婚約破棄とヤンデレと
婚約破棄物語を書きたくてもできなかった。
何故か斜め上を言ったような作品です。
お暇つぶしになればと。
一応、タグに百合と入ってますが、一応でしかありません。
「アーリナ。君との婚約は破棄させてもらうよ。」
その言葉に絶望した。
嗚呼、嗚呼、なんていうことでしょう?
一体何を間違えたの?
私はあなたの為にこれほど尽くしたのに…?
「何をおっしゃってるの?婚約破棄?どうして?どうしてなの?レーン様…?」
「私は、真実の愛に目覚めたのだ。このユキナとのな。」
レーン様の隣には異世界からの落とし子のユキナ様が。
嗚呼、嗚呼、なんて言うことなの?
この国の殿下であるレーン様が落とし子を甲斐甲斐しくお世話するのは殿下としての役目だからと思っていたから。
だからこそ、夜会でのエスコートも、ダンスも我慢したのに。
なのに、なのに、なんて言うことなの。
「ユキナには私が居ないといけないのだ。アーリナは強く、他のものでも大丈夫だろう?」
「…そんな…。私は…。」
「アーリナは王太子の婚約者としては一生懸命に支えてくれようとしていたが、私自身を見ていたわけじゃないだろう?」
「え?」
「でもユキナは私を見て、私を必要としてくれたのだ。」
「レーン様…。」
弱々しくレーン様の隣にいるユキナ様。
私は一度もそんなことをしたことはないわ。
いつだって一歩後ろに。
だって彼は殿下だから。
だから。私は…。
嗚呼、ガタガタと肩が震える。
多分、今顔色は悪いでしょう。
真っ青なのかもしれない。
だって、レーン様は驚いたような表情をしているもの。
「アーリナ…。君はそんな表情もできたのか…。でも、それは…王太子妃になりたいだけだろう?」
「いえ、そんな…私は…そんな為に、がんばってきたわけでは…。」
「アーリナ様、すみません。でも、私はレーン様を愛してしまったの。レーン様がいないと私は…。」
「ユキナ。」
レーン様が私に意識を向けた瞬間にユキナ様…いえ、もう様付けするのも面倒くさい。
あの雌猫は悲しげな表情をしてすり寄る。
…なんてはしたない。
こんな大勢の前で。
今は王族さえ参加する夜会なのだ。
…なんで、こんな時にこんなことを…。
まだ、私たちだけなら良かったのに…。
嗚呼、嗚呼…どうして…?
どうしてなの…?
これでは、私は…。
「まぁ、どうしたの?何の騒ぎなの?」
「あ、あぁ…。」
「あ。母上。すみません。しかし、私は…」
殿下であるレーンが、母親である王后のそばにユキナを連れて、婚約破棄の話をしようとした時。
美しい少女が大声を上げ泣き始めたのだ。
そう先ほどまでガタガタと震え、この騒動のもう一人の主役が。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!」
大きな声で謝罪を繰り返す。
何度も何度も。
その姿は異常だった。
先ほどまで婚約破棄騒動で呆然としていた周囲の人々はさらに呆然とする。
異常な姿というのもだが、それをしているのが完璧な淑女と名高いアーリナだったからだ。
アーリナは美しい外見でありながら心も優しく美しく、礼儀正しく、教養もあり、でも殿下を一歩後ろから支え立てると言った本当に王太子妃にふさわしい少女だったのだ。
故にこの国の他の令嬢はアーリナに憧れていた。
殿下にふさわしいのはアーリナと思い、誰も彼もがレーンに近づいては行かなかったのだ。
強欲な貴族令嬢もいたがアーリナを実際に見れば敵わないと思ってしまい、逆にアーリナに憧れを持つほど。
そんな状態なのに、まさかの婚約破棄騒動。
一体殿下は何を考えているのかと周囲は唖然としていたのだ。
そしてさらに追い打ちを掛けるように完璧令嬢のアーリナが号泣しているのだ。
号泣するのも分からない状況ではないが、しかし何故あれほど大声で謝罪を繰り返しているのか。
周囲は動けず、ただただ見ているしかできなかった。
「アーリナ…?なにを謝っているのかしら?」
王后は困った表情でレーンがアーリナに声を掛ける前に声を掛けた。
レーンもアーリナの状態が異常であるとみて、思わず声を掛けようとした程だが母親に取られてしまって、変なポーズで固まってしまっている。
「お姉様!!お姉様の言ったようにできなくてごめんなさい!!」
