死んで目覚めたら女になってました
初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。シュガーイーターです。
受験も終わり、リハビリがてら投稿しました。
一話、一話は基本短めですが、まぁばらつきは出て来るかと思います。
どのような投稿ペースになるかは未だ定かではありませんが、どれだけ遅くなっても──なるべく早く続きを書いていくのは当然ですが──エタらずにいこうと思っておりますので、温かい目で見守ってくだされば幸いです。
それではどうぞ、ご覧ください。
戦いに負けた。相手は天界にて地上を見下ろして、時には嫌がらせ以外の何ものでもない事をしてのける神々と、その従属である天使達。
彼らに負けないよう仲間を揃えた。人間は少なかったが、悪魔の王と契約して同化した自分に従ってくれる異形達。
そんな彼らを率いて、勝てなかった。戦力で見れば互角と言っても過言ではない程だった。神殺しを成し遂げた者や、北欧にて嘗て神を喰らった獣もいた。
だが、そんな彼らを率いて、自分は敗北したのだ。あと一押し。そのあと一押しで、彼らを率いていた自分は殺された。
自分が死ぬことに悲しくはなかった。
元々、契約の際に相手の力が強すぎて体が拒絶反応を起こし、感情の多くを失った身だ。喜怒哀楽のうち、喜と哀の感情が特に失われていた。それまでの人生から喜はなんとかマシな部類にまで戻ってはいたが、哀は改善されることはなかった。
故に、死ぬことに悲しいという感情は湧かず、ただただ悔しかった。口惜しかった。
自分なんかに付き従って戦った者達に申し訳なかった。自分と契約した悪魔の王の顔に泥を塗った。
それが、とても辛かった。
敗北し、なんとか残った部下達が敵を退けさせ、自分を抱えて撤退したのがなんとなくわかった。
啜り泣く声が、前も見えなくなった意識の中で届いた。もう、目を開ける力すらなく、誰が涙を流しているのかはもうわからない。
ただ、自分なんかの死に涙してくれる者がいたことに少なからず驚いた。
自分が悪魔の王と契約した折に、離反した者も多い。時間が経ってから軍門に戻しはしたが、それでも嫌々付き従わせていると思っていたのだ。
自分は謂わば、悪魔王の器でしかない。そんな石ころのような存在に涙するなど、予想だにしなかった。
もう自分の命は終わる。祝福という名の呪いを受けたのだ。それで、何人も仲間を失った。今度は自分の番だ。
ふと、自分の手が誰かに握られるのを感じた。
誰だ、と思ったとき、すぐ近くで低い声が聞こえた。お父さん、と……。
お願いだ死なないでくれ、そんな声をずっと自分に言っている。
この声は確か、魔王達の中で最強と呼び声の高い不死魔王との間に出来た息子だったか。この戦いに参加していたとは知っていたが、まだ生き残ってくれていたことは純粋に喜ばしかった。
まだ脇が甘い男だが、不死魔王の血が流れているために彼は滅多なことでは死なない男である。どうか、そのまま生き続けて欲しいものだ。
もうろくに動かなくなった口を動かし、彼らに言葉を贈った。
──すまなかった。
自分が不甲斐ないばかりに、お前達に勝ちを見せてやれなかった。
だからこその謝罪の言葉。
そして、最後に一言。こんな自分を支えてくれて……。
──ありがとう。
その言葉を最期に、意識を完全に手放した。
こちらこそ、と聞こえた気がした。
耳に鳥の鳴く声が届く。
瞼の裏に刺さる陽射しに眉をひそめる。陽射しを避けるように、手を翳した。
ボーッとしていて頭が働かない。寝起きだからだろう。
陰鬱とした気持ちで瞼を開く。そこには、広々とした蒼穹が広がっていた。
雲ひとつない快晴を背に、二羽の鳥が視界を通り過ぎていく。
──ここは何所だ?
上半身を起こし、周囲に視線をやる。
そこは草原だった。広々とした場所で、ここで寝転ぶと気持ちが良いだろうと思わせる。……実際寝転んでいたわけだが。
目を凝らすと、遠くの方には森が見える。
──なんでこんな場所で寝ていた……?
というか、自分は寝る前には何をしていた……?
そんな疑問が浮かび上がり、必死に思考を巡らせる。数分ほどうんうんと呻り、あっ、と声を上げた。
「俺は、死んだはずだ……」
天界との大戦で部下を何人も失い、それまで共に戦っていた部下以外の仲間とも呼べる面々も何人も死なせた。
それらの無念を果たすべく、戦い、身を蝕まれ、討ち取られた。彼らの死を無為にしてしまった。
「なんで、俺は……?」
どうして生きているのだ。これまで何度か経験した死の感覚。薄ら寒い出来事だが、もう既に慣れ親しんだものだ。それを間違えるはずもない。
それまでは何事もなく傷を治癒し、心臓を戻して復活を遂げていたが、そんな自分も首を落とされるか、頭を失えば流石に復活は出来ない。
その他に、神々の祝福をその身に受ければ、魔に墜ちた自分は絶対に死ぬ。
今回は後者の死に方だ。なのに、自分は何故生きているのか、不思議で仕方がなかった。
考えられるとすれば、
「アイツの温情か……?」
自身と契約した魔界の君臨者。数多いる悪魔や異形を従える偉大なる王。それが自分に何かしらの手を施したのだと思った。
いつも感じていた殺人衝動が嘘のように感じられない。血を待ち望む妖刀の呪われた声が聞こえない。自分と契約した、心安らぐあの声が、気配が、何もかも感じられなかった。
軍門には魂に精通するサリエルがいた。自分が死したことで、所有権が移り奴が表に出た。その際に、サリエルに命を下した。
そう考えれば納得は出来る。だが、納得は出来てもそれまでだ。なにより、悪魔王が自分を復活させる理由がわからなかった。
「どうなって……?」
そこで違和感を感じた。
「声が……」
普段聞き慣れた低い音ではない。普段よりも声が高く、それでいて気持ちが悪いと言うものではない。寧ろ、とても自然な感じがした。まるで、女性の声のようだ。
肌に触れる。普段と少し顔立ちが違う。頭が少し重く感じ、触れてみてもなにかあるわけでもない。だが、髪の長さが異常だった。
契約した際に漏れ出していた力が髪を長くさせた時期があったが、今回はそれよりも長い。
あの時は腰までだったが、その髪は大体くるぶしまでの長さだった。髪は普段見ていた黒色ではなく透き通った金色。毛艶もあまり手入れされていなかったはずが、とてもそうとは思えない状態だ。
体を見る。
黒を基調とした外套を左肩のルーン文字の刻まれた鈍色の肩当てにはめて翻す。少しタイツ然とした感じでボディラインがくっきりと顕わになる装いだが、要所を守るべく所々に肩当てと同じようにルーン文字の刻まれた金属がある。だが、主な鎧とは違い、守られている箇所は酷く少ない。
具足も普段とは違い、女性のものと思わせるヒールだ。そのヒールも普通の靴とは違い、歴とした鎧の一部らしく、堅固な作りがされていた。
これは、自分の師の一人である人物、ケルト神話、アルスター時代の英雄クー・フーリンの師でもある、スカアハから賜った戦装束だ。……明らかにそれまで着ていたものと違うのだが。性別が変わり、装いまでもそれ用の物に変わっているのは驚愕だ。
そして、自分の胸に、無かったはずの乳房があった。
とても自然にそこに存在し、形もとても綺麗な曲線を描いて自己を主張している。触れてみても紛いものではなく、ぷにっとした柔らかく弾力のある感触が手中を支配し、触れられた胸にもしっかりと触覚を感じられた。
……女好きの友人だったら、すぐにCカップだな、と言ってきそうだ。事実、それぐらいある。
体の所々に触れていく。肉付き、骨格、一物の有無をすぐに調べていった。
普段なら細身でありながら凝縮された筋肉の鎧があったはずが、そんな様子は見られない。確かに筋肉はあった。だが、それは明らかに男性の筋肉の付き方ではなく、女性のそれだ。
骨格も完全に女性のものとなり、一物もついていなかった。
これは夢だと思って頬を抓るが、痛い。夢ではない。
「……冗談キツいぜ」
思わず、天を仰いで言葉を漏らした。
目が覚めたら、女になってました。
これは異世界転生なのか、異世界転移なのか、馬鹿な作者には判別がつかなかったために両方のキーワードを使っております。ご了承の程をよろしくお願いします。