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「全物質中、唯一放射線を透過しないのは鉛のみ、でしょ? しかも相当分厚いってことは? 何度も失敗しても放射線が外に漏れないように厳重にした可能性がある。また、どんな、例えば第二帝国の反体制派がx線透過装置を使っても……」
そんな話の最中にも。モナは二人の全身を鉛でコーティングしている。口と鼻の部分にはナノマシンで放射線を限りなく減らす工夫がしてある特殊スーツとも言える。
「んっ、やるじゃん?」
ナフトはモナの現状把握能力にウィンクした。そして、コーティングが終わるとほぼ同時に、四角いドアに丸い穴ができた。どうやら搬入用エレベーターの上につながっていたらしい。そして、その天井が見えるところは点ほどに小さい――ロープか飛行能力が通常ならいる。縦のトンネルが広がっていたという訳だ。
「またモナにお願いしちゃうみたいね」
「モナも頑張るです!」
モナはコーティングを纏って。くるりくるりと。ダンスのように舞った。すると機械的な植物状の枝葉がコーティング・スーツの上に走り始める。ナフトの全身を撫でるように、もう一度舞う。モナは支援用試作機の発展系列の兵器であった。そのため、電子干渉能力、植物型ナノマシンで治療、ナノマシンで物と物をつなぐ、などに加えて、飛行能力が備わっている。根源はは万能兵器にしたいとの第二帝国と第三帝国共通の思惑。まずはナフトから、落下。両の腕を交差して、ふっくらとした胸に被せる。空気抵抗が落下の邪魔をするのを嫌ってだろうか。穴の空いた鉛のドアの前に立つと、背を向けて。足で空いたドアの縁を蹴る、トンッと。ナフトのつま先から、太もも、腰、肘、胸部、首、頭と落ちていく。なびく髪は黒色の凜とした花を彷彿とさせて。くるくると乱れた軌道を描き、儚く美しく落下。風を感じるにはスーツが邪魔をするが、それでも風が気持ち良くて。全身を淡い快感が包んだ。ナノマシンでの飛行能力は落下をほんの少し遅らせるくらいで良いのだろう。また、味方でもある空中に身を任せたせいか。ナフトは両腕をほどく、愛する誰かを迎え入れるように、そっと。目に映るのは。下から上へ流れていく階層構造。ラインのように繋がって見える工場用ランプ。無機質で不愛想な鉄筋コンクリート。そのどれもが笑っている。ナフトにはそんな思いがあった。彼女はエナメル質のスキンスーツ、パワードスーツ、鉛のスーツ、ナノマシンのスーツの上から落下の風と同化した。合わせて、電子の天使もわざとスカートを出し、それを抑えてお嬢様風にして落下。――気持ちよかった。
(やれやれ〜、ナフトちゃんったら自分勝手なんだからぁ)
そんな思いでモナは後から飛び込んだ。扉の奥のホール。またその先に巨大なエレベーター構造。またも鉛で作られているようだが、巨大な箱は、重たい物を運ぶためにある。 つまりは、天井を内部に落とそうが、起動はする。問題ない、そう思ったナフトは、天井を大剣で斬りつける。振り下ろした大剣は例のごとく。物騒な手応えもなしに乱雑な穴が空いた。4角形にも5角形にも見える。メジャー・シーキングで直接エレベーターを動かし、最深部へ向かう二人。到着した階層には、またも壁。エレベーター内部から、モナがナノマシンでこれまた鉛製の閉まっている扉をこじ開けた。