「アーリナ?」
「嗚呼、捨てないで、捨てないで!!!お姉様、捨てないで!!!私を捨てないで!!」
「アーリナ!!」
何度か王后が名前を呼ぶがアーリナは顔を手のひらで覆い、涙を流しながら懇願するだけだ。
神に祈るかのように。
そんなアーリナに怒鳴るように王后は名前を呼んだ。
するとアーリナはびくりと肩を震わせ、王后、ルビーを見た。
「嗚呼…嗚呼…私を…捨てるのですね…?」
「アーリナ、何を言ってるの?」
ルビーはゆっくりとアーリナのそばに寄る。
アーリナはぽろぽろと涙を流しながら、じっとルビーを見つめる。
そのまなざしは普段のアーリナでは見られないような熱のこもったまなざしだった。
いつも冷静に周囲を見ているアーリナでは考えられない姿で、そんなアーリナの姿は妖艶ささえあった。
そんなアーリナの頬をルビーは優しく手で包み込んだ。
「アーリナ。落ち着きなさい。」
「嗚呼、捨てるのならば、あなたの手で私を殺して??」
「アーリナ…。」
「私の神様…。どうか、どうか、いらないのならばあなたの手で殺してください。」
アーリナは熱のこもった目で、ルビーを見つめながらも自分の頬に触れているルビーの手を愛おしそうに触れる。
なんとも美しい光景だった。
しかし、アーリナが言っていることは異常である。
殺してくれと懇願しているのだから。
しかもルビーを神様と呼びながら。
「アーリナ。…駄目なのね。」
「私の神様?何故そんなに辛そうな顔をしているの?」
ルビーは悲しげにアーリナを見つめる。
アーリナは自分を瞳の中に入れるルビーを幸せそうにまた愛おしげに見つめる。
先ほどまで涙を流していたアーリナはその涙を止めていた。
「…いえ、なんでもないわ。アーリナ、大丈夫よ、私にあなたは必要よ。だから勝手に死んではだめよ。」
「はい。お姉様。」
アーリナはルビーの言葉を聞いて本当に嬉しそうに返事をする。
ルビーに抱きしめられて、幸せそうにすり寄っている。
もうアーリナの中では周囲はいないものとしており、先ほどまで修羅場を広げていた相手などどうでもよくなっているのである。
アーリナにとってルビー以外どうでも良い。
そう、アーリナにとって好きなのも愛しているのも尊敬しているのも、何もかもがルビーなのだ。
完璧令嬢アーリナは国母であるルビーを心底愛し、信仰しているのである。
「母上…今のは?」
「…アーリナよ。あなたの婚約者のね。といってももう元という事よね?」
ルビーは冷めた目線を実の息子に向ける。
アーリナの様子からルビーは全てを理解した。
アーリナはルビーが全て、ルビーを自分の神としており、ルビーの願うことをかなえることを自分の全てとしている。
そんなアーリナにルビーは頼んだのだ。
自分の息子を立派な王にしてほしいと。
そのために婚約者となり、妻となって欲しいと。
アーリナは喜んで頷いた。
ルビーの為になるならばと。
実の親を丸め込み、周囲を黙らせ、完璧な婚約者となり王子を支えた。
ルビーはそんなアーリナに不安を覚えながらも、国の未来に安心もしたのだ。
アーリナはルビーの願いのためならばどんな無謀なこともしてしまう。
だからこそ、息子の良きパートナーにもなってくれると思った。
しかし、予期せぬ事態が起きた。
落とし子がやってきて、息子にまとわりついた。
落とし子は丁寧にもてなすことが世界の決まりとなっていたから致し方がないのだが。
でもこの落とし子をそのままにしておけば、息子はこの国は破滅に向かってしまうと考えた。
だから、他の見た目の良いものを落とし子に近づけたり、息子と距離を置くようにしたのだが。
どうやらうまくいかなかったようだ。
どうせ、婚約破棄だとかだろう。
そんなことになったからアーリナはルビーの願いを叶えられないと絶望したのだ。
そう全てはルビーのことを考えての行動だったのだ。
故にルビーに必要だと言われたアーリナはもうどうでも良かったのだ。
周囲も、もちろん殿下であるレーンも。
「お姉様?あなたの為ならどんな道具にでもなりましょう。次はどうしますか?またどなたかに嫁ぎに行きましょうか?あなたが望むならばどこにでも喜んで。」
「アーリナ。いいわ、今は。いいの。」
「そうですか?お姉様がそう言うのならば。」
