103
鎧に月明かりが当たり。顔が見える。それは、ハンサムと言えるものだった。
〈師団の人間にもあまり見せないのだがな。敵ではお前が初だろう。私の素顔を見るのは〉
(見たからには生かしておけない、って?)
〈そもそも生かしてはおけない、の間違いだろう? 危険因子よ〉
ヴォルグは目に入った血を拭った。その隙だけは、ナフトは追わなかった。自分で作ったものではないからか。――それとも。
(つまんない男のデートプランじゃないんだから、もっと楽しませてよね?)
〈先ほどからつまらない減らず口ばかりが目立つな〉
ナフトは大剣を大きな鎌にした。
「長棒って本当に使いようよね? 相手を逝かせるために……。そう思わない?」
その瞬間。叩き込むナフト。
「タァッ!」
ナフトの斬撃。その腕には。うっすらと。しかし。明確に。筋肉が浮かんで。タイトなスーツ越しに。儚さを感じさせて。なおも美しく。首を刈り取りに迫る。
「ふんっ!」
片手の剣でいなす騎士。
「ダァッ!」
瞬時にモードチェンジされて。振り下ろされるは大剣。
「……ふっ」
余裕で態勢を変え、避ける騎士。少しの。ごくごくミクロの時間を空けて。ガチンガチンと音だけが虚空へと響く。火花が形を潜めているのは、どちらかの剣に限界が近いということ。連戦で大剣を使用したナフトのグングニルは悲鳴を上げている。数打を加えては、弾かれて。距離を取り、隙を新たに引き出そうとするナフト。一撃一撃に込められる感情。それは恋慕。
(『鷹』の剣で負けて死にたい? 私ってそんなやつ? 違うでしょ? 新しい敵を常に探してる、そんな女……)
ナフトの恋心は、自殺願望にも似ていた。まだ見たことない世界への羨望、憧れ、好奇心。生死をかけた先に見えるモノを探すように。そして、全てを吐き出すように、愛を以って大剣を振るう。可変、グングニル、槍へ。リーチの差を活かそうとするナフト。音叉のような形状の大剣は、交差してなお尖る大槍へ。ナフトの想いに呼応してか、いつもより素早く変化していき。全てが相手に伝わるように、真心込めて、槍で点撃をする。モードチェンジ程度では相手の隙は引き出せないようになってきた。相手は相手で隙を隠し、カウンターを狙う。再び取られる、距離。今度はグンとたっぷり離れる。双方ともに、無駄な太刀を出さないように、思考の時間を取る。チェスやカードゲームの決戦の一打の前の溜めのように。そして、奥の手は見せない。愛があるから。