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虚構神話アダマント  作者: 揚げ漢和辞典
第一章 入隊
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操作コード07 赤:怒り・復讐心

 ディニーはラフィカルから、剣を隠して持ち歩くためのケースを渡された。元々剣が軽かった為、かなり重く感じられた。


 ラフィカルの後に続き、入ってきた地下通路を通る。


 ディニーはラフィカルの背を睨みながら、この男の真意を考えていた。友人になりたい、などという理由で脅威を野放しにするとは思えない。何か別の理由があると考える方が自然であった。


 連れてこられた時とは別の車に乗せられ、外に出る。今度は拘束されず、景色を確かめることができた。

 森の中の一本道だった。振り返ると小さい小屋が見える。おそらく先程まで自分がいた場所の入口、氷山の一角に過ぎないのだろうとディニーは想像した。


「そういえば、君は何故この世界に来た?」


「何故って······、わからない。この剣に触れたら突然光り出して、気づいたら知らない場所にいたんだ。この剣が何なのかも知らない」


「知らない、か」


 車は草原に出た。道らしいものは見当たらず、草を踏んで走る形となった。


「アダマントというのは、持ち主の意思によって自在に魔力を操る武器だ。その用途は剣や鎧だけには留まらず、盾としても銃としても力を発揮できる」


「剣や鎧って······」


「そう。私のこれもアダマントの一つ。アダマントメイルと呼んでいる。安直だがね」


 元々ディニーはこの剣について尋ねるつもりであり、よもや向こうから喋り出すとは思わなかった。しかも、聞くつもりもなかった鎧の事まで。


 ディニーは確信した。やはりこの男の言動には裏がある。重要な情報をわざわざ敵に教える意図がわからない。最も、嘘を吐いている可能性も十分あるのだが。


 今ならやれるか。ラフィカルは運転を続け、こちらは見ていない。アダマントがどんな剣なのかも少しわかった。ケースに手を添える。あの夜は対応できなかったが、今背後から鎧の継ぎ目を狙えばーー


「私を討とうとしているなら、やめた方がいい」


「っ!」


 見透かされていた。さっと手を膝の上に戻す。


 勝てない、とディニーは感じた。根拠はない。しかし本能的に、ラフィカルの力が自分より圧倒的に上だと感じ取ったのだった。


「お前は私に勝てない。その剣で私の鎧を砕くのは無理だ。それに何より······」


 いつの間にか、車は石で舗装された道を走っていた。


「もう街が近い。下手に騒ぎを起こす訳にはいかんだろう?」


 余裕気な口調だった。



 それは巨大な円柱形の建物。ディニーは今まで見たどんな建物よりも大きなシルエットに圧倒されていた。


 建物の数の割に閑散とした街に対し、その円柱からは歓声が溢れ、中の人々の熱が外に伝わるようだった。街の活気は全て、その一点に集まっていた。


「な······、なんだここは? 何をする場所なんだ?」


「まあ、まずは見た方が早い」


 二人が通ったのはその裏口らしい扉だった。入るとひたすらに上り階段が続く。一段上がる度に熱気と歓声は一層激しくなっていった。


 やがて一つの扉に辿り着く。警戒するディニーをよそにラフィカルは鍵を外し、ドアノブを回す。差し込む光と共に、熱は最高潮に達す。


 人が死んでいた。殺されていた。

 二つの死体を踏みながら、三対五の殺し合いが行われていた。


「あ、ああ!?」


 それまでラフィカルの後ろについていたディニーは、思わず前に駆け、その光景を近くで見ようとした。ガラスに手をつける瞬間更に一人突き殺された。歓声が上がる。


 いいぞ。やれ。悪魔を殺せ。


「なんだこれ!? おい! どういうつもりだラフィカル!?」


「ここは闘技場。赤眼を殺し、民衆を楽しませる為の施設だ」


「赤眼だってっ」


 そこだ。いけっ。突き刺せ。


「ああ。今は押されているのが赤眼だな。あの男を見てみろ」


 あいつ、仲間を盾にしてやがるぞ。

 やはり悪魔は性根から腐っているんだ。


「ここではああいう仲間割れがよくある。······人の本性だよ」


「何が言いたい···!?」


「君も母親に裏切られただろう? 君はあの時、酷く絶望した目をしていたなぁ」


 忘れかけていた感情が蘇る。目を逸らしていた現実が、ディニーの前に再び現れる。僅かに萎縮しながらも、必死で言葉を返した。


「だから······、だからなんだよ」


「私はね、人間のそういう姿に絶望したんだ。この絶望に共感してくれる友が欲しいのだよ」


 足をやったぞっ。

 しぶとい男だ。早く仕留めろぉ。


「人の······、姿」


「隣人を裏切り、己の為だけに生きる。それが人だと思うだろう?」


 ディニーの脳裏に、今まで出会った人間の顔が浮かぶ。日常にあったトルアの顔。最期の夜見せた卑しい顔。暗闇から見上げた兄の笑顔。


 悪魔に裁きを。

 やれっ。ぶっ刺せ。


 何度も回想する。何度も。

 セリウスすら疑い始める。何故あの夜あの場所にいたんだ。あいつも俺を狙っていたんじゃないのか。そんな妄想がディニーを支配しかけていた。


 やったぞ。あと一人だ。

 娘だけだ。もう終わりだ。


 ーーいや、ちょっと待て。


「······下らねぇ!」


「何?」


「あんなの······、一方的な虐殺を受けたら、パニックにもなるだろ!? 何が人の姿だ!」


 おい、なんだあれは。

 あんな魔法、今まで使ってなかったぞ。

 まさか······、揺革(ようかく)ってやつか?


「トルアさんのこともそうだ······、元はお前の差し金だろ? なら、悪いのはお前じゃないかぁっ!」


 ケースを乱暴に開き、剣を掴むやいなや、目の前の敵に飛びかかる。剣は赤い光を纏っていた。


「······わかってくれないか」


 斬撃を腕で受けながら、ラフィカルは尋ねる。


「当たり前だ! お前なんかと一緒にするな!」


「······必死だな。認めたくないのだろう? 認めれば君の居場所は「黙れぇぇぇぇ!」


 ディニーは何度も剣を振った。鎧に一切刃が通っていないのも見ず、乱暴に振った。恐怖を払うように、振った。


 対して、ラフィカルの動きにはまるで力がなかった。ほぼ無抵抗で剣を受け続け、終わりに少し弾いただけだった。


 ディニーは一度退いて言う。

「俺はあの子を助けに行く。これ以上お前の勝手にはさせてられない!」


 ガラスを突き破り、飛び出す。

 しばらくの間、ラフィカルは遠ざかる赤い光をただ眺めていた。ため息をついて呟く。


「お前も、だめか」


 ディニーとは反対に、扉の方へとゆっくり歩いていった。

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