アーリナは幸せそうに、ハートを周囲に巻きながらもルビーにすり寄った。
妖艶に、でも可愛らしく、美しく。
これが正真正銘のアーリナなのだ。
周囲は相当混乱しているがアーリナの妖艶さに顔を真っ赤にしている。
もちろん、レーンも。
「ア、アーリナが、こっこんな…。」
「教えてなかったわね。アーリナは、私の妹なのよ。」
「…えっ?そんな馬鹿な!?母上に妹など!」
「えぇ、いないわ。今世ではね。アーリナは前世の妹なのよ。前世は結構酷い人生を歩んでね。アーリナを生かすために必死だったわ。それのせいかね、アーリナは私を姉として慕いながらも、神様としても崇めるのよ。」
「前世?」
「えぇ、何故か、私もアーリナも前世を覚えているのよ。これは王しかしらないわ。もちろんアーリナの本来の姿もね。」
ルビーは優しくアーリナを撫でながらレーンを見る。
周囲はまだ驚きで動けないようだ。
アーリナはルビーをルビーはアーリナを探していた。
どんなことをしても探そうとしていた。
王に近づき后になったのはその為でもあった。
ルビーは自分の身分さえ使って、アーリナを探す手立てとして自分が王后になったほどだ。
ルビーも相当アーリナに依存しているのだ。
しかし、王もくせ者であったので、ルビーの目論見に気づき、吐かせたのだ。
王はそんなルビーを気に入り、またルビーもそんな王を愛してしまうのだが。
故に王だけはアーリナの本性や二人の前世など全てを知っている。
知っていて好きなようにさせているのだ。
寧ろ、アーリナは自分と同じようにルビーを愛し守ろうとしている姿が共感でき、アーリナも王に対し共感を得、二人は仲が良く、アーリナを妹のようにかわいがっていたりするのだ。
人目のあるときは息子の婚約者として扱っていたが。
「そんな、私は全く気づかなかった…。」
「それはそうよ。そうアーリナにお願いしたのだから。」
「それはなんで?」
「なんでって…。」
こんな姿のアーリナは人に見せられるものではない。
将来国母となるものがこのように、狂っているなんて。
だから隠したのだ。
それに、もしかしたら自分の息子を本当に愛して、アーリナも普通になるかもと思っていたのだ。
そうなってほしいと。
自分がそうだったから。
アーリナが異常なのはルビーも重々承知している。
でも、自分ではどうもしてあげられない。
それに自分はそれを良しとしているところもあるのだ。
そんな自分がアーリナに対して何も言えず。
でも、ルビーには夫ができ、愛しい人ができた。
もちろんアーリナも大切であるし、アーリナを思う気持ちは以前と変わらず、でもそれは表にでることはあまりなくなった。
だからこそ、自分の息子とアーリナがと思っていたのだが。
「残念ね。」
「仕方がないな。アーリナには他の者を考えよう。」
「あら、あなた。」
「アーリナは私たちにとっても大切な妹だからな。幸せにしてやらないと。」
「お兄様!」
いつの間にやら姿を現したのはルビーの夫である国王シャルルだった。
シャルルはアーリナの頭を優しく撫でており、アーリナもそれを嬉しそうに受け入れている。
アーリナはシャルルも大好きだった。
愛しいお姉様を大切にしてくれる人だから。
ルビーを大事にして、例えどんなことが起きようとも守ってくれるシャルルをアーリナは信頼していた。
アーリナにとってルビーを幸せにしてくれる人は好きな人だ。
逆の場合は殺したいほど恨み、実際に事を起こそうとするぐらいなのだが。
「もう、これほど見られてしまったのならば、隠さぬとも良いだろう。」
「そうかしら。」
「ああ、もうアーリナも守られるだけの存在ではないのだから。」
「まぁ、そうよね。(それ)で、新たな相手はどうするの?」
「じっくりと考えれば良かろう。」
「そうね。」
「ちょっと待ってください!!」
国王夫妻がのんびりとアーリナを愛でながら話を進めていると、それを止める声がした。
それは先ほどまでアーリナに婚約破棄だと言っていたレーンだった。
レーンは焦った表情を浮かべている。
「アーリナを私以外と婚約させるつもりなんですか!?」
「えぇ、だってあなたアーリナと婚約破棄したいのでしょう?こんな騒動を起こしてでも。」
「少々この件に関してお前には処罰を与えなくてはいけないがな。それに婚約に関しては落とし子をというのも難しい。側室としてならな。」
