表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚構神話アダマント  作者: 揚げ漢和辞典
第一章 入隊
8/33

ヒーロー

 ああ、もう、疲れた。


 さっき突然体から知らない魔法が出てきて、敵が皆吹っ飛んで······、それから、なんだっけ。必死で魔法使ってただけで、イマイチ覚えてない。


 あ、あの人達すごく怒ってる。凄い怒鳴りながら走って来てるよ······。

 麻痺魔法、あ、ダメだ。間に合わない。


 私の人生、これで終わりかぁ······。


 むなしいなー。こんなとこで、見せ物になって死んじゃうなんて。


 ······あれ?


 何この······、赤い、魔力?


「お前ら······、いい加減にしろおおおおぉぉぉっ!」


 うわ、斧弾いたよ。誰あれっ?


「な、何だお前はぁ······、ぐあぁっ!?」


 次の瞬間、彼は斧の持ち主を切り裂いた。


 え、ちょっと待って、はや、速くない?


「おい! 大丈夫か!?」


「······えっ」


 私を··· 助けに来てくれた?


「歩けるか?」


「あ、うん、何とか」


「よし、早く逃げ······」


「あっ!? 後ろに!」


 咄嗟に剣を受け止めた。しゃがんだ体制だから辛そうだ。それでも、


「っ······ ぅらあ!」


 今度は剣ごと砕いた。そして、また切り裂く。速くて何が起こってるのか、理解が追いつかない。


「おい······、なんだよあいつ?」


「あのガキの仲間か?」


「いや、あの剣はまさか」


 観客がどよめいてる。そりゃそうだよ。私だって混乱してるもん。

 軍の人かな? でも一人だし、赤眼じゃないな。武器もなんか変わった形の······、剣、だよね?


「くそ······! 悪魔の手先がぁ!!」


 今度はたくさんの魔力弾が、三人の兵士から放たれる。そうだ、あの人達の魔法が強力で、他の赤眼は皆やられたんだ。流石にまずいんじゃ。


「ちぃ、このくらいっ······」


 視界を赤い光が覆った。魔力障壁まで使えるの、この人? でも押されてる。やっぱ三対一は無理だよ。


「よし、いいぞー!」


「破滅の剣だ! そのまま砕いちまえぇ!」


 どうしよう。何か私に出来ることは? 魔法とか。


「っ! クソっ、もう破られかけてっ!?」


 そうだ。あの人が守ってくれてる間に魔法を、麻痺魔法を!


「っぐ······!」


 全身から魔力をかき集めて。相手は三人。人差し指、中指、薬指、それぞれに意識を集中ーー


「······うぉぉぁあ!!」


 よし、撃てーーって、え?


 目の前の壁は消えて、その人は敵の目の前に立っていた。そして彼はその()()()()を、軽々とひと振りした。魔法使い達が悲鳴を上げながら倒れる。


「ッハァ、ハァ······、今のは······」


「······すごい」


 思わず声に出た。観客も騒ぎ出す。


「あ······、あれが、破滅の剣」


「化け物だ······。まさかこんな···」


「お、おい、どうするんだよ!? 俺達ろくな装備してないぞ!?」


 人々の反応をよそに、彼は私の方に駆け寄ってくる。


「おい、歩けそうか? ······無理か」


 あ、腰抜けてる。安心したからかな······。


「······仕方ない。とにかくここを離れよう。捕まってろ」


「えっ、ちょっと、まっ」


 言い終わる前に、抱きかかえられてしまった。


「おい、あの剣また姿が変わったぞ!」


「魔力も変わった! 緑の魔力?」


「なんだあれ、翼、いや、······なんだあれ!?」


「俺たちを睨んでるぞ! こっちに来······」


 急に景色が変わった。さっきまで私を見下ろしていた人々が、ずっとずっと下に見えた。強い風。遠ざかる喧騒。何これ。

 私······、空、飛んでる?

 何この高さ。思わず目を背け、彼の首に腕を回す。


「怪我はない?」


「え、あ、は、はいっ」


 声が上ずる。いきなり聞かないでよ。いや、大事なことだけどさ。


 もうわけがわからない。色々急過ぎる。気になることは山ほどあるけど、とりあえず一番は······。


「あなたは、誰なの?」


 恐る恐る尋ねてみる。


「俺? 俺はディニー。パーケシィ・ディニーだ」


「ディニー······」


 黒い髪と瞳。まっすぐな瞳だ。

 一体この人はなんなんだろう。やっぱり私を助けに来たってことなのかな。不思議な剣を使って、あんな強い魔法も使って、しまいには空も飛んでーー


 ーーヒーロー。ほんとに、子供のおとぎ話に出てくるヒーローみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