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虚構神話アダマント  作者: 揚げ漢和辞典
第一章 入隊
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前々夜

「トルアさん、ただいまー」


 ディニーはいつも通り、家のドアを開け帰宅した。いつもと違うのは、その後ろに同級生を連れていることだ。


「おかえりなさい······、あら? お友達?」


「あ、セリウスといいます。ディニー君の同級生です」


「あらそうなの! ディニー全然友達とか連れてこないから不安だったのよー。あ、どーぞ入って」


「はい、お邪魔します」


 二人は奥の部屋に向かう。トルアは飲み物を出しに台所へ歩いた。


「随分若くて綺麗な人だね」


「実の母親じゃないからなぁ。俺の十歳上。どっちかっていうと姉さんって感じだ」


「そっか······、ディニーもディニーで昔は辛い思いしてたんだよね」


「······まあ、な」


 元の家族と別れたことは、ディニーにとってあまり悲しくはなかった。ただでさえ過酷な吹雪の中の放浪。そしてあの兄······。


「で、例の剣はどこ?」


「俺の部屋にしまってある。一緒にここに流れ着いたものだから、俺が持っておいた方が良いって言われて」


 言いながら部屋の奥の棚を開ける。ポケットからハンカチを取り出し、それで剣の柄を握る。


「これが···」


 剣と言い切るにはやや異様な姿をしていた。柄にはまず平面状の水晶のようなもの。そこから二本の刃が、枝分かれするように伸びていた。刃と言っても、よく見ると物を切れそうな形ではなく、代わりに溝が出来ている。


「確かにこれは説明しにくい······。触ってもいい?」


「あ、直接は危ない」


「え?」


「昔この剣を触った人は何人かいたらしいんだけど、皆苦しんで気を失ったんだって」


「······そんな危ないものなの?」


「布越しなら大丈夫。ちょっと待って」


 剣を置き、ハンカチを渡す。セリウスは恐る恐る剣を掴んだ。


「······軽い」


「そうだろ? 硬いんだけど、妙に軽いんだ」


「うん、紙みたいな軽さだ」


 それだけ言い、剣を置く。


「もういいのか?」


「うん······、あんな話されたら怖いよ」


「死にゃしないよ。試してみる?」


 剣の柄をセリウスに、突くように近づける。


「わ、待っ、やめてよー」


「冗談だよ。怖がりだなー」


「ディニーだって人の事言えないだろ? 面白かったなぁ、前の魔導器の実習···」


「う······、その話はもう勘弁してくれよ!」


 そんな話にノックの音が割り込んだ。トルアが麦茶入りのグラスを乗せた盆を持って部屋に入る。


「魔導器がどうしたのー?」


「いやそれがですね、先月調理用の魔導器を使う授業で···」


「トルアさん聞かないでよ! セリウスも喋るなって!」



 一時間程ボードゲームをしていた。外を見るとすっかり暗くなっており、カラスさえも大人しく屋根に止まっていた。


「そろそろ帰らないとかな」


「そっか。帰り道気をつけてな」


「うん。じゃあまた来週」


「おう」


 セリウスが帰り、ディニーはボードゲームを片付けた後、夕飯に呼ばれた。


「セリウス君とは仲良いの?」


 赤い瞳がディニーの顔を覗き込む。


「ん、うん」


「ほんと安心したわ。ディニー友達いないんだもの」


「なんだよ······、トルアさんだって独身じゃないか」


「失礼ねー!? 女手一つであなたを食べさせてあげてるんだから、感謝しなさいよぉ」


「はいはい。まあでも、卒業したら畑手伝えるし、今より楽になるよ」


「魔法全然使えないんだもんね。畑しかできないや」


「トルアさんまで······」


 苦笑いしかできなかった。気を紛らわす為に、ディニーはやや急ぎ目にスープを啜った。



 寝付くのがいつもより遅くなった。友人を家に入れるといる非日常に心が踊っていた。


 ーーセリウスはオセロ強かったな。まるで勝てやしなかった。でもチェスならまだ勝てるかもな。


 トルアさんもいつもより元気だったなぁ······


 ソルスワに流れ着いたのは······ 本当に、幸運だ······


 ーーと、薄暗い布団の中で、暖かな記憶を浮かべる。


 頭が眠りにつき始め、だんだんと意識が朦朧としていく。夢が始まる直前、ふといつも感じている疑問を思い出した。


 ーーあの剣は一体何なんだろうかーー



「······見つからんな」


 黒い鎧の独り言だった。この数ヶ月、各地で演説を活発に行っていたのは、ただ信徒を増やす為だけではない。


「反応がある以上、この地上にあるのは間違いない。やはりツバキが持っていると考えるべきか······」


 鎧に継ぎ目は無く、関節すら全面装甲で守られていた。しかしそれは何ら支障なく動いている。鎧が皮膚そのものであるかのように、滑らかに。


「ツバキがまだ戦力として運用していないとなると、魔力囊を持たない者無しでこの世界に······ いや、それはない。かなりの田舎に流れたか?」


 鎧は焦りを感じており、故に即座に行動を起こした。教祖ラフィカルはツバキの村を虱潰しに調べることにした。非戦闘地域の中では最北端にある、ソルスワ村から。

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