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銃声が、剣を振り下ろす音が、交戦自体が連絡を一瞬遅くした。
【敵は増えているぞ】
アイグラスのメッセージの意図を最初に汲んだのは、リック隊長だったはず。それでもなお、燃料気化爆弾は撃てずにいた。敵の総数はまさしく未知数、撃てるはずはない。一体の敵を倒すごと二体の敵が出てくる。この二体というのが、四体になると。つまり、倍に出続けると。残弾が尽きた方が不利になり始めるだろう予測が立つ。四体なら? 五体なら? 六体なら? 未知数が示すのは二百体ならば? 一個体は弱くとも。最悪のケースである第四帝国の領地を作ってしまうことにもなり得るように。私にはそう感じることができた。事実、敵の骸骨は鼠算式に増えているようだ。その一体がリナに、持っていた剣を投げつけた。
剣は喉を貫通して。ギザギザの刃が動脈を、簡単に引き裂いた。戦場に曼珠沙華の花が咲いたような、
不思議な印象を心のワンシーンに残るイベントだった。骸骨には血はない。曼珠沙華の赤のイメージは味方のソレ。当時の私は『死』の概念を上手く理解出来ないほどに、未熟だった。今なお、後悔を同時に感じている。明確な自軍への攻撃。ブリーフィングを無視した私たちとは違い、命令を守ったグループもあって。そんなグループほど先制攻撃を受けた。彼ら彼女らの初動さえ早ければ、と思うのは幸福に遠い。とにかく、ここで、特務80の全体が、明確な意思を持って動けるようになった。――敵を殲滅せよ。―――相手AA級だ。――――難易度もA級。
音と動きが重要となる戦いだった。逆に、こういう時こそサイレンサーなどの心配はない。音が音を掻き消していくため。遠慮のない銃撃も可能だったが、特務八〇では一射一殺が基本。基本は全員が当たり前のようにできる。それでこその特務八〇。基本戦術では初弾はスナイパー班に任せることにしている。が、今は私たちアタッカーも、さらに前衛に出るべきだろう。そのまま増え続ければ1時間後には何体になるんだろう? おそらくは大(核)規模空爆が必要ということになる。いや、核すら間に合わない可能性も十分にありえた。
「リナ、エッジ、陣形を変える!」
私は声とメッセージ両方で送った。何か特異点らしい干渉が情報伝達にあった場合に困るからだ。気持ちの問題でもあったが。
【鷹のサポートはいいのか?】
【エッジ、私の裏に付いてくれ】
【こっちにも指示を】
【リナは、上方を狙ってくれ】
【単純化する。空間を3つに分ける。だいたいでいい。前の半分を私が受け持つ。私がこぼしたものをエッジが撃つ。後ろ半分を受け持て! リナは空中に飛んだ剣や骸骨を撃ち落とせ!】
【エッジ、了解】
【リナ、了解】
確か、一番油断していたのはリナだった。




