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自分勝手な帝。背徳とはよく自分で言えたものだ。
「…なら……ほら、モナも何とか言ってやれよ!なら、私たちと戦うってことでいいのね? オーケイ!」
「バ……バーカバーカぁ!」
「おい、それが二〇代になって言うセリフかよ」
「か、体と精神は一〇代ですからっ。モナちゃんは、…は……爬虫類苦手っ」
目を瞑ってる場合ではないというのに、手で目を覆うモナ。ナフトは大剣を抜く。
(私はも得意じゃないんだけどなぁー)
「ということは、良いのだな? お前たちを倒せば我々は侵攻の正当な理由を持てるようだ」
「背徳帝さん、あんたの思考回路ってまとも? 先制攻撃はあんたが出した火球、でしょ?」
「……ぐわぁっはっはっはぁー!」
笑い声が暴風になり。二人が立っているだけでも辛いほど。狂わせられる方向感、距離感。砂嵐を誘う巨大な竜巻。(クッ、きっつーー!)ナフトは両腕を上げて砂嵐から身を守る。モナはナノマシンの防護壁で。
「……小娘、何を言うか。……我は第四帝国で最も賢く強いからこそ帝となれた」
そんな意味ありげで意味のない戯言が響きに響く中。ナフトとモナは小声で話している。
(ナフトちゃん、ジークムント・エフェクトは展開中だよぉ)
(あのホールのデカさでも通用すると思うか?)
【ダメだ。風がひどい。こっちにしよう】
【了解・了解ぃ。でね、ホールなんだけどぉ・・多分……無理ぃ。えへへぇ~。だって、ゲー(お父)ベル(さん)だって想定してないはずぅ】
【……私が切り掛かる。同時にマシンガンで撃てるだけ撃ってくれっ】
【モナは弾切れしないけどぉっ】
【なら、目だけ狙ってくれ。あいつ泣いてるしな】
「グォォォォオオオオオオォォォォォォンンッッ!!」
天を仰ぎ、吠えるドラゴニウス・ソブ。第二帝国の誇るヴァイス・クランを一網打尽にした火弾。顎の中に外に、ほとばしる火焔。溜めの姿勢であろうか。隕石のような質量を感じる。小さくて大きい、不可思議な火球。(ああ、これは喰らってはいけない! そうだなっ。うーんと……、ナフトのナノマシンで分解するか? それとも炸裂する前に斬撃で。……いや、熱すぎて近づけないか)
みるみる火は熱量を増していく。もしかしたら、魔界の火焔には上限温度などはないのではないか。そう思うに十分な火力。
(となると、ナノマシンの防護服で。って、ナノマシンにも熱量への限界があるか。あれ? モナ。何ボケーっとしてるんだよ。ああ、展開してるのか。何でそんなに遅いんだ。おい、モナッ! ああ、そうだよな。アイグラスじゃなかったんだ。今から送るか? ナノマシンのバリアに籠っちゃってさ。いや、待って、待って、待て! 何でこんなに思考できているの? ああ、もしかして、まさかのアレかぁ。体内時間の加速は、生命に危機を感じた時に脳が勝手に……。今までなったことがないからかな。感じ取れない。 私、死ぬのかな。ここで。こんなところで!? バカにするなって。私はナフト。『夜』。
<考え事中にすまないな。非礼を詫びよう。あの品のない竜に関しても>
ああ、あっそう。『会話』の魔法ってあるならばこんな感じなんだろうな。あれ、何で思考の中に思考が入ってくるのだろう? まさか、 『注入さ(・)れる(デルー)悪夢』を自分にかけたっけ? あははは。いやいや、そんなはず、ないない。あれは単なる……。ん? ん? ん? 時間操作の魔法がある? それで攻撃されて?
<そんな能力は使われてはいない>
あらそ。さっきからご丁寧に。……ってそんなあなたは誰? 何でそんなこと知ってるのよ。って、これまた、ずいぶんと火球が大きくなったじゃない? これって、死ぬのかな。死は怖くない。自分のは。
怖いのはモナの死、ロレンツォの死、カブちゃんの死。 って言うか。戦闘ができなくなること。やっぱこの辺に自分の存在意義があるのかな……。走馬灯が脳内を駆け巡る中、確かにナフトは異形・異質の声を聞いた。それは竜王の声よりも、重厚だった。そして。ナフトの思考もまた駆け巡る中。知覚が鋭敏になっている中でさえ、これだけスローモーションになっている世界でさえ、――疾風のごとく動く何か。
何が動いたのか? 何に跳躍したのか? 何時剣を抜いたのか? それよりも、どうしてこの竜の首を切り落とせたのか? 加えていうならば、なぜ、切り落としたのか? あの第二帝国が最高技術をたったの一撃で殲滅した、この虹彩異色の竜を。 すでに、何かは胴体部分を切り裂いている。
(魔術的特異点から出てきた?)
ナフトの思考を元に戻したのは、疑問符ばかりの現状。
「モナ、ナノマシンで複眼って作れる?」
「ふくがん〜? トンボとかハエみたいな?」
「ああ、どうしても確認しなくてはならないねっ」
「えぇ、ナフトちゃんがやったんじゃないの? ほら、ナフトちゃんって能力隠すじゃぁん?」
フッと筋の通った鼻を鳴らすナフト。器用にナノマシンで複眼を作るモナ。
「世界一、いやこの世一の剣士が目の前にいるよ。目の前って言っても目では見えてないけどね。
この切り口、あの動き、只者じゃない。あぁ、ヤッバ。好きになっちゃいそう、この太刀筋っ!」
その間も、虹彩異色の、オッドアイの啜り泣くドラゴンは切り刻まれていく。慚愧の念などは確認できない。バラバラと斬られて、切られて、刻まれて。まさに――微塵。あの躯体がこれほどまでに小さくなっていく。これがこの世の動きとは、思えない。刹那、姿を見せるは闇の中で、なお黒く。吸い込まれるような漆黒。よく観察しようとすると、目線が定まらないほどに黒い。
「モナ、複眼の件は大丈夫になった」
【そして、こっちに話をずらそう】




