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電子の天使は微笑んだ。モナはなるべく「あの日」のことは思い出さないよう強制的に封印――シャットダウン。自分の有機脳の抑制。アクエルオの話が本当でない場合、精神攻撃であり。番外手に見事にかかってしまうからだ。かといって、耳を塞ぐのも良い手ではない。耳、音波領域を拾うセンサー類のこと。(なるほど、さっき確認できなかった透明な存在はこの水の槍。背景色と上手く色を合わせてぇ、限りなく透明に近くしていますねっ! モナちゃんの位置を想定した水の流れの操作。この水の槍は、実はぁ、かなり厄介物ですぅ……)
水もまた流動体である。電子の粒子のように。
(案外似た能力かもしれないですねぇ。あとは手数、意外と戦術の幅って重要ですっ! …んっ! ナフトちゃんの方も始まったみたい)
そんな考えをしつつ高速で逃げるモナ。高速で追い続ける水槍の大群。大群、追う。モナ、咄嗟にジャンプ。 大群、畝る。モナ、そのままブースターに頼る。大群、襲う。モナ、速度を上げて。下手な追尾ミサイルよりも旋回半径が短い。モナは微量のナノマシンを放出し、 その反作用をも利用して器用に回避している。このレベルの空中急旋回は、物理的には不可能。対魔法能力者専用の戦い。(案外、厄介) ブースターで飛翔しているモナ。下の方からは、意味こそ分からないものの、大きな音が視える。音声モードをオンにする。
「おいおい、いつまでも逃げきれないぜ? ヒントを出してやるよ、お姫様ぁ、ヒッヒッヒ。もう二〇回以上は突き刺しているぞ。気がついているんだろう? 突き刺した回数と時間が、この能力『水の(ータ)尖塔』には重要。結構時間経っちまってるるぜ、ヒヒヒヒッ」
(少し量を減らした方が無難かな?)
飛翔時間には限界がある。それは約一八秒ほど。水中落下、着水などはまずい。――もし、水中で水の槍が襲ってきたら? 透明度は大気中でも高い。これが透明の背景ならば、打つ手は無くなるだろう。ナノマシンとの相性も当然悪い。先ほどから見定めていた場所へ着地。かなりブースターを使ったので、落下時間に加速などは勿体無い。かかった時間は実に八秒。纏っている植物型ナノマシンが風の抵抗を受けたため。
たったの八秒。否、たっぷり八秒ならば。何十回地面に剣を突き刺せる? 槍が出るたびに。時間の猶予がアクエルオに与えられる。鼠算式に手数が増えたならば、モナどころかナフトにも被害が。相手が遺跡地帯にある数少ない地面に剣を突き刺す様が見える。連打、連打、突く、突く、突く、突く。
(さってとぉ、少し演算能力を強化しようかな)
少なくとも、モナの打つ手は三つあった。一つは今結果が出る。
【水槍の中の成分に微量の金属成分、希土類あり】
これに関しては二通りの考えができた。
(ええっとぉ、一つは、敵の水はこの土地ラズリーだからできるのかなって思う。この目下に広がる水を、どうにか転送させて使用しているんでしょうねぇ。自然の水は艶かしい姿を見せるけど、純粋な水ではないからねっ。二つ目は、魔界の水、ザザムクレンの水もこっちと同じだという仮説。どっちを採用しても結果に問題がないのが、うっれしいぃ)




