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「古代寺院に刻み込まれたカルディア・バナレキア数列なんかは、リラクゼーションの幾何学を盛り込んだ名画とも言えるのでーすっ!」
「でさでさっ! やっぱ食事だよねー。グルメ・グルメっ」
「モナちゃんはぁ、ローゼン・ハーメル・メープル・プァナをはぐはぐしたいで~っす」
美味しそうに語るモナ。首をふるふる揺らしてているからには本気なのだろう。
「で、ナフトちゃんはどんなグルメがいいの?」
「ふっふ〜ん。んふふふ、一番を聞きたい? それはねぇ、男と同じで……」
【あー、盛り上がっているところにすまない。いや、すまないということはないか。職務中だ。だが、割り込み失礼。旅行やグルメの話を聞くのは今でなくて良いだろう?】
【あれ? ロレンツォ〜。部下のプライベートな一面、知りたくない? 知っておくと何かと便利だよ】
ナフトは長い足を組み直し、メッセージを返す。眼下には広がる湖、または大きな池、あるいは巨大な水たまり。
【聞きたくはない。できれば後だ。デブリーフィング時に時間があったら聞こう。残り時間は、五分を切っている。第四帝国の戦闘データ諸々を得なくてはならないのだ。言い方を変えれば、我々が行うのは制圧であって、討伐ではない。調査及び、生死に関わらず確保をする。人類の第四帝国への攻撃のための作戦だ。制圧するのは、つまり対象の確保は、討伐や破壊や殲滅よりはるかに難易度が高い。余力を持って戦うのが好ましい。
【制圧が最優先、不可能な場合のみ、殲滅せよ。ただ……】
【ただ?】
ナフトは内容を知っていて、メッセージを送る。会話も楽しまなければ、旅ではない。
【繰り返しになるが、できれば生体を確保してくれ】
【緊張してるの? 繰り返してないって。あんたらしくもない、ね……。さてぇ、生体って言っても、あいつらこの世界の物理法則の中で生きてるのか?】
と、突如。
【割り込み失礼。カブラギよりナフト、モナへ。その『ローゼンなんとかなんとかなんとかぁーな』ってのを奢る。旅行もセットだ。頼むから頼まれてくれ】
【ナフト、分かったよー】
【モナちゃんも。ただし、カブラギさぁん。ローゼン・ハーメル・メープル・プァナは約束だよぉ】
了解の二文字を言わないことに、ロレンツォは何も言わなかった。緊迫していたのと、今日の戦いを見せられたからだ。いや、魅せられたからだ。暗雲。それはいつの間にか。二人のはるか。頭上にあり。目の前には。水がしとどに流れる。遺跡も見える。バロッグとも。アルヴァロン様式とも。形容しがたい。独自な文化を形成していて。ナフトとは別の、荘厳な美しさを保つ、水の都。それは過去の姿である。現在は近づけば近づくほどに、崩壊の跡を見せる古都。




