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「物理はまだ完成してないんだよ。でも、常に発展を続けるのが特徴だ。でね、こじ開けることもできるんだよ。知っているよなぁ? 君が発見し創ったんだろう? ――虚数空間媒体操作効果、つまり『ジークムント・エフェクト」をなっ!!
「まさか、都合の良い様に特異点の内部の法則を変えるというのか!?」
「そう、条件は同じだ。向こうにも同じ空間が待っている」
「根拠はその本?」
「公理がこの本だ!」
「モナ、この実験には参加しなくていい。私がいる限り危険なことはさせないぞ!」
『モナ』と呼ばれる兵器、それも空間に干渉できる兵器が在る。思いもよらなかった。この狂気の場から逃げられ。帝国間の垣根も超えられ。あの敵性因子を退けられ。一緒に任務がこなせるなんて。
「安心してくれ。ゲーベル君よ。この作戦に参加している上部とは話がついているのだよ。今はまさに、モード・チェンジをしているんだ」
この時、ゲーベル博士は唖然としていた。何か、いや、次の話が推測できたいたのだろうね。
「普段なら君が近くにいればセーフティモード。君がいないか、いないという模擬信号を出すとエマージェンシー・モード。君をどんな命令より優先して助ける。そこを少し弄った。君がいると戦闘モードにしたんだよ。強制的になぁ!」
大きな声を出して笑うルーベック教授。腹の底から声も出ていた。
「モナァァアアア!!! やってはぁぁああっ、ダメだァァアア!!!」
プログラムの前では、叫びも虚しく。
「どんなロボットでも、プログラムには忠実。自分でしか解けない暗号でも組み込んでおくんだったなぁ!」
その時。
「対魔法的特異点強制物理書き換え装置体系群、オールグリーン・オールグリーン。関係者各位へ。防御態勢を取ってください。繰り返します。オールグリーン……」
アナウンスが鳴ってしまったんだ。あの、プラモデルの破片を適当に固めたような構造体。そのシステムの内部にある何かしらの装置。モナ(それ)が。特異点まで変容させてしまうらしいということは理解できたんだ。 装置にはたくさんの管も付いていた。中央のボックスが内部構造から見え隠れしている。小さめの人間一人くらいがちょうど入れるくらいの大きさだった。私は、ベースの山岳地帯の崖から望遠カメラで覗いていた。敵が出てきた瞬間に戦闘開始だと命令されていたから。ジークムント・エフェクトは、第三帝国の所有物だった。高度なナノマシン技術は、空間の粒子にも干渉できるのかと思い。筋肉が硬直する感じがしたんだ。あの装置は、「内部のコア」を、第(N)一(I)帝国(C)サイドには見せたくない措置でもあるだろう。――無論、空間干渉に特化させるような効果が、ない訳がなかったんだけどね。にしては、なぜ第(N)一(I)帝国(C)が尻拭いのようなことをしなくてはならないのか? 高度な政治的判断というやつかな、当時はそんな粗末な考えしか浮かばなかった。特異点技術の取り合いなんて。くだらない。そして。ちっとも珍しくもない。ゲームの理論が分かっていない連中の、愚鈍なカードゲームに過ぎないのに。漆黒よりゲス黒い策略が巡る空気の中。ついに、空間は歪められ、歪んだ空間は物質性を帯び始めていた。ジークムント・エフェクトは周辺の空間にも影響し始めた。空中に虹色の粒子状の波紋ができている。虹色で美しかった――が、残念な結果を生むことになる。何か丸いトゲのようなものが出てきたのであった。上空に待機する特務八〇の航空部隊も、慌てたかのように陣形を変えていた。いざとなったら、原因も結果も吹っ飛ばすつもりでいるのだろう、禁断の爆炎で。トゲのようなもの。それは変容していった。トゲは、剣となり、また、時に盾となり、剣は、腕に持たれ、盾は、腕に着けられ、ついで、鎧の先が出てきたかと思うと、全形が露わとなる。――骸骨。剣と盾を持ったような姿の髑髏が出てきた。こんな時、第(N)一(I)帝国(C)では未知の敵に対して「ギニーピッグ」と呼称する。『ギニーピッグ』は生贄の豚。あるいは祖国の発展の糧となるように願をかけて。
我々の出番かどうかの判断は、隊長の『リック』でも難しかったようだ。確か……『リナ』も『エッジ』も緊張を隠しきれていなかったんだ。ジークムント・エフェクトの展開が終わった頃、その場の人間達にも魔法的特異点が黒いホール状のものと認識できるようになった。後に聞くことになるが、このジークムント・エフェクトの生みの親がゲーベル博士。モナの育ての親と言っても良い。確か、黒いホールから完全に一匹の骸骨が出てきた瞬間だった。それとは別に、一二の手がホール外へと伸びていた。これが敵性を持つ集団ならやばい。見た目は敵性を帯びているとしか形容できなかった。それに、脅威となる力を持っていて、なおかつ交渉の余地がない場合――無知、支配欲が旺盛、純粋な善意から、純朴な悪意から――が非常に危険だ。リック隊長は、右肩に燃料気化爆弾を据ていた。私たちは訓練づけされているので、自然にロックをかけたサブマシンガンを準備して照準を合わせていた。構えだけを見せていたのは、躊躇ではなかったはず。特殊な講義があり、『先制攻撃を受けるまでは攻撃してはならない』という指示があったのだ。 専守防衛、やはり、未知のものに先制攻撃はまずい。表立ってはそうなっていた。が、この局面、撃つが先か、撃たれるが先か。誰が撃たれれば? それとも、引き鉄を? その時。
「あぁぁあああっはっはっはっはっはぁぁぁぁああ! いっ、いいっ……いいっひっひっひっひっひぃぃぃぃいいいいいい!! がっはははははははははははははハハハハハハハハハハヒヒヒヒヒィィィ!!!」
ずっずっと魔術的特異点に近づいて行った影。
「魔が間と真を占め、亜が左と下を占め。 夜が世と良を決め、生は右と上を決める! 世界は三変され、蘇るは静けさと無慈悲の霊廟からの王朝!! 我が悲願は叶えられたぁあっ!」
ずっずっと魔術的特異点に近づいて行った影。それは、骸骨の間をすり抜けるように。そしてトボトボと歩きながら、ホールへと向かう。骸骨はそれを見逃さず。噛み、喰み、叩き、砕き始めた。肉片が周囲に飛ぶも、ホールの奥からは笑い声が止まらなかった。――狂人ルーベックの最後、または最初。
「教授ーー、危険でーーーす! お下がりくださーーーーーい!!」
我々、第一帝国の特務80の前線の担当が叫んで警告。




