ステータスは意味を成さない
少し整備されただけの街道を進む。一晩野宿し、日が昇ってからすぐに出発した。
スケアから見て右側には雑木林が広がっており、そこからいくつかの気配が感じられた。大きさから考えて、恐らく小さい個体の魔獣か魔物だろう。
いちいちそんな気配を察知して排除していては無駄に時間を浪費することになる。その為、二人は無視して先を急いだ。
一晩経過して、二人で色々と話し込んだ。メリーナはこちらに来てから、いつスケアが来てもいいようにとこの世界の情報を集めていたらしい。
その中で気になることと言えば、
「……三百年前、か」
「主様。正確には、三百十八年前です」
「あぁ、そうだったな」
スケアが十九の時、ある事情からこの世界『ニールマーナ』に来た。本当はそれ以前にも何度か来てはいたが、その頃がこの世界で最も忙しかった頃だろう。
今スケアがいるのは、その三百年前。生前の年齢から言えばメリーナの言うとおり、三百十八年前だ。
随分と過去にやってきたものだと笑ったぐらいだ。
ただ、そうなると少し面倒な事になる。
スケアは悪魔王との契約の際に、悪魔王と同化していたことで、悪魔王の記憶も持っていた。今もその記憶は残っており、それが正しければ、この年に悪魔王はこの世界にやって来て、とある存在と壮絶な戦いを繰り広げるのだ。
要するに、過去の悪魔王と鉢合わせる可能性があるということだ。
当然ながら、本来ならスケアはまだ産まれてもいない。その為、面識もないのだ。
そんな中で、悪魔王が自分とどこか似ている相手に会えばどうするか。間違いなく、笑って攻撃を仕掛けてくる。
そうでなくても、この世界に何度か部下を寄こして視察させることもあるだろう。記憶上はそうしていた。
そんなのと鉢合わせてみろ。実力至上主義の城で生きている相手だ。まず死闘を繰り広げなくてはならない。それを破ってようやく細かな話が出来る連中なのだ。
本当に、よくそんな存在の手綱を握れていたものだ。
「出来れば、傘下に入りたいが……」
「主様ならば、側近衆でも上位の存在になれることでしょう」
「だといいのだがな」
側近衆とは、悪魔王の配下の幹部格の者達のことを言う。実力至上主義の城で、各々が圧倒的な武力を誇る場所でそのように扱われる存在となれば、その実力は押して図るべし。
先ず生半な気概ではあっさり殺されるだろう。
一例を挙げるなら、そこには吸血鬼の真祖がいる。数多く存在する吸血鬼の中でも二番目に生まれた吸血鬼らしく、その序列も二位。彼らの中で二番目に古く、二番目に強い吸血鬼だ。
後は、竜。ドラゴンだ。他にも多くいるが、その多くが様々な神話や伝承で語られる異形達に悪魔達。メリーナの師匠である、北欧の神殺し、フェンリルもそこに名を連ね、スケアの師匠であるスカアハも、側近ではないが同盟を結んでいる。魔術の師匠であるアスタロトは側近の一人だ。
そんなのと相手取れるのは天界の天使や神々ぐらいしかいない。スケアも相手取れなくはないが、勝ちを取れるのはある程度決まっている。当然、スカアハには勝てない。
そこで上位の実力である、とはとてもではないが言えないだろう。
「今はシヴァも封印され、スカアハもそう頻繁に影の国から出ることもない。最強格の二人は出ないと考えていいな」
「やはり来るとすれば、パティン様でしょうか?」
「他にもパイモンか。あの二人は王の両腕だ。故に、出張るのは容易に想像がつく。他に来るとすれば、アスタロトか」
「そうですね。サリエル様は未踏査領域に出向かない限りはその監視網にかかることもございませんし」
「真に、面倒な人外魔境だ。儂はよくあれらを統率していたな。偉大なる王に感謝」
未踏査領域と呼ばれる場所がある方向に向けて心からの感謝の念を送る。
それを見て、メリーナはクスクスと笑っていた。
そんな彼女は昨日までの村人風のみすぼらしい装いとは違い、今はメイド服に身を包んでいる。
秋葉原などで見かけるミニスカメイドといった紛いもののメイドではない、ロングスカートで雑事を完璧にこなすあのメイドだ。
確かに彼女はメイドだ。生前の世話係をしていたし、家事も並のメイド達よりも上手く出来る。
だが、酷く場違いだ。今いるのは都市や王宮ではなく街道。そこに、豪華な馬車もなく、漆黒の戦装束を身に纏う女を連れているだけ。とてもメイドがいるような場所ではないだろう。
