げた時に目をぎらつかせていたミルロさんにちょっとビビりながら(さすがは先代南の大公)、俺は命令ではなくお願いの形で話を続ける。


「もちろん許すわけじゃないですよ。彼らにはきっちり俺達の敵に回った付けを払わせますけど、その前にやるべきことがあると思いまして」


「・・・・・・なるほど。では早速我が孫に手配させましょう」


「お願いします」


さすがはミルロさん、俺の言いたいことを瞬時に理解してくれたようだ。


「僕が制圧した傭兵達を逃がすのかい?あの様子だと解放したら仕返しに来ると思うんだけど」


「別に問題はないだろ。むしろそれが狙いだからな」


「どういうことさ?」


「今回ゲイルにコテンパンにされた奴らが真っ先に思うこと、つまり自分たちの面子を潰されたって思った傭兵なら、ゴーザたちが無傷で帰されたらどういう風に受け取ると思う?」


「そりゃあ、ケンカを売っているとカンカンに怒るだろうね。――ああ、そういうことか」


「そう、宣戦布告だ。ゲイル、ウンディその時は暴れてもらうからな」


「そりゃあ――」「――楽しみね」


ミルロさん達『守護者』との連携も必要だな、と考えながら、俺は獰猛な笑顔を見せ始めた二人を見ながら『鮮血の鬼人』の出方の予想を始めた。

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