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 そのセリフは言葉にはならなかった。いや、できなかった。ふと、とあるアイデアがナフトの脳裏をよぎる。

「モナっ、どれくらいかかりそう?」

「三時間くらいだと思う。ナフトちゃんだから出せるスピードでいくよぉ〜。人口骨格とは別にさらに(ない)骨格(こっかく)ぅ。羨ましいくらいの耐G性能のボディが割けない程度にぃ〜」

 強化されていない人間には耐えられない重力。それがナフトにかかり続けている。

「……ちょっと仮眠していい?と言ってもまあ、いつもの瞑想するんだけなんだけど、さ」

「好っきねぇ~瞑想ぅ~。どうぞ~、現場付近になったらアラームで起こすよぉ。マグナム戦隊リボルレンジャーのテーマでいい? オープニングの?」

「何その古典(アンティ)(ーク)なチョイスっ」

 思わず笑みが出る。

「チョイスこそ古典的ですがぁ、起こし方は最新式でぇ~すっ! ちゃんとカフェインとビタミン剤の注入をして起こすよぉ~」

「……ちゃんと古典的じゃないか。んふふふっ。ああ、ナイトボアの生体部分から抽出できたってこと?」

「ナノマシンで何回も化学的にアプローチしたよ、ついさっき出来たのぉ!」

「物質変換するのにどれだけの施設が必要か知ったら驚くよ。その小さなボディのどこにそれだけの力が隠されているの? でも、とっても安心できるかなっ! では安心して瞑想しちゃおっと。その、……いつも、……ありがとう……ね」

「んっ、あれ、いつもみたいにストンと瞑想に行かないね?」

「…………うん」

 小さな声でナフトは返事のような、上の空のような返事を言って。瞑想の世界から届いた音でもある。

【よぅし、全身機械の乙女は二四時間働くのです!】

 とモナは意味も無いのに自分にメッセージを送った。そして、起動したアイグラスのメーラーから、伝言を送った。

【ナフトちゃん、きっと心労があったんだろうね。もしかして、私に関してなのかな? でも一度忘れようねぇ】

 次いで。

【gnsyl :D】

 ――グッド・ナイト・シー・ユー・レイター、にっこり。快適なはずの空の旅、しかし雲は灰色から黒へと変化していて。うっすらと月の明かり。周囲が見える高度なのが幸いか、気にせずに瞑想に移行できる。

 確実に魔術的特異点が存在することを、イメージして戦いを有利に運びたい。モナは、ナノマシンのヘッドホンを付ける。まるで、花飾り(プランテック)を付けた少女のように見えるナフト。あるいは、こくんと眠りに落ちる胎児だろうか。こんなのまで作成できたのだという驚きは、ナフトにはもう無いのだろう。あの頃はあったのかもしれないが。ナフトの想像以上のブラックボックスを持ったと判明した「電子の天使モナ・バーベバルツ」。そんなモナとナフトが会ったのは、そうまさに「あの日」だった。

 夜の漆黒。それよりも黒い世界。黒の(ミスト)。その靄より深い沈殿物があるようで。瞑想の世界は深く。 広がっては縮み、やがて具体性を帯びていく。そこでは大剣は過去の体験に過ぎない。私は背中の大剣、グングニルに纏わせている意識を、脳と丹田(たんでん)に収集し、集中する。そして、交点(イメージ)が見える。硝煙、消炎、航海、後悔、(エリア)は? 撃破。送風、爽風、道程、同艇、(がんぐ)は? (てき)も残さず。深く広く、高く低く無限に広がる明るい闇の空間。やがて、さらに光点が見える。光点は広がり、さらに具体性を持った像を結ぶ。

 像は彩られ、群像を成して。私、ナフト・アーベンフロートの心はただ一点『この日』にある。そう、ヒゲの生えた煮え切らない、オヤジ。あのおっさんの一言から事は始まったように見えたんだった。白衣を常に身につけ、気高くお高くとまった食えない奴。確かだけど。ええっと……こんな風に、話し始めていたっけ。


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