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「全て本に書いてあるのだよ。瑣末なことにいちいち気をつかってはいられない。本に書いてあるものこそ公理なんだよぉ? 私には絶対の自信があるんだあ。これから、私も忙しくなるぞおー! がぁーっはっはっはっはっは!」
公理は都合よくおけるものではないが、無理やりおいてきたんだった。ルーベック教授は、ゲーベル博士に対して、公理を持ち出した。時間の経過と共に情報の精度は低くなっていく。それを知らないか意識しないか以前に、自分の持つ本に公理を持ち出したのだった。これは、これ以上の反論はするなという意味なのか。偏執病になっているかのどちらかだろう。後者の可能性が高い。などと、私は距離を置いてブツブツ言っていたのかもしれないし。言っていなかったかもしれない。朧げな部分のある記憶。しかしながら。時に映像はスムーズに、そう、まるで映画のように流れている。も、毎回ここで一時停止のように画像が止まる。先を見てはいけない? 私の本能が告げている? それとも深層心理? 何? 一体何がそうさせる?
ナフト、大丈夫。ナフト・アーベンフロート、大丈夫だから。……そう、私はナフト。何も問題はない。
だから、深呼吸して落ち着いて、ね? 言葉を選ばないと、歪な平和を保っているこの世界)は、
あっという間に崩壊してしまう可能性すらあるのよ。落ちつてい考えれば分かるはず、ゲーベル教授は――もう……。でも再生できるでしょ? ナフトッ。そうね、私って結構素直な性格してるから。
「ルーベック教授、特異点の意味は?」
「なぁに、簡単な定義の話さ! 科学者に不向きな学問もあったもんだな。科学哲学ってやつだもんなぁ!」
「ふんっ。特異点、それは現代技術が解明できない空間のことだ。それに科学哲学を今ここで持ち出しても意味がない。こっ、こういうのをいちいち言わせるなっ! まったく、これから忙しくなるというのに……。 さて、基本のアストラル投射の反映ポイントはと……。 凹球体の世界との相互関係に関する話はどこに……。ああ、そうか。『七角形と砂糖と光に関する秘術』を忘れていたのか? ふむ……これでは半永久機関とはならないのか。……形状はマイザルの測定公式に則ろうかな……」
ルーベック教授はまだブツブツ言っている。現代技術が解明できないという解答にはたどり着けていた。
間違い無く、ルーベック教授の思考もまた、現代科学の範疇、のはずなのに。胸騒ぎがしたんだったな、この時。そういえば、戦闘を匂いで感じたのはこれが最初だったっけ。
「本に書いてあることは、現代の技術で再現できるんですかねっ!? アストラル投射だの凹球体だのは、ましてやマイザルの公式まで持ち出すとは!? はっ、まさにあなたはオカルト人間だ。そんなものが真実な訳がない! ルーベック博士、博士もまた現代科学の域を超えていないはずです。そうでないとあなたもまた、特異点になってしまう。……でしょう?」
今度はゲーベル博士が笑顔になった。ブツブツ言いながらも、博士の言葉を聞いていたルーベック。
「……ほう、そうきたか! 本を以って本を解明しても無意味だと!?」
合わすように、ルーベック教授も微笑んでいた。
「その通りです!」




