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【第二秘書、この後の予定は?】
【……は?】
【この後の予定はと聞いている。耳がおかしくなったのかね?】
【い……、いえ。今後の予定は、明日に〇九三〇に第三帝国領土内のウガルタニア・ベースに戻ります】
【そうか。それまで休むといい】
【……それは、諦めですか? 希望ですか?】
きらりと輝くバッヂの美しい、美しい女性は尋ねた。名前を示すIDカードには、シンディア・ズシェール・ルーベックと書かれている。
【シンディア君、どっちでもないよ】
【……? と言いますと?】
【今日は私も散文的な気分になっているようだ。実に適当に言ったものだよ。
そうでもないと、……何か言っていないとなぁ。……大切な、そう。大切なものが目の前で消えて無くなってしまうような気がして。君なら、あの日あの場所にいた君なら分かるだろうと思ってね】
【……はぁ。まだ子供の頃でしたので、あまり覚えていません】
【狂人ルーベック教授の愛娘でもか?】
【…はい】
【そうか、心を削ってしまったか?】
【いえ、そんな精神ではあなたの秘書は務まりません】
ロレンツォの眼鏡の奥の優しい瞳が、ようやくあらわになった。
【よく言ってくれるよ、シンディア君。ありがとう】
世界の運命を託す戦いの裏、こんな会話があった。無論、これは、この音声や画像は現場には流れていない。
突然、暗闇から浮かび上がる――影。影は像となり。色を帯びる。その色は再び。目に捕らえられなくなり。その霞みのようなモノ。モノは高スピードで。飛び交う。暗闇の中で、戦いの中で。やがて。鮮明になっていく色彩。それは技量がそうさせるのか。または、女の持つ美しさがそうさせるのか。大気は妙にねっとりしていて。それは凶々しいオーラのせいだろう。または、時間が圧縮されるような体感覚のせいであろうか。
「さっ、そろそろ背中の大剣を抜きなよ、大将」
相手に背中の剣を抜かせようとする影の主である女。走りながら、そんな声で挑発する。すっと曲線美のある躯体がいっそうの色味を帯びて。
「私がこの剣を使って戦うと思ったのか?」
応じる鎧を着た騎士。言葉にも重厚感がある。身分は実は騎士ではないかもしれない。が、死の覚悟は持っているのだろう。でないならば、こんな環境で戦うはずがない。騎士でなくとも十分に騎士だ。