「そんな!」
レーンは先ほどまでそばにいたユキナを放り出し、両親の前に土下座をするかのように跪く。
そしてどれほど自分が馬鹿だったかを両親に懺悔した。
「嗚呼、私はなんて馬鹿だったのか。ですがお願いです。どんな処罰でも受けます。でも私をアーリナの婚約者のままで置いてください。」
「レーン様!?」
「何を勝手なことを?」
ユキナは驚きレーンを見る。
そしてルビーは嫌そうな表情を浮かべ、アーリナに話を聞かせない為に、耳をふさぐようアーリナに伝える。
アーリナはルビーの言うことに素直に頷き自分で耳をふさぎ、何も聞かないようにしている。
そんなアーリナの姿を愛おしげに見つめるレーン。
先ほどまで婚約破棄をしようとしていたものの姿ではない。
「えぇ、勝手なことだとは十分理解しています。しかし、私はアーリナが欲しいのです。」
「レーン様!?何故、そんな?」
「…ユキナ。私に触れないでいただきたい。」
「えっ?何故!?どうして急に!?」
ユキナはレーンの変わりように驚きながらもすがりつく。
しかし、レーンはそんなユキナをうっとうしそうに払う。
さっきまでの仲睦まじい雰囲気は一切なくなり、レーンの表情は無となっている。
「私は私の婚約者だけに…いや妻だけに触れてもらいたい。いや、そうでなければならないのだ。」
「レーン様!?」
「ユキナ、君は私がアーリナという宝石を見つけるために来てくれたのだ。そうだ、そうなのだ。」
「え…?」
「嗚呼、感謝する。ありがとう。私の宝石を見つけさせてくれて。」
「え、レーン様?なんで?私を愛してるって。」
「そうだな、でも、それはまやかしだ。宝石を見つけるための前座。」
「そっそんな…。」
ユキナはハラハラと涙を流してレーンに縋るが、レーンはさらりと交わす。
ユキナはその場で崩れ落ちた。
さっきまで幸せの絶頂だったのに。
それが一瞬にして消え去ってしまったのだ。
「我が子ながら末恐ろしいわ。」
「まぁ、婚約者がいると知っていながらも縋り、媚びを売るような女だから丁度良いのではないか?」
「…確実にあなたの血を受け継いでいるわね。」
ルビーはシャルルを恐ろしげに見つめる。
シャルルは可笑しそうにユキナを見ている。
その目線は相当冷たい。
元々、シャルルはユキナを気に入ってはなかった。
自分の愛しい妻が愛で、また自分も愛でているアーリナをコケに扱い、我が物顔でレーンのそばにすり寄っているユキナを雌ブタのように見ていたのだ。
とりあえず、世界の掟なので、ユキナを客人として扱ってはいたが、正直放り出したかった。
それがシャルルの本音だった。
「お姉様、お兄様?」
「嗚呼、アーリナ。もう少し耳を閉じておきなさい。」
シャルルは笑顔でアーリナの頭を撫でる。
アーリナは何が何だかという顔をしながらも素直に頷く。
そして再度、耳と閉じた。
そんなアーリナの様子を愛しげに、そして実の両親を憎々しげに見るのがレーンであった。
「あんな風に愛されたらどんなに幸せだろうか。嗚呼、俺はアーリナの依存が、愛が欲しい。」
「レーン様…?そんな、あなたは?」
「そうだ、私はアーリナのあの異常なまでの愛が欲しい!」
「そんな…そんな…嘘…。」
「…お前の血をやはり継いでいたな。」
シャルルは苦笑しながらルビーを見た。
こうなるのではないかと思っていたのだ。
なんたって、ルビーとレーンは血の繋がった親子。
そう、ルビーの血を受け継いでいるのだ。
ルビーは元々、依存するほど愛されたい、そうでなければ満たされないという性癖をもってた。
その性癖をアーリナやシャルルのお陰で満たされ、形を潜めていたのだ。
そう、ルビーは二人によって満たされていた。
その血を半分受け継いでいるレーンはシャルルが思っていたように同じ属性だったのだ。
そうレーンも依存されるほど愛されたい願望をもったものだった。
故に婚約者のアーリナに不満を持っていたのだ。
一歩後ろで控えるアーリナ。
そんなアーリナは他の者からしたら理想の妻かもしれない。
しかし、レーンには不満でしかなかった。
もっと自分を頼って欲しい、愛して欲しい、自分だけを見て欲しい。
そう思うが、アーリナは一切心を開かず、頼ってくれない。
