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ナフトは、蜃気楼の簡易椅子に座りながら自分が面白くなれそうな作戦を考えていた。そして、抱きしめるように愛用のパワードスーツを着込む。通常の筋力でも愛剣を扱えないことはない。が、切れ味とエッジが違うのが目に見えて分かる。白色のパワードスーツと内側の黒いエナメルが、上品な花のようなイメージを見たものに与え。黒い行動とグレーの発言もまた、美しさを引き立てるスパイスとなる。パワードスーツの素材は粘性と展性に優れ、防御力に特化している。加えて、カーボンナノファイバー製の人工筋肉がナフトの動作を補佐する。スーツを着ると目をつぶり、自分自身もそっと抱きしめるような仕草をする。勝利への祈りを込めているのだろう――可憐に。その後、愛剣のケアを始める。「使い方」によって戦局が変わることもある大剣。そのメンテナンスは命とも直結する。ふと、目を再び瞑るナフトの手はグングニルの上で震え始めた。
「あんれぇ~、ナフトちゃん。もしかしてぇ~、珍しくもぉ~、今回だけはぁ~、ビビっちゃってるぅ?」
モナがあっけらかんとして聞いてくる。
「まっさかぁー」
瞑っていた目をゆっくりと開く。
「でも手は現に震えているよ」
ナフトの手は現に震えている。
「武者震いってヤツよ。今回のケースはちょっとやばいかもね。情報が伏せられ過ぎているからね」
「じゃあ、困難ってこと?」
モナは首を傾げて、右の指をこめかみに当てている。
「そう! 困難で面白くなる……ってこと。楽しみがいがあるね!」
ナフトはそれに上目遣いで応じた。
「さっすが、硝煙の似合うモデルさんでぇす!」
「あなたも電子の天使でしょ? あら堕天使だったかしら?」
ナフトはふふっと鼻で笑う。
「それはお互い様でぃーっす!」
モナはそれにニコニコと応じる。笑顔が絶えない二人。戦場に赴くとは思えないリラックスの加減。
「匂いも良いよ、今日の空気は軽くてふわふわしてるよ」
「ああ~、それ私が言いたいなぁ」
ブーっと頬を膨らませるモナ。フリルの付いた服が揺れ、可愛さをいっそう引き立てる
「航空機があるのだろうな、この微かな香りは」
「航空機? 海燕のこと? ブリーフィングで説明した通り、きっといるよ~。……って香りで分かるの?」
「海燕とは違うよ。もう一つの航空機か航空体。匂いと言うか勘で分かるんだ」