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【そういうことだ。わざと倒させられるように派遣された可能性すらある。ただな、我々も手をこまねいている訳ではない。朗報もあるんだ。上空を見ろ】
【嫌でも音で分かるってば】
ナフトのそんな声も空からの音にかき消された。雲が出ているのだろう。薄ぼんやりとした月明かり。それしかない漆黒の天の幕。ジェット機の音。戦闘ヘリの音。電離気体の青いタイヤで飛ぶ航空機の気配。轟音を上げてやってきたのは。世界最強と名高い第二帝国)の第一航空打撃群である。
【随分と豪勢なプレゼントじゃない? 私を口説く気にでもなった? ロレンツォ】
【冗談を言っている場合ではない。世界が乗っ取られるかもしれないのだぞ?】
【だからと言って、第二帝国の『ヴァイス・クラン』が来なくてもいいじゃん?】
「ヴァイス・クラン」――キナ臭い噂もあるが、名実ともに世界一の空軍戦力。核兵器があるとかないとかいう噂が尾ひれをつけて。今ではある種の伝説となっている。公式記録では、被弾率ゼロ。全兵装が。第一八世代型と推測されている。単体でも最強。分隊でも最強。組織でも最強。空対地戦で最強。悔しいが最強、ナフトにとって。悔しいが資金も潤沢、ロレンツォにとって。それが結果や重要性も持っているとすると?
【『ヴァイス・クラン』? 商売敵じゃないですかぁ。私たちだけでやれるのにぃ~~!!】
【第二帝国)には、第三帝国)時代にちょっとした貸しがあってね】
【ちょっとどころじゃないだろ、ちっくしょう、浮気モンめっ!】
【過去の話まで突っかかる女性もどうかと思うが?】
【そういう男性も、ねっ?】
【ハイハイハイハイ、お二人さんっ。微笑ましい限りだけど、ダメみたいよぉ♪】
悪鬼。圧気。殺気。数奇。突如。ほんのコンマ数秒の世界で。魔術的特異点から。打ち出されるは、火焔の玉。正確に航空打撃群の中心に飛来し。炸裂!ナフトは思った。
(燃料気化爆弾!)
次いで、ロレンツォも感じ取る。
(しかも、超大規模!)
そして、蒸発。
(人類では作れない)
世界一の空軍。壊滅、全滅。チリ一つ残らない。圧倒的な火力と熱量。――大敗。
【…………。ナフト、モナ。世界の期待がかかっている。ポイントを伝える。そこから北に四km】
【期待って言われても、非公式でしょ?任務も、私たちも。このミッションでは記録は残らない】
【私は隠密任務ってだぁい好きぃっ!】
【頼む。君たちしか適任者はいない】
出会いとは真反対の言葉を発する。まるで、嫌疑が完全に晴れたように。