それが不満で仕方がなかった。
そんな時にやっていた落とし子のユキナ。
ユキナは単純ですぐにレーンを頼りすがってくれる。
まだ、依存まではいけていないがアーリナよりも単純でレーンの思うように動かせると思った。
故にユキナをと思っていたが。
しかし、レーンはまさかのアーリナの姿に驚いた。
母親にすがり、依存し、懇願し、あなただけをと願う姿。
なんて美しくて愛おしい。
嗚呼、あんな風に俺に依存して欲しい。
母親じゃなく、俺を。
アーリナの母への姿はレーンの理想とする姿だったのだ。
「だから嫌だったのよ。本来のアーリナを見せるの。ほら、この者たちだけでもどん引きよ?どうするの?これじゃあ。」
「いや、大丈夫だろう。頭はレーンもアーリナも天才の域なのだ。素晴らしい指導者とはなるだろう。」
「あら、あなたはまたレーンをアーリナの婚約者に戻す気?」
「いやー…んー…戻したくはないのだが…。」
両親の話を聞いていたレーンは信じられない表情で二人を見た。
そんなレーンの様子にシャルルはやはりという表情を浮かべる。
「…別に戻していただかなくてもかまいません。でも、そうするのならば、俺にも考えがあります。」
「何よ…どうする気?」
「アーリナを連れて、どかか遠くへと逃げます。」
「そんなこと!」
「成し遂げますよ?俺はアーリナの愛が欲しいのだから。それを手に入れたいのだから。」
「そんなことをすればアーリナが。」
「嗚呼、母上と離せばどうなるかなんて分かっています。でも、そんな狂ってしまったアーリナを支えていれば、その依存はきっと俺に。」
「…なんていうこと…。」
「だから嫌なのだ…。」
シャルルは嫌そうに顔をゆがめる。
シャルルとルビーの血を引くレーンのことだ。
自分の欲のためならばなんだってしてしまうだろうとシャルルは考えて居た。
全てを投げ出したとしても。
シャルルは頭を抱えてしまう。
自分達の息子だからこそ本当にしてしまうと分かっている。
しかし、それではならない。
レーンは今の現状はどうしようもないように見えるが、普段はとても優秀な王子であり、将来国を背負っていくのはレーンしかいないと考えて居る。
そんなレーンに逃げられたら相当困るのだ。
でも、アーリナを元の婚約者とするのも、
ルビーは納得しないだろう。
さて、どうしたものか…。
「レーン様!!私は!!私のことは!!」
シャルルが考えていると、まだユキナはレーンに縋っている。
なんともうっとうしい雌ブタである。
レーンもさらに冷めた目で見つめている。
「触れるなといっているだろう?」
「レーン様…?」
「俺に触れるのはもうアーリナだけなのだ。」
「でも、そんな。なんで、あんな、あんな狂った人を?アーリナ様は狂って!!」
そうユキナが言おうとした瞬間ルビーとシャルルは黙らせようと動いたが、それよりもレーンがユキナの顔を鷲掴みにしていた。
そう鷲掴みに。
そして魔王を思わせるようなオーラを漂わせている。
「それ以上言えば、俺は君を殺す。アーリナはあれでいいんだ。あれがいいのだ。何が狂っていると?あれが可愛いのだ、美しいのだ。」
「あっあぁ、いたっ。」
「本当に愛おしい存在だ。」
「…本当にあの表情は君に似てるよ。」
「あらそう?あなたに似てると思うわよ?というか、レーン殺さないでよ。処理が面倒なのだから。」
「分かっていますよ、母上。」
にっこりと笑みを浮かべているレーン。
周囲はさらにどん引きしていた。
そして、改めて感じていた。
この王族達に逆らってはいけないと。
微動だにせず、じっと見守っていた周囲。
何故そうなっていたかというと、ルビーやシャルルの怒りを買いたくなかったからだ。
買えば最後。
一族もろとも消されてしまうからだ。
普段は良い国王であり后なのだが、
一度、怒らせれば魔王よりも恐ろしい。
それをとくに貴族達は知っているのだ。
そして今日、やはりレーンもそうだったことを皆知ってしまった。
周囲は心底帰りたいと思いたいがらもただただ見守るしかなかった。
もちろんユキナを助けようとする人もいない。
唯一止められる存在のアーリナはルビーの腕の中で幸せそうに笑っているだけだ。
さてどうしたものか。
一体いつ帰れるのだろうか。
そればっかりは神も知らないものであった。