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ナフト。夜。愉しめそう。久々に心が躍っている。そんな絶頂の手前。おそらく。二刀流の剣士も。兜の中の頭の中では。同じようなことを考えているだろう。思うに、久々に心から活ける? かな。だってそうでしょ?『こんな環境で戦うはずがない』って文句は。私たちのためにあるのだから。
ナフトが先に動く。高く飛ぶために。地面を蹴っての。飛翔。対空。相手を一心に見つめて。なおも。無心。重力の力を借りての。落下。
「ハァッ!」
稲妻のように振り下ろされる銃剣はいつしか大剣へ。グングニルは選択できる武器である。無言で剣で受け止めるヴォルグ。――火花が起きて。
「タァッ!」
ガキン、カチンと軽快なリズムを奏で。反動を活かして。大剣を振るうはナフト。体を回転させ。その力で放つ刃。再び最小限度の動作であろう。最適な滑らかさでかわすヴォルグ。太刀は虚しくも空を切り。――火が爆ぜる。
「ダッ! タッ! ヤァッ!!」
三連続で繰り出す剣技。余裕を持ってかわすヴォルグ。快感に身を委ねるようにして。夢中になっての一撃。――閃光。それと見紛うほどのヴォルグの太刀筋。ナフトは咄嗟に銃剣で押し止める。
「口だけではなさそうだな」
「フフッ。表情が見えないから、あなたの力の上限が分からないの」
ナフトは、暗に本気を出してこいと攻め立てる。――刹那。回転して。ヴォルグが器用に真似をして返す。
「クッ!!」
刹那の中の刹那にもう一撃を叩き込むヴォルグ。両刀使いは一手余計に動ける。
「フッ。勝ったとはっ…」
ナフトは距離を取る姿勢を保ったままに。
「…思うなよぉっ!?」
片手の腕の力が相手の両手とイコールならば。ナフトの力は鎧の騎士の腕回りからするに半分程度。適当な台詞でおびき寄せる。絶妙な餌がないと、この手の連中は食いつかない。――斬撃。銃剣を大鎌にモード・チェンジしての。隙のある大きな動き。(激ヤバッ!)この一手こそ、敵の撒き餌だったならば? 隙を探して、否、隙を晒しての隙探し。可能性は十分に。(差が無くなる、一手分!) その思いは、事後に感じたように思えた。ナフトの頬には刃が突きつけられた。薄皮一枚よりも、よりも浅く。腕の産毛をなぞるように。全力で振り下ろされた長剣。自分への太刀筋が予想されるルートには、もう一振りのガードのオマケ付き。一方、ヴォルグの鎧には亀裂が入った。お返しといわんばかりに、皮膚があるであろう部分には傷をつけない。全身全霊を込めた大剣の一撃。今かさっきなのか分からないほどの。刹那にこの剣捌き。
モナはというと。ナフトの補佐をするために、戦いを見ていた。