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虚構神話アダマント  作者: 揚げ漢和辞典
第一章 入隊
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操作コード01 緑:明確な目的意識

 紫は新たな光と衝突し、弾ける。その剣から伸びる光の刃を構え、彼はそこに立っていた。


「······ディニー? それ···」


 彼の身体は非常に軽やかに動いた。瞬く間に緑の光は鎧の目前に跳び、そのまま一撃を叩き込んだ。


「······ッチィ!」


 鎧の男はその剣を腕の装甲で抑え、すぐに身を翻した。直後、魔力弾を両手に生み出し反撃する。


 ディニーは最小限の動きでそれを躱し続けながら、緑の光を一層伸ばし鎧を叩き切らんとする。直前の絶望的な状況からは想像できない攻防に、セリウスはただ青い眼をきょろきょろと動かす事しかできなかった。


「なん、何が···」


 危険だと言われていたあの剣からは魔力が溢れ、黒い鎧と一進一退の打ち合いを続けている。その鎧はおそらくラフィカル教祖。妹の仇の親玉が何故こんな村に。そしてそれ以上に、目まぐるしく動き続ける二つの光を追うのに精一杯であった。


 ディニーが優勢となっている。装甲には傷一つつかなかったが、段々と塀に追い詰められる鎧の姿があった。


 やがて背中と塀がぶつかった瞬間、ディニーの剣は頭上から全力を持って振り下ろされ、鎧の肩を確かに捉えた。金属音が黒い空に響く。


 剣から伸びた光はレンガをバターの如く裂いた。だが両断には至らない。


 剣は鎧の肩で止まっている。


「······っ!? クソ······」


 退こうとした時には手遅れであった。鳩尾(みぞおち)に膝が入る。硬質な装甲に覆われた一撃が、ディニーを数メートル撥ね飛ばす。


「······いくらアダマントといえど、使い手がこんな素人では話にならんな」


「ぐ······」


「ディ、ディニー!」


 再び身体に強化魔法をかけ、ラフィカルに突進する。だがその鎧に触れようとするや否や強烈な拳が腹に入り、セリウスはその場に突っ伏した。


「う······、がは······」


「同じ手は食わん」


 鎧の男はディニーの元まで歩き、片腕で軽々と持ち上げる。もう片方の手には、光を失った剣が握られていた。


「は······、離せっ! この······!」


 じたばたと動き続けるディニーを意にも介さず、そのまま村の出口へと歩いていく。数人集まっていた野次馬は、悲鳴を上げながら道を開けるように去っていった。


 セリウスは何とか立ち上がろうと試みたが、身体に力が入らなかった。無理に立とうとした時むせ返り、地面に血反吐を撒き散らした。

 友人が連れていかれる様を、彼はただ見ている事しかできなかった。



 事件の翌朝。セリウスは寝付く間も無く、駐留兵に事の顛末を話した。最も、そうでなくても眠ることなどできなかっただろう。


 セリウスは兵から、二日前の早朝、村近くの砦がラフィカルに突破されたことを聞いた。

 大陸の最北端で山脈に囲まれており、戦略的価値のないこの村をわざわざ狙った理由が不明だった。だがセリウスには、ディニーの持つ剣こそが彼の狙いだと察せた。


 兵から解放され、家に帰る途中でディニーの家を通った。潰れた平屋の前で、トルアの葬儀が行われている。


 ーートルアさんはディニーの唯一の家族だった。もしこの村に戻れたとしても、ディニーの家は、家族はもうーー


 心配で仕方がなかった。こんなことがあって、彼は立ち直れるのだろうか。そもそも生きて戻れるかもわからない。魔力無しではラフィカルから受けた傷も癒えていないだろう。そんな考えがずっと頭を回っていた。


 考えるだけだった。帰ってすぐ、空の青いうちから眠りにつく。どれだけディニーを気の毒に思おうと、セリウスに出来ることは何もなかった。夕方が終わる頃、夢の途中で目を覚ました。ディニーとトルアを助け出す夢であった。

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