転移
初投稿です。勝手がわからず苦労するかもしれませんが、よろしくお願いします。
その世界は雪と氷に覆われていた。かつての繁栄を抱いて滅びた白い世界。パーケシィ一家は、生きられる場所を求めてそこを歩いていた。
「おいディニー、もっと速く歩けねぇのか」
次男は空腹だった。食べ物が手に入ると、親はその多くを子供たちに与える。そうすると、まずこの兄がそのほとんどを食べてしまうことが決まっていた。体の弱いディニーは一切の抵抗を許されない。そうして更に体が弱ると、またこうして兄を苛立たせるのである。
「······ごめんなさい」
ディニーは力を振り絞った。それでも彼が四人に追いつくことはできなかった。父親がその建物を見つけなければ、置いて行かれたかもしれない。
「おい、あれ見ろ」
父の声を聞き他の二人が、その後少し遅れてディニーが顔を上げる。吹雪の向こうに家らしき建物が見えた。
「今晩はあそこで寝れそうだな」
一家は少し早足になった。もしかしたら食べられるものがあるかもしれない。そう思うとディニーの足取りも僅かに軽くなる。
ドアは凍りついていたが、なんとか開くことができた。
中に入るとまず目に入るのは、凍ったリビングとキッチン。そして二階と地下に向かう階段が、また凍っていた。
「暖炉は使えないこともなさそうだな······。薪も結構残ってるみたいだ」
「じゃあ私達で火を起こしましょう。子供たちには二階と地下で食べ物を探してもらって」
「そうだな」
兄弟はまず地下へと降りた。いくつかの木箱と、更に下へと降りる梯子があった。
「ディニーは向こうの箱を見ろ。俺がこっちを探す」
「はい」
ディニーは梯子の近くの木箱に近づき、ランプをつけーー
地下二階に落とされた。
「っ!!?」
突然視界が黒に染まり、次の瞬間床に打ち付けられた。強い痛みが走る。
ディニーは咄嗟に上を見た。そこには、兄のにやけた顔。
「兄さん!? 何を······!?」
「うるせぇ! お前がいなくなったことにすれば俺が満足にものを食えるんだよ!」
「は······?」
ディニーはすぐに梯子を登ろうとした。しかしそこからすぐににやけ顔は消え、次に光も消えた。兄が木箱で蓋をしたのだろう。
叫ぶ気力も湧かなかった。ディニーは梯子から手を離し、その場に座り込んだ。そして力尽き眠りについた。その様は死んだものと似ていた。
◆
ーーその空間はは0と1で出来ていた。足元には数字の0と1が不規則に並んでおり、それが無限に続いていた。天も同様である。
ディニーはそこに一人の女性を見た。顔は黒に覆われて見えない。白い服を着ているようだが、その造形もぼやけてよく見えなかった。
「あなたにお願いがあります」
それは夢に近いものだった。ディニーはその状況について大して疑問を持たず、0と1の中ただ声を聞いた。
「この世界を、『彼』から救って下さい」
「世界を······? 凍った世界を元に戻せってこと?」
「いいえ······、その内にある世界です」
「うち······?」
よくわからなかった。ディニーは初めて疑問を投げかける。
「あなたは、誰······?」
「それを教える時間はありません。今私はやっとあなたに話しかけています。この空間もすぐに······、消さ······、れ······」
◆
目を覚ましたディニーの目の前には、剣のような物が浮かび、光っていた。ディニーはそれに恐怖しながらも、それ以上の興味を持った。
恐る恐るその剣に近づき、熱いものを触るようにゆっくりと指を伸ばす。
その瞬間、眩い光がディニーを包んだ。驚くディニーをよそに光はその強さを増していき、彼をその内にある世界へと連れていった。