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「じゃあ、喧嘩もやめたほうがいいんじゃない?」
「いや、もうやってしまっているし。お姉ちゃん、自分の服をご覧よ」
木々もざわめいている。植物ゆえに。逃げることができないからだろうか。魚たちも移動を大規模なものにした。たくさんの魚がジャンプしている。
「私の服、気に入って……!?」
服が溶け始めていた。咄嗟、頭に浮かんだのは硫酸のような劇薬を噴霧していること。
「魔界の毒や疫病を持つ妖刀がこの剣なんだ。かっこいいでしょ? あげないよ」
抑揚の無い声でそう告げる。可愛く無い子供。
「もう、詰んでるでしょ? それともチェックメイトかしら。これが疫病なら、私は治す手段がないわ」
「お姉ちゃんは嘘つきだ。お姉ちゃんの仲間の小さい方のお姉ちゃんは、植物の小さな機械で体を治すんだって。 先生が何度も何度も言ってたよ。『必ず目の前でトドメを刺せ』って。僕は騙されない」
「植物の小さな機械ではないわ。機械型の植物よ……」
呼吸が重くなるナフト。ゼハァ、ゼハァと憂げな息遣いで。しかし、まだナフトに焦りの表情は浮かばない。遠くで野鳥が鳴いたのだろう。おそらく最後の一群。そちらを眺めている、ナフト。
「結局さ、お姉ちゃんって戦うことしかできないんでしょ? なら、戦ってよ。剣が寂しいって言ってるよ」
ナフトはシカトして突っ立っている。
「それでも剣を振らないの? ずっと構えたまま?」
ソードマスターは単純な疑問をしている。優しい言葉の選び方とは裏腹に、見下したような抑揚。
「……うん、坊やには負けないもの。……童貞でしょ、君ってさ。……そうそう、童貞君はさ、……女性の扱いが下手なんだよ……」
「……童貞って何?」
「……あちゃっ。……そ…そうきたか。……少しは口撃もできるか。要するにね、…退屈な試合ってこと。
ま……私のせいでもあるんだけどね」
「そう、まさしくお姉ちゃんのせいだって。ちょっとは刀の錆が欲しいってこの剣が言ってるよ」
「……それじゃあ……ちょっと……腕試しと行こうかな。こっちの……剣技も…………教えて……おかない…とね」
鳥の最後の一群が飛び去り。日が夕陽にさしかかろうとしている。
「この辺に生物はいなくなったはずだね。微生物をも殺せるんだ。この剣の細菌とウィルスは。どう、お姉ちゃんは動ける? ああ、そうだ。これ知ってる? 野生動物ってね、危険なものから、いち早く逃げるんだよ。だって、動けなくなることを知ってるから」
「…………動けなくなる? …………ウィルスで?」
ウィルスには潜伏期間がある。そう習った。それに、パワードスーツには、免疫系を上げる作用も付いているのは事実。まだ、アラートも鳴っていない。




