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「まさか。そんなに勿体無いことをするわけがない。お前の思考には、その能力を使うというものは、一切なかった」
「あれ? 警戒してるってことは、ビビってた?」
「使われても勝利できるという確信だよ。だって、お相手は、こっちの世界の最高峰の剣士、ナフト・アーベンフロートだ」
睨み合う二人。
しばしの沈黙。数手先の数手先まで読まなくてはいけない。しかも、愉しむためにはソードマスター戦のような戦略 。『注入さ(・)れる(デルー)悪夢』は使えない。(さて、剣撃は通らず、一つ一つの武器では効果が薄い。ハイ・ローミックスでもいこうかなっ)
〈ハイ・ローミックスという単語。そちら独自の言語だろう。それにイメージを付随させないところは素晴らしいな〉
(使い手が?)
〈そう捉えてもらって結構だ〉
(私ので逝きたいって意味?)
〈……私がするのは、目の前の危険因子を排除するだけだ〉
(あら、私ってやっぱ危険因子扱いされちゃってる)
この間にも、策を巡らせるナフト。創聖の(ヴァ)書の時代の言語体系を使い、相手を翻弄している。
〈この数撃の間、いや、この間にも幾重にも策を巡らせているのだろう。危険因子だ。それと賞賛すべき相手でもある〉
(ありがとう。それじゃあ、殺っていい?)
〈ああ、殺れるものならばな〉
再び。ナフト。跳躍する。紫電が如くの超スピード。モナのブースターを最大限に利用する。
〈カードの追加か? さては臆しているな〉
追撃ではない。全身のブースターを引きちぎり、大剣に纏わせる。高スピードが乗った状態で。さらに大剣に速度を乗せる。ヴォルグ、意表を突かれる。何せ、このような荒々しくて鋭く美しい戦いを見せるものは、第四帝国でも希少。しかし、ヴォルグにとっては反応できないスピードではなかった。
無残にもナフトの腕は切断され、中を舞う。腕が寸断されて。地に血を注ぐ。残った腕からは。バラの花弁が散るかのごとき血しぶき。痛々しくも、美しく儚い。ナフトの斬撃は鎧兜を、相手の姿を露わにして。 ヴォルグ、赤い血を見せる。そして、素顔の一部も。も、致命打には届かず。ナフト、再び距離をとる。大剣についたブースターを再度ほぐして取り外す。無くなった腕に絡ませる。――止血。しかし、これで利き腕でしか大剣を使うことはできなくなった。大剣使い、初の体験。帯剣はあるが、大圏は制されていて。(ちょっと、これは、困った……かな?)
〈追加したカードは攻撃に治療に使えるようだな。食えない女だ。褒め言葉と受け取れ〉