因みに、スケアの呼び方は『主様』になった。もう悪魔王ではないため、そのように呼ぶな、と命じたからだ。
「ひとつ聞くが……何故メイド服に着替えたんだ?」
「これがわたくしの正装でございますので」
「動きづらくないか?」
「いいえ?」
「そうか……」
見てるととてもシュールな光景なのだが、彼女がそれでやる気になるのならいいことだろう、と思っておく。今頑張ることは特に何も無いが。
すると、今度はメリーナから呼びかけられた。
「主様。ひとつ、質問の許可を頂いてもよろしいでしょうか?」
「許す」
「主様はご自分の容姿がどうなっているか、お気づきになっておりますか?」
「あいつとスカアハを足して二で割った美人顔。くびれもあり、形の良い弾力のある胸に、スラリと細い手足。俗に言うモデル体型というやつではないか?」
驕りではなく、客観的に評価した結果だ。先日いた村では、村人達の多くは男女問わずに一度は自分の姿に見惚れていたからだ。
メリーナも肯定するように頷いた。
「はい。その通りでございます。昨夜のお身体を拭かせていただいたときはもう……はぁ……はぁ……」
「おい? 戻ってこ~い。……ふむ、腐ったか(精神的に)」
目を蕩けさせ、あまり人に見せられない顔で荒い息になったメリーナにぞわりと寒気が走った。思わず両二の腕を手でさする。
「はっ! いけないいけない……! こほんっ。そのお姿を見て、悪魔王様は主様を余程大切にしていたのだろうと思いまして」
「ふむ? どういうことだ?」
あいつが自分を大切にしていた、とはあまり実感がなかった。まぁ、よくしてもらったとは思うが、大切にされていた、気に入られていたということは感じたことがない。
そのため、メリーナの言葉がよくわかっていなかった。
だが、続くメリーナの言葉にスケアも思わず瞠目した。
「はい。悪魔王様は気に入らない相手に、ご自身のお姿を使わせるでしょうか?」
「……言われてみれば、ないな」
「はい。高貴で高潔な御方。それが悪魔王様ですので、そんな御仁が貴い御姿を、たとえ似た姿とはいえども絶対にお許しにはなりません。わたくしが初めてその御姿を目にしたとき、とても感激いたしました! その御姿は、悪魔王様の姿を元に、スカアハ様の外見を少し継ぎ足したように感じました。つまり、元々は悪魔王様の御姿だったと愚考したのです。それはつまり、悪魔王様が主様を大層気にかけていらっしゃった証明でもありましょう!」
「なるほど。確かに、お主の言うことももっともだ。そうか、儂は……気に入られていたのか」
それは、スケアにとって凄く嬉しいことだ。なにせ、スケアは初めて悪魔王をその目にしたときから、あれに魅入ってしまったのだから。
契約後も、強くなるという気持ちの他にも、認められたいと強く思っていたほどなのだから。恐らく、惚れていたのだろう。
「……もし、お主の言うとおりなのだとすれば、とても喜ばしいことだな」
「はい。とても」
若干遠い目をして遠くを見つめる。
すると、大きな壁のようなものが目に入った。よく目を凝らすと、その上で何人もの武装した男女が壁の外を見張っているのがわかった。
「着いたな」
「はい」
見えた街は、彼女が言うにはルーミラという街で、ニコレル王国の辺境にある都市だ。都市とは言っても、この世界では比較的田舎の部類に入るために、街と考えてる人が多いのだとか。
公爵がこの街を統治しており、人口はおよそ十万人。街の周囲を円形に壁で囲い、武装した兵士を二十四時間体制で監視させていた。
この街は時折魔獣や魔物が襲撃してくるため、その為にあの壁が作られたそうな。
この街で暮らす者達のうち、七割が人間。二割が獣人。五分がドワーフ。残りが奴隷だという。奴隷の多くはやはり獣人が多いらしく、彼らの暮らす地区も、人間が暮らす地区と比べてみすぼらしい所らしい。
これが、昨日メリーナが話したルーミラの概要だった。
そして、スケアはあの街のことを知っていた。知っていたと言っても、未来でのこの街のことだが。
ただ、入るにしても少し問題があった。
「……なぁ、メリーナ。お主、身分証はあるのか?」
「……申し訳ありません」
この世界における身分証とは、ステータスプレートと呼ばれるもので、そこには名前と年齢、種族が書かれており、他にも冒険者ギルドに入れば冒険者のランクがそこに登録される。
なにより、ステータスプレートと呼ばれる所以は、身体能力が数値化されたステータスがあることだ。
スケアもそんなものを持っていない。するとどうすればいいか。発行してもらうのだ。
発行するのに当然お金がかかる。一人大銅貨三枚。今回は二人なので、大銅貨六枚だ。
「誠に申し訳ありません。主様の手を煩わせてしまい……」
「気にするな。儂も持ってはいないのだから、おあいこだ。なにより、儂らにはあんなもの、大した意味がないのだから持っていなくて当然だろう」
ステータスはそれなりに重視されている。数値が大きければ大きいほど強いのだから、皆がそれを目安にいびり散らす姿もよく目にされることから、よくわかるだろう。
そんなステータスを意味がないと言い切ってしまうのは、恐らく少ないはずだ。
そんな会話をしていると、ようやく門についた。
門番は一度スケアを見て目を瞠り、すぐに若干視線を逸らした。
──ふっ、ここにも我が魅力の虜が一人……。
「どうかしましたか?」
「この街に入りたくてな。ただ、二人とも身分証をどこかに落としたか盗まれたのか、持ってないのだ。済まぬが、発行してもらってもよいか?」
「わかりました。では、こちらへどうぞ」
事前に考えておいたことを伝え、門番に連れられて詰所の奥に行く。
そこには大理石の台座の上に鎮座された水晶玉があった。
「では、そのアーティファクトに触れてください。一人大銅貨三枚になります」
アーティファクトとは、魔力を帯びた特殊な道具のことで、こことは違う世界では魔道具と呼ぶ。悪魔王の軍勢がいる魔界では主にそう言った呼び名だ。
「わかった。あぁ、先ずひとつ聞いておきたいのだが、ここで発行された内容は上に報告するのか?」
それは懸念していたことだ。
スケア達二人がステータスを表示すれば、先ず間違いなく騒ぎになる。そうなれば、面倒なことが次から次へと沸いてくるのは間違いない。それ故に、秘匿されるのかが気になった。
「いえ、ご存知ではあるでしょうが、その水晶は使用者の魔力や身体能力を測定し、スキルは何があるがを確認するための物。そちらで表示される情報はこちらのステータスプレートに送信され、内容が登録されます。ここまではよろしいですね?」
「あぁ」
「そして、それを私が一度確認して、滞在者として我々の持つ用紙に名前を書いてようやくお渡しすることになります。ですから、主に名前を確認するだけなので、内容は報告されません」
よかった。それなら、目の前の男を口止めさせればいいだけだ。もしバラしたら、その時は夜道に気をつけてくれたまえ。
「わかった。では先ずはメリーナからやれ」
「かしこまりました」
指示に従い、メリーナが前に出て水晶玉に触れる。すると赤い強烈な光を放ち、室内を彩る。その光は瞼を焼き、手で防がなければとてもではないが目を開けられないほどだ。
若干眩しそうにしているメリーナだが、その光を見て門番が目を大きく見開いていた。
この光は使用者の力の度合いを端的に示すものだ。簡単に言えば、光が強ければ強いほど、使用者が何かしらのステータスが際立っていると言うことの裏返しなのだ。
門番の驚き具合から見て、これ程強く輝いたのは始めてなようだ。
そして、遂にメリーナのステータスが浮かび上がった。
────────────────────────
メリーナ・リューシャ 36歳 女 獣人
レベル UNKNOWN
体力:??????(文字化けして読めない)
魔力:82450
膂力:??????(文字化けして読めない)
敏捷:??????(文字化けしてry)
耐久:??????(文字化けしてry)
スキル 体術(A++) 先祖返り(EX) 自己犠牲(A) 魔術(B) 魔力操作(C) 投擲(A) 気配探知(EX) 気配遮断(C) 世話焼き(B) 不老不死(C) 韋駄天(C) 毒耐性(A) 家事(EX) 調理(A+) 狼王の修練法(B)
────────────────────────
……おぅふ。突っ込みどころ満載。
レベルがアンノウンとかなんなの? しかも、魔力以外の身体能力が軒並み文字化けとか冗談でしかない。てか、世話焼きってスキルじゃないよね? 違うよね? ハッキリ言って、ぶっ壊れだよ。
ほら見ろよ。門番さんがあまりのステータスに立ちくらみが起きてるよ。
おふざけはここまでにしよう。
まぁ、ある程度は予想通りではあった。
このステータス、上限があるようで、それを越えると途端に文字化けして読めなくなるのだ。
本来はそんな状況になるはずがないのだが、まぁ、メリーナは悪魔王の城で働いていたメイドだ。こうなるのも当然だろう。
スキルとは技能のことだ。それぞれのスキルにはランクに分けられており、最も低いものがEで表示される。そのままD、Cとランクが上がっていき、Aランクの次に最高ランクとしてEXが表示される。
このEXだが、これは測定不能という意味で、ざっくり言えば規格外という事になる。メリーナのスキルで言えば、先祖返りと気配探知と家事がそうだ。それらのスキルの説明は今は割愛しよう。
スキルは鍛えることも可能だ。それは、スキルを得る工程からして明らかである。
例えば剣術スキルを持っていないとする。ならば、剣を手に取り、数日間剣を振り続ける。すると、剣術スキルがEで会得しているのだ。
強化もその繰り返しで、剣を振り続け、扱いが巧みになっていく毎に評価もD、Cと増えていくのだ。
言ってみれば、このアルファベットはそのスキルの技術力を簡潔に表しているということだ。
表示を見ていると、プラスがついているものがある。あれは、そのランクの中では秀でていますよ、という意味になり、しかし、次のランクになるほどではない、ということだ。
メリーナは体術にプラスがふたつついている。同時につくのはふたつまでのため、この次に体術の表記が変更すればEXになる。
メリーナのものにはなかったが、プラスの反対にマイナスが表記されることも稀にある。それは、そのランクの中では劣っているが、それでもひとつ下のランクになるほどではありません、ということになる。マイナスの数もプラスと同じだ。
まぁ、見ていて脳筋な構成のスキルだな、とスケアは思った。
ただ、こういった数値や表記が一般的と思ってはいけない。明らかな異常である。門番を見てみればわかるだろう。
彼は先程から顔面を蒼白にしてしまっているのだ。ステータスプレートの名前を用紙に書いているが、何度も数値に目をやり、そのスキルの表示を見て驚愕の表情を浮かべている。
胃薬を処方してやろうか?
もう手を離してくださって構いませんよ、と言われ、メリーナはやりきった、と言いたげに可愛らしい笑顔を浮かべてやって来た。
「お待たせいたしました」
「うむ。ご苦労だった。随分と精進したのだな。儂も、お主の師も鼻が高い」
「主様のお力になるために、鍛えてきましたので」
「ハハハッ、此奴め」
門番と主従のテンションが大きく違う。門番は明らかに軽いパニックを起こしていた。名前を書くだけで何度もミスを犯し、何度も修正を加えている。
何度も羽ペンにインクを塗らし、ミスを犯して紙をくしゃくしゃにする。これを十三回繰り返してようやく終えた。
「ほれ、発行代だ。手持ちがこれしかないのでな、儂の分も含まれておる。後で釣り銭を寄こせ」
「わ、わかりました……。こ、こここちら、め、めめめメリーナさんの、ステータスプレート、です……。も、もう無くさない、ように……お願いします」
スケアは銀貨一枚を手渡してメリーナのステータスプレートを受け取る。緑色の楕円形のプレートをメリーナに手渡し、彼女は少し誇らしそうにそれを眺めていた。
「ほれ、しっかりせんか! 儂はもうこれに触れて良いのか?」
「え、あ、はい! どうぞっ」
半ばやけになった返事だったが、常識外れを目にしたのだ。今はその不敬を不問にしてやる。
だからメリーナよ、そう睨んでやるな。今にも失禁しそうではないか。
「どれ、どのようになっているのかな」
スケアが水晶に触れる。
瞬間、黒い閃光が走り、室内を暗黒が支配した。周囲から光を失って五秒ほど心の中で数えたとき、手元から、パキンッ、という音が聞こえ、手に触れている水晶が砕けた感触が伝わってきた。
そして空中に表示されるステータス。それを見て、門番は完全に意識を失った。
────────────────────────
スケア・シュクレアン 37歳 女 半堕天使半悪魔
レベル UNKNOWN
体力:??????
魔力:??????
呪力:??????
膂力:??????
敏捷:??????
耐久:??????
状態:神の祝福(呪い)
スキル 魔術(EX) 魔力操作(EX) 深淵到達者(EX) 召喚術(EX) 道具作成(EX) 呪術(EX) 邪眼(A) 自然治癒(A++) 状態異常無効(EX) 縮地(EX) 体術(EX) 剣術(A++) 抜刀術(EX) 槍術(EX) 弓術(A) 棒術(A+) 銃火器術(EX) 暗器(EX) 投擲(EX) 気配遮断(EX) 気配探知(EX) 空間把握(EX) 堕天(EX) 言語理解(EX) 影の国の女王の弟子(EX) 傲慢(EX) 強欲(A) 色欲(A++) 怠惰(A) 嫉妬(A) 暴食(A) 憤怒(A+) 見切り(EX) 騎乗(EX) 融合体(EX) 無窮の武練(A++) 呪詛吸収(EX) 原初のルーン(A+) 鑑定(A) 魔力吸収(EX) 魔性の寵愛(A) 調理(B) リザレクション(A) 深淵の叡智(C) 人外魔境(B) 変化(A) 勇士(A+) 殺戮者(EX) 伝道師(A) 道具作成(EX) 神殺し(B) 鬼神化(EX) 医術(A) 武芸百般(A)
────────────────────────
ごめんなさい、自分の方がぶっ壊れでした。
生前最後にこのステータスを見たのは十九の頃だったが、当時は見たことのないスキルが幾つかあった。
なにより、驚くべきは種族だ。半堕天使半悪魔とは、完全に人間を辞めている。……声を上げて喜んでいい?
スケアが意味がないと言ったのはこれが理由だ。ステータスが文字化けしており、しっかりと確認できるのはスキルの項目だけなのだ。
鑑定スキル持ちではあるが、スケアは基本これを使わない。使ったところで特に面白いものでもないから。
「流石は主様。感服致しました」
「ふっ、この程度当然であろう。そうでなければ奴らに刃を向けぬわ。────それよりも、この阿呆を起こさねばな」
綺麗な形をした胸を張りつつ、横目で気を失った男を見やる。彼を起こしてとっとと滞在許可をもらわねば中に入ることが出来ないのだ。
スケアは倒れている男に近づき、軽く蹴る。
「ほれ、起きんか! 職務怠慢で上に報告するぞ」
「は、はい!! し、失礼しましたぁっ!」
職務怠慢の言葉が効いたのか、それとも彼に叩きつけた殺気が効いたのか。門番は汗を大量にかきながら跳ね起きた。
男はかなりテンパりながらも書面にスケアの名前を書き終え、ステータスプレートを手渡してきた。
発汗量が凄まじいな。風邪か?
「こ、これはお釣りです」
「ご苦労。もう街に入ってもよいのか?」
「え、えぇっ! どうぞ!!」
「えらく機嫌が良くなったな」
「えっ!! も、申し訳ありません……っ!」
「ふっ、冗談だ。ではな」
スケアはそう言い、詰所から出ていく。メリーナがその後に続く。
色々と問題はあったが、無事にルーミラに入ることが出来たのだった